「逆説のスタートアップ思考」ーー反直観的な思考で新しい価値を生む

悪く見えるアイデアだが……

「イノベーションを起こすためにスタートアップに挑戦したい」と真剣に相談してきた友人が持ってきたアイデアが次のようなアイデアだった。

  • 多くの人に理解されずバカにされそうなアイデア
  • 難しい課題に取り組むアイデア
  • 説明しにくいアイデア
  • 小さな市場を選んでいる

あなたは友人を止めたくなるかもしれない。

一方で、スタートアップ独特の思考法を理解していると、こうした「悪い」アイデアを選びたくなる。「一見悪いように見えて、実は良いアイデア」のほうが、スタートアップが急成長を遂げるチャンスがあるからだ。

Airbnbの「見知らぬ他人の家の空きスペースに泊まる」アイデアは、犯罪率の高い米国では、当初、到底成功するアイデアとは受け取られなかった。

Googleの「広大なウェブに点在する情報を検索できる精度の良い検索エンジンを作る」というアイデアは技術的に難しく、収益性があるのかもわからなかった。

AirbnbもGoogleも、当時の世間では、「まさか」、「難しい」と思われたアイデアだったが、テクノロジーを駆使して困難を乗り越え一気に事業をスケールさせて急成長を遂げた。本書の第1章「アイデア」では、直観的には「悪く見えるアイデア」に、なぜ急成長のチャンスがあるのか、1つ1つ分かりやすく解説されていく。

誰も選択しないアイデアがなぜ良いのか

スタートアップは、「誰も手を付けていないアイデア」、「まだ世間のコンセンサスが取れていないアイデア」を選択して、急成長のチャンスを狙う必要がある。外部環境の変化や、ユーザーも気づいていない潜在的なニーズを、真っ先に掴む「気づく能力」、「スピード」を武器にアイデアを実行し、まだ世間の理解が得られない段階で市場を独占していく。その後、独占した市場が成長していくと、スタートアップは一気にスケールして急成長を遂げられる。つまり、巨大企業がやりたがらないようなアイデアには、市場を独占し、スケールする可能性があるというのが1つ目の理由だ。

2つ目の理由は、社会的課題解決など複雑で難しい課題の方が、結果として、支持されやすく成功しやすいということがある。例えば、成功経験のある人ほど、社会的意義のある取り組みに共感する傾向が強い。優れた技術者は技術的に難しい問題の解決に熱意を持つ傾向にある。優れた技術者のまわりには、さらに技術者が集まる傾向もある。このような支援や優れた人材の獲得は、リソース不足のスタートアップにとっては極めてありがたい。

また、大きな課題には、法律・規制・既得権益などが絡み、そうした領域に踏み込むことは誰もが嫌がり、競合のいない市場が手付かずで残っている場合がある。その「面倒な仕事」に着目して、技術などによって劇的に改善することができれば、スタートアップは、課題解決だけでなく、競合のいない市場を独占できる大きなチャンスを掴める。

良いアイデアなのに、なぜ悪く見えてしまうのか

しかし、このように実は良いアイデアであっても、悪いアイデアに見えたり、世間に受け入れられないのはなぜか。

人は、初めて聞くアイデア、しかも「まさか」と反応してしまうようなアイデアが意味する内容をすぐには理解できないからだ。既存のカテゴリーに当てはまらないアイデアは、わかりずらく、説明しにくいものだ。顧客すら気づいていない新たなカテゴリーを見つければ、そのアイデアには急成長するチャンスがあるのだが、理解が追い付かずに、悪いアイデアに見えてしまいがちだ。

私はグロービス経営大学院が7年前から行っているビジネスプランコンテスト「グロービス・ベンチャー・チャレンジ」の企画運営で、延べ200を超えるビジネスプランの評価や入賞プランへの出資業務に関わってきた。

ビジネスプラン評価では、その事業アイデアの成長可能性を測るべく、市場規模や競争優位性について考える。その時に、本書で紹介されているスタートアップ的な思考に反して、「自分のビジネス経験」や「顕在化している顧客ニーズ」をものさしにして、アイデアの良し悪しを判断していることに、ハッと気づかされることがある。スタートアップ的な思考を重視しているつもりでも、自分の常識を取り払って、反直観的に思考や判断をすることは難しいということを痛感する。

スタートアップ独特の思考法でイノベーションに挑戦する

より多くのイノベーションが求められる現代社会、スタートアップのように急成長する事業形態の重要性はさらに増してくる。企業間のオープンイノベーションの取り組みも盛んになり、スタートアップとの協業や買収を検討する企業も増え、関わりを持つビジネスパーソンも増加している。

しかし、上述のようにスタートアップという事業の考え方や方法論は、普通のビジネスに当てはまらないことが多くあり、スタートアップに初めて関わる人たちの目には異質なものとして映ることが多いだろう。自分の直観で判断すると、急成長の可能性を持ったアイデアや市場に対する判断を誤ることになるかもしれない。

これから新規事業やアクセラレーションプログラムを担当して、スタートアップを理解していく必要がある人は、本書を1冊目の入門書としてぜひ手にとってほしい。多くの人にスタートアップ独特の思考法を理解しもらうことを意図して、短く、わかりやすく説明されている。

著者のやさしくも冷静な言葉は、スタートアップを志す人を身近で支える家族や社員にとっても、大いに参考になるはずだ。本書を読み終えたとき、新しい価値を生むことへの高揚感が体内に満ちて、自分らしい挑戦の一歩を踏み出したくなる読者が多いだろう。

逆説のスタートアップ思考
著者:馬田隆明 発行日:2017/3/8 価格:902円 発行元:中央公論新社

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