絶好調のZoom、第二のセールスフォースとなるか―SaaS企業の宿命を超える

さる8月31日、ビデオ会議ソリューションを提供する米zoomが第二四半期決算を発表しました。売上高前年同期比355%増の6億6350万ドルと、アナリストの予想を1億ドル以上上回る、驚異的な伸びに株式市場が沸きました。売上高に占める新規顧客比率は80%に達しています。米エクソンモービルなど大手が新たに同社の顧客リストに名を連ねたほか、年額10万ドルを超える契約も千社を超えました。

忘れてはならないのは、同社がクラウド上のソフトウェアをサービスとして提供する「SaaS(Software as a Service)」企業であるという点です。奇しくもZoomの決算発表と同日、約100年間ダウ採用銘柄であったエクソンモービルに代わり、米CRM大手セールスフォースが初のSaaS企業として同指数に採用されたことは、今の時代を象徴しています。

(参考)ゼネラル・エレクトリック社とダウ平均から考える株価指数のしくみ

このように、SaaS企業に追い風が吹く中、Zoomの成長を阻むものはないのでしょうか。

コロナ禍で急拡大する顧客要求との隔たり

下図は、汎用的なZoom機能と顧客の求める機能性との間に生じつつある隔たりをイメージしたものです。

一つは、「業務特化型の隔たり」です。ここはコロナ以降に膨れ上がった個別・具体的な機能の不足を感じている状態です。

会議利用の枠を超えて、無観客ライブの配信や高額商品のオンライン接客などのさまざまなチャレンジが行われたことで、利用シーンに特化した多様なニーズ(またはペイン・ポイント)が顕在化しつつあります。加えて、意思決定におけるインテリジェンス機能や研究開発におけるコラボレーション機能など、未開拓のハイエンド市場で新たな要求が生まれる可能性もあります。こうしたニーズにZoomは応えられていないのが現状です。

もう一つは、「機能過剰型の隔たり」です。ここは上記とは反対に、Zoomの有料プランに契約してはいるものの、やや過剰と感じている状態です。

Zoomの法人利用の最低額は月15ドルのサブスクリプションと、安価です。コロナ禍で教室などを開くフリーランスや個人、といったローエンド市場が拡大し、第二四半期売上の3分の1を従業員10名未満の小規模事業者や個人が占めるまでになりました。しかし、今後の感染収束やワクチン開発次第で不要(機能過剰)と判断されれば、すぐ退会や無料会員化する危険があります。無料会員の増加はコスト増として自社に跳ね返りかねません。

SaaSビジネスの宿命、「垂直型サービス」と「解約防止」がカギ

ZoomをSaaSに置き換えて考えると、実はSaaS企業が成長過程で通る共通の課題が見えてきます。

オンプレミス(保有設備で自社運用すること)が主流の市場に、クラウドという破壊的技術で市場への浸透を図る挑戦者の時は、顧客の求める根源的・普遍的な価値を磨いて訴求することが自社の成長に寄与します。しかし、クラウド型が広く普及しはじめると、今度は顧客市場ごと(一般にインダストリー別)に異なる要求が出てきます。これらの要求と自社のサービスの過不足を放置すると、顧客離れはおろか、大きな市場を競合に奪われることになるのです。

具体的には、特定セグメントや特定業務の顧客体験価値を磨く「垂直型サービス」の充足と、機能過剰に敏感なセグメントの「解約防止」がカギとなります。

ビデオ会議市場の例に戻ると、コロナ禍で急拡大した顧客のために各地で新たなデータセンター開設へ投資を振り向けながら、上記のような個別・具体的なソリューション強化にどれくらいのスピード感でリソースを割けるかが焦点となります。

Zoomは、6月にはプライバシーへの懸念払しょくのため、すべてのユーザーのEnd to End の暗号化を発表したほか、7月には自社のビデオ会議体験を快適にする専用端末(北米価格599ドル)の発売を明らかにしました。これらは全セグメントに共通の機能性向上やオプションの提示であり、コスト負担を伴うものです。ハードの在庫を抱えながらどこまで「解約防止」につなげられるか、無料会員を含む暗号化で膨れたコストをどう回収するのか、今後の動きが注目されます。

警戒が必要なのは「垂直型サービス」です。間隙を突くかのように、特定業務・利用シーンの体験価値を高めたビデオソリューションや、リッチなビデオ体験を付加するAPIなどで勝負するスタートアップが続々と誕生しています。

Zoomは今のところ、ビデオ・音声コミュニケーションのプラットフォームを広く水平に拡大する姿勢を崩していません。カスタマイズを顧客自身に委ねる代わりに、アプリケーション連携を支援する「App Marketplace」を充実させてきましたし、ビデオ体験をリッチにするカメラ・エフェクトなどの機能は積極的に基本機能に載せてきました。

9月中旬、狭く深く顧客に刺さる垂直型プレイヤーとの関係に一つの解が見えました。教育に特化した「Class for Zoom」を開発した独立系の垂直型プレイヤーを、Zoomは自社公認のプラットフォーム再販業者として契約したのです。この動きは、自社の圧倒的な顧客基盤と盤石なプラットフォームの優位性を活かして、医療や行政などの業界別ソリューションパートナーや垂直型プレイヤーとの関係を次のステージへと向かわせる第一歩となりそうです。

折しも、米アップルがアップストアを開設してから12年が経過し、ユーザーへの直接課金を巡って、プラットフォーマーとアプリ開発者との関係が調整局面に入っています。

Zoom創業者のエリック・ユアンは日本経済新聞社のインタビューにこう答えています。「大切なのはカスタマーであり、エンドユーザーのニーズに応えること」。顧客の声に常に耳を傾け、垂直型プレイヤーと良好な関係を築きながら、健全なエコシステムを構築することがSaaS企業の持続的な成長に欠かせなくなっています。

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