UXを議論しないDXは本末転倒:とりあえずデジタルという日本企業が陥りがちな認識の誤り
大きな反響を呼んだ前著『アフターデジタル』から1年と少し、早くも大幅なアップデートを行った第2弾『アフターデジタル2』が発売された。
新型コロナウイルスの影響を受け、日本でも一気にオンライン化が進んだ。これに伴い、企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の重要性が高まっている。一方で、オンライン化・デジタル化自体が目的化し、顧客の体験価値(UX)をどう進化させていくかの議論がなされないまま、表面的なDXを進めてしまう事例も増えていると著者は警鐘を鳴らす。
そうした現状に危機感を抱いた著者の主張は、「まえがき」に集約されている。「UXを議論しないDX、顧客視点で 提供価値を捉え直さないDXは、本末転倒である」ということだ。
本書はまず、前著『アフターデジタル』の総まとめから始まり、最新の中国企業事例の紹介とそこから読み取れるアップデート、そして日本企業が陥りがちな認識の誤り(とりあえずデジタルをやるべき、データは財産という幻想、など)についての指摘へと続いていく。
多様なUXを個人が選び取り、なりたい自分に近づける社会へ
本書の中でも、未来へ向けた日本企業への提言となっている第4章が特に重要だ。
4章前半では日本という国の特性を踏まえ、著者が考えるアフターデジタルの社会の理想像が語られる。
利便性を軸にIDを総取りして秩序を保つ中国のモデルとは異なり、 意味性に富んだ「世界観型ビジネス」が多様に生まれ、人々にはUX(ユーザーエクスペリエンス)選択の自由が担保され、 結果、人がその時々で自分に合ったUX・ジャーニーを選び取れるような社会を志向しています。
つまり、すべてがデジタル化していく中で、UXが集約し自由が奪われていくのではなく、たくさんの選択肢の中からより自分らしいUXを「その時々で選べる」ような社会、そして、リアルとデジタルが融合する中で、テクノロジーを駆使し、これまでできなかった「人の行動を変え価値に結びつける」ことにより、誰もが「自分がなりたい姿に近づける」社会を目指そうということだ。
「その時々で選べる」は、例えば料理をするといっても、人や場面によって「とにかく時短」なのか「手間はかかってもすごくおいしい」なのか、重視するポイントは異なる。それを自由に選べる、ということだ。「なりたい姿に近づける」は、例えばこれまでなかなかダイエットに成功しなかった人も、アフターデジタルの世界観のサービスにより、リアル・デジタルを跨いだ様々な接点で行動を支援してもらうことで、成功確率が高まるかもしれない、ということだ。
「UX企画力」はDXを推進する企業・ビジネスパーソンに必須の能力
4章後半では、そうした社会を実現していくために企業に求められる「UX企画力」が詳述されている。これは、新たなUXを企画し、運用していく方法論だ。おそらく著者のコンサルティングの現場での実践に裏打ちされたノウハウを、専門家でなくても理解できるように、平易な表現と、再現性の高い方法論で惜しげもなく公開している。ここでも、「UX企画力」を、特定のエキスパートが独占すべきものでなく、多くの企業やビジネスパーソンが備えるべきものと考えているスタンスが伺える。
「UX企画力」の中でも、ベースとなるUXコンセプト作りにおいて、特に私がなるほどと思った点は、次の2つだ。
①企業の系譜と環境変化をとらえる
特に歴史のある企業には、これまで重視してきた理念や、存在意義を示すミッションがある。それらを再確認するとともに、現在にマッチした形で価値を再定義するというプロセスが重要だという。企業のDNAが見えてくること、また、のちに社内を巻き込む上でもプラスに働くからだ。その企業ならではの価値提案をすべきという主張ともつながり、納得感がある。
②(顧客の)ペインポイントのゲインポイント化
顧客にどのような新たな体験価値を提供するか(UX)を考える際、特にユーザーのペインポイント=「不幸せな状況」の、こんがらがった構造を丁寧に読み解く、ということが重要だという。多くの人は問題があって解決しようとしていても、色々な要因が絡み合って、解決策を選べないという状況に陥っていることを、正しく認識することがまず大事だ。そしてゲインポイント化=「幸せな状況への転換」では、「不幸せな状況」のどこをどのように変えたら、幸せなサイクルを生むことができるかという「因果」をひたすら考えるのがコツだという。DXは表面的な施策でなく、本質的な価値提供を実現することが大事だということを改めて理解できる。
アフターコロナ/ウィズコロナの時代にすべてのビジネスパーソンに手に取っていただきたい。
『アフターデジタル2 UXと自由』
著者:藤井保文 発行日:2020/7/23 価格:2420円 発行元:日経BP