組織が変わるための支援とは?-『両利きの組織をつくる 大企業病を打破する「攻めと守りの経営」』

『両利きの経営』を実践するための手引書

両利きの経営』を読んで、大きなインパクトを受けたものの、自社で実現しようとする際の肝は何か?経営トップでない自分がどのように実務に活かせばいいのか?と率直に思った方もいるのではないか。そんな疑問に対して、組織経営論・組織開発のアプローチから1つの答えを提示する書籍が『両利きの組織をつくる』である。

本書は組織開発コンサルタントの加藤雅則氏が、『両利きの経営』の著者であるオライリー教授らにAGC(旧旭硝子)での組織開発事例を紹介した事を契機に書かれたものである。AGCでの具体的な事例、組織開発に関わる理論、著者加藤氏の実践経験からの示唆の大きく3つのパートから構成されている。

AGCの変革事例は後から振り返ると両利きの経営に合致していた、という試行錯誤の賜物であり、詳細は本書を手に取ってもらいたいが、本書を通じて皆さんにご紹介したい事が2つある。

「両利きの経営」の本質は組織進化論である

1つは、本書では両利きの経営とは、戦略論や組織知識論ではなく、本質的には組織進化論であると定義している点である。

組織が既存の事業を軸足としつつ新たな事業領域の探索を可能とするためには、改めて自社の存在目的を再定義し(WHY/PURPOSE)、どの領域で自社は生き残るのかを見極め(WHAT)、それをどう実現するのかを決める(HOW)プロセスを実践する必要がある。

それらを実現できる組織に進化させるには(A)既存の事業を深掘りする組織能力、(B)新しい事業機会を探索する組織能力、(C)相矛盾する2つの能力を併存させる組織能力を形成することが求められるというのだ。

そして、この3つの組織能力の形成を可能とする組織のカルチャーのマネジメントこそが、両利き経営の核心だと言う。ここでの「組織カルチャー」とは、組織内で想定されている仕事のやり方、仕事に対する姿勢であり、行動規範や価値観として組織に共有されているものである。文化や空気のようにとらえどころのないものではないため、「組織カルチャー」はマネジメントできる対象として捉えられ、意図をもって進化させられる対象とされているのだ。

ミドルが視座を上げ、トップの意志を引き出す

2つ目にお伝えしたい事が、組織の進化に関する組織トップとの係わり方である。

本書では、①トップの意思表示が契機となり、②トップダウンとミドルアップの絶妙な組み合わせが生まれ、③トップが価値判断をしていく、といった一連のプロセスによって組織の進化が可能となるとされている。

だが、私が組織開発の現場に携わる人たちから聞くのは、若手・ミドルが問題意識を持っていても、組織のトップの問題意識を引き出せず、組織変革が進まない実態である。初めの①のステップから躓くのだ。

著者の長年の経験によると、トップに関心を持ってもらうためには、本人にとって組織の問題を下から提案があって初めて判断する問題ではなく、自分が責任を持つ問題だと認識してもらう必要がある。実際、ミドルは「組織への提案」を持参し判断を仰ぎがちだが、実はそのアプローチはトップ自身の経営スタイルへの批判として受け取られてしまい、防御反応を引き起こしてしまうため逆効果である。

そうではなく、トップの意志を実現する組織を作る、という目的論から入り、組織経営の見取り図(WHY/PURPOSE・WHAT・HOW)を提示することによって、トップが関心を持つレベルになってくるという。ミドルが視座を上げて初めて、トップが「組織をどうしたいか」を引き出すことが出来るのだ。この意思表示を持って、初めて①のステップを歩める準備が整うのだ。

エッセンスを絞ってここではご紹介したが、事例・理論・経験からの示唆が詰まった本書は、「両利きの経営を実現させたい」「自社の組織を変えていきたい」そんな問題意識を持っている人にとって実り多き読書となるだろう。是非手に取ってお読みいただきたい。
 

両利きの組織を作る 大企業病を打破する「攻めと守りの経営」

著者:加藤雅則、チャールズ・A・オライリー、ウリケ・シェーデ 発行日:2020/3/5 価格:2090円 発行元:英治出版

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