話が噛み合わない理由は“抽象の差”にあった
「この仕事お願いできないかな」
「経験したことないので難しいです」
「この前お願いした仕事と考えるべきことは基本同じなんだけど……」
「えっ、でも結構状況は違いますよね」
極端に書いているが、これは、筆者が昔経験したチームメンバーとのやり取りである。仕事の性質や進め方にフォーカスを当てれば前回も今回も同じと捉えていたのに対して、チームメンバーはあくまでも今回の仕事の具体性に着目していたためとてもやれる自信が持てず、このような噛み合わない話が発生してしまった。なぜこのようなコミュニケーションギャップが発生してしまったのだろうか?
コミュニケーションギャップは、知識と経験という情報量の差もあるが、具体的なものだけを見て話しているか、あるいは一段抽象度を上げたものも見て話しているかという“抽象化の差”が生み出していると筆者は言う。
思考力を向上させるのは、“量”と“質”の拡大
具体と抽象。グロービスのクリティカル・シンキングでもDay1で触れるこの言葉だが、この言葉の意味合いや使い方を深く考えた人は実は多くはないのではないだろうか。
しかし、具体と抽象を理解することで、先程のコミュニケーションギャップの解消のみならず、その他の多くの日々の問題解決につながる。さらに言えば、思考の質あるいは次元が変わる。そうとわかれば、改めてきちんと考えてみようと思う人は多いのではないだろうか。本書の狙いは、まさにそこにある。
本書では、思考力の向上、難しく言えば人間の知の発展を、“量”の拡大と、“質”的な拡大の2つで整理している。前者の“量”とは、知識や情報の”量”であって、我々が学生時代に受けた教育で目指してきたことだ。知識や情報が増えることで“知”が発展するというのは感覚的にわかるであろう。
一方、後者の“質”とは、具体から抽象化して考えられることを指す。「要するにこの業界で大事なことは」「一言で言うと」のように、要点を的確に押さえ表現できる人をイメージすると、“量”だけでなく“質”的な拡大の意味合い、そのメリットがわかるのではないだろうか。
具体と抽象の行き来が、思考の質を変える
他にも、ビジネスパーソンが日々行っている問題解決も、具体と抽象でそのパターンを説明できるとする。
一つは、目の前で起こった具体的な問題に対して根本的な原因を追求せずにその問題の解決だけを行う表面的な問題解決(①具体→具体の問題解決)。あるいは、一般論や曖昧な結論(あるいは精神論)で解決を図る机上の問題解決(②抽象→抽象の問題解決)。これらに対して、具体的事象から共通項や因果関係などを考えて根本的な問題を捉え、改めて具体的な解決策を考える本質的な問題解決(③具体→抽象→具体の問題解決)。
どのパターンがより効果的な問題解決につながるだろうか。言わずもがな、具体だけでもなく、抽象だけでもなく、具体と抽象を往復しながら問題解決を行う③のパターンが、より効果的な解決をもたらすことはイメージできるのではないだろうか。
本書では、具体と抽象という言葉の意味合いや注意点のみならず、具体化・抽象化の仕方、使い方などに、29の演習問題を通じて向き合う機会を提供してくれている。自身の思考力にどこか停滞感を感じる方、改めて考えるという営みに向き合いたい方は、ぜひ本書を開いてみて欲しい。
『「具体⇄抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問』
著者:細谷 功 発行日:2020/3/19 価格:979円 発行元:PHP研究所