【特集|DXの神髄】「天動説から地動説へ」意識転換とフラットな企業文化改革でDXを推進する

「売らないお店」など柔軟な発想でビジネスを展開する丸井は、どのようにデジタルネイティブなスタートアップ企業と協業しているのか。顧客視点でDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現している丸井グループ代表取締役社長の青井浩氏に聞いた。*本記事は、2020年7月21日に公開した動画記事を全文書き起こししたものです。

DXは意識のコペルニクス的転換が必要

―コロナを機にDXを推進しようという企業が増えています。貴社はいち早くDXに取り組み、成果を出されています。どのような問題意識から始められたのでしょうか。

青井: DXは、ともすると「ずっとオフラインでやってきたことを少しずつデジタル投資を増やしてデジタルの度合いを高めていけば良くなっていく」と理解されがちです。けれども、大事なのは視点の転換です。「天動説から地動説」に変わるくらいに意識を変えられるかどうか。その意味でDXと言わずにアフターデジタルという言い方をしています。

すでに個人は、オンラインを基盤にした中で毎日生活し、完全にアフターデジタルに移行しています。では企業はどうか。新しい企業は事情が異なると思いますが、私達のように創業90年近い会社や大企業ですと、なかなか難しい。

それがお客様の生活とビジネスとの間に大きなギャップを生むのではないかと思っています。このギャップを埋め、より良い世界を作っていくのが、本当のDXです。個人として生きているアフターデジタルの世界に立脚してビジネスを作り直していく。そのことが、すごく大事なんじゃないかと思います。

丸井は全国に30店舗ぐらいありますが、インターネットでいつでもどこでも何でも買える時代に、店舗が相変わらず物を得るための場所で本当に価値を提供できるのか。物を売ることを否定するわけではありませんが、我々は「売らないお店」をつくり、体験を提供しようとしています。

具体的にはFABRIC TOKYOさんやBASEさん、メルカリさんと提携しています。例えば、メルカリはオンラインだけで完結するサービスですが、「メルカリステーション」を丸井の店舗に出しています。このお店に、少し年配の方がいらして「出品してみたいんだけど、どういう風にするのかしら」とお聞きになる。担当者が使い方を説明して、その場で配送できたりすると「そういう風に使うのね」とメルカリユーザーが増えたりします。

このようにオンラインかオフラインかで戦うのではなく、協業することによってお客様や社会に対して新しい価値が創り出せるんじゃないか。そう考え、様々なスタートアップ企業と提携しています。

オープンイノベーションの難しさは、人材にあり

―実際スタートアップと協業されてみてのご苦労や、難しかった点は何でしょうか。

青井:やはり人材の点ですね。いまDtoC(Direct to consumer)企業を中心にいろいろなスタートアップと協業させていただいています。一般的にオープンイノベーション(スタートアップと大企業の協業)は、なかなかうまくいかないと言われていますが、私たちは社員をスタートアップに出向させることで、そのハードルを乗り越えようとしています。

それでもなかなか難しい。当社担当者が一線を踏み越えられないことがある。

例えば、今、サステナビリティ企業で再生エネルギーをやっている「みんな電力」さんと協業をしています。

当社の約700万人強いらっしゃるクレジットカード会員の方たちにアンケートを取ると、6割ぐらいの方が再生エネルギー電力を使いたいというご希望をお持ちです。その方々に「みんな電力」をお勧めし、電気代の引き落としを当社のカードでやっていきましょうということで進めています。

「みんな電力」さんはサステナビリティ企業なので、プラスチックに抵抗がある。「プラスチック以外の素材や海洋プラスチックを加工したものでカードをつくれませんか」という提案をくれるわけです。

これは素晴らしい提案です。そういうカードが欲しいというお客様が700万人の中に必ずいらっしゃるはずなので、いいチャンスを与えていただいているということなんです。

ところが、当社の担当者が全く悪気なく「インターナショナルブランドは規制もあって、そういうのはできません」とストップしてしまったりする。

これを乗り越えていくことに協業の意味があります。これを乗り越えるには、事業会社の社長ぐらいの立場から後押ししてあげないといけない。そのために今、本業と同じぐらいのウェイトで協業を進めていくために新しい体制を作っています。

今は出資協業先ごとに執行役員が責任者としてつきます。その執行役員のもとに、兼業のプロジェクトチームメンバーを指名して、プロジェクトチームごとに協業を担当する形にしました。

フラットな組織文化に変革できるか―アフターデジタルを実現する鍵

―アフターデジタルを組織で実現していく上で大事なことは何でしょうか。

青井:2段階あると思います。アフターデジタルは視点の転換なので、勉強して頭でわかっても体が動かないということが多い。なので、デジタルネイティブ世代のスタートアップと協業してみるというのが一番いいのではないかと思います。

一緒に仕事をしてみると、彼らの常識に刺激されます。アフターデジタルが当たり前なので、コロナでリモートになっても「元々リモートで仕事していますから、全然困りません」と言いますし、「やっぱりface to faceで会わないと、ブレストしにくいよね」と聞くと「最初からオンラインでブレストしていますから、全然問題ありません」と言われます。

「そうか、そこは全然、乗り越えられるものなのか」ということを仕事を通じて学ぶことができます。自然と意識が切り変わっていく。そうすると、デジタル投資もどこにどんな投資をしたらいいかということが見えてきます。これが最初のステップ。

次の段階は、スタートアップと協業できるようにするにはどうしたらいいか。これは結構、厄介です。大企業特有の昔ながらの上意下達の文化や指示命令的な仕事のやり方を、フラットで対話をベースに進んでいくような「対話型の企業文化」に変えていかないといけない。

スタートアップの方からよく「協業といっても、(大企業は)なんとなく上から目線」「未来志向の話より昔話が多い」など、協業先と食い違うという話を聞きます。

大企業とスタートアップは、どちらが上でどちらが下ということではなく、ただポジションが違います。補完し合える立ち位置に両者がいるからこそ協業すると価値が上がる。それができるようにフラットな企業文化をつくれるか。それがオープンイノベーションを成功させるためにすごく必要だと思っています。

逆に言うと、企業文化の変革さえうまくいけば、デジタルネイティブ世代との協業もうまく進みます。協業がうまくいくと、結果的にアフターデジタルの視点で、成果の出るDXが進められるのではないでしょうか。

DXとは:企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。(経済産業省「DX推進ガイドライン」より)

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