『KPI大全』-「経営について知る」とは「KPIを知る」こと

ビジネスリーダーなら読めるべき経営の「計器」

私がKPI的な概念に初めて触れたのは、1990年代のなかば、銀行の新米営業担当者として働いていた頃でした。ピーター・ドラッカーの『未来企業』(ダイヤモンド社)という本の中に、「第34章 企業の成績――五つの計器による検査」という章がありました。そこでドラッカーは、自動車を運転する際にダッシュボード上で(スピードメーターや燃料計などの)計器を読むように、企業経営にも五種類の計器が必要だと説いています。市場における地位、イノベーションの成績、生産性、流動性とキャッシュフロー、事業収益性の五種類です。

当時は銀行員としての基本知識を身に着けたかどうかという頃で、利益率や流動比率、在庫回転期間といった財務分析の指標や、融資の稟議書を書く際には必須の、市場シェアやその動きといった情報にはなじみがありました。一方で、イノベーションの成績や生産性という考え方は新鮮で、「なるほど、経営者たる者、こういう視点にも目を配らなければいけないとは、一味違うな」と感じたものでした。

ただ、さしものドラッカーにもこの当時(上記章の初出は1986年)は、これら五種類の計器は「CEO」をはじめとした経営幹部のためのものという前提があったと思われます。あれから四半世紀以上の年を経て、かつてはごく限られたエグゼクティブが知っていればよかった経営知識や視点が、より幅広い立場のビジネスパーソンにとっても期待されるようになっています。「MBA」という形でビジネスリーダーに求められる経営知識のセットが可視化されましたし、かつてに比べれば中堅規模のベンチャー企業の存在感が大いに増しています。

これに対抗して大企業も分社化や新規事業開発を進めてきました。ビジネスリーダー的なキャリアを求めて複数の企業を渡り歩く転職も、ありふれたものになってきています。昔と比べると格段に多くのビジネスパーソンが、企業経営のための「計器」を読めるようになる必要が出てきたのです。

KPI経営の威力と4カテゴリー合計100のKPI

本書は、そんな計器を構成するさまざまな指標、KPI(Key Performance Indicators)について辞書的にまとめた本です。前半では、KPIとは何かの基本的解説の後、2つのミニケースによってKPIを使うことで経営がいかに効果的/効率的に進むか、その威力を描写しています。そして後半では、

 -マーケティング・セールスのKPI…市場シェア、成約率、LTV(顧客生涯価値)など
 -オペレーション・イノベーションのKPI…稼働率、商品ロス率、売上高研究開発費率 など
 -組織のKPI…従業員1人当たり売上高、離職率、従業員満足度 など
 -会計・ファイナンスのKPI…ROE、フリーキャッシュフロー、バーンレート など

の4カテゴリーに分かれて、合計100のKPIについて解説されています。

特に「マーケティング・セールスのKPI」の中には、近年特に存在感を増している、ウェブマーケティング系のKPIも多く取り上げられていて、テクノベートの時代に沿った形になっています。

個々のKPIの解説は「概要-KPIの見方-KPIの使い方-補足・注意点」の形式で、1項目当たり4ページに統一され、読者は関心のあるところをどこからでも読み進められる仕掛けです。

100も収録されているKPIですが、現実にはもちろんその全てを仕事に使っていく必要はないでしょう。どのKPIを重視すべきかは、企業の業種や取っている戦略、あるいはその人の職種や地位によって変わってきます。

ただこれは言い換えれば、見るべきKPIの大よその分類については一般的セオリーがあっても(ドラッカーがCEOなら五種類の計器を見よ、と言ったように)、自分の置かれた環境で具体的にどのKPIを見ればよいのかは、一人ひとりが判断する必要があるということです。たとえば「収益性」に関するKPIを用いるとして、売上高営業利益率がいいのかROIC(投下資本利益率)がいいのか、はたまた「どちらでもいい」のか「どちらでもなく別のKPIがベター」なのか。

そうした取捨選択をするためには、結局は多くのKPIについてその意味合いを理解しておく必要がありますし、自身を取り巻くビジネス環境からも意味ある解釈を引き出す必要があるのです。

マネジメントの知識・スキルを習得したいと志す人は、本書によってKPIという切り口から理解を深めてみてはいかがでしょうか。
 

KPI大全 重要経営指標100の読み方&使い方
著者:グロービス 執筆:嶋田毅 発行日:2020/8/28 価格:2860円 発行元:東洋経済新報社

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