【DX特別対談】アフターデジタル時代におけるビジネスモデルの変化とあるべき対応(前編)

コロナ禍により、加速されるDX。世界や社会の変化に適応するために日本企業が理解すべきこととは何か。『アフターデジタル』『アフターデジタル2』の著者である藤井保文氏にグロービス経営大学院教員の鈴木健一が対談した。前半では藤井氏の講演を紹介する。(全2回、前編)

*本記事は、2020年7月15日に公開した動画記事を書き起こしたものです。

藤井保文氏:今日は「アフターデジタル時代におけるビジネスモデルの変化とあるべき対応」についてお話しします。ビービットは20年間、UX(顧客体験)を手掛けてきた会社で、「UX向上をビジネス成果へつなげるアフターデジタル社会へのUX企画力支援パートナー」を標榜しています。

提供するサービスは大きく2つ。1つは、UXデザインコンサルティングです。どんなUXを提供すればいいかなど、よりよい体験になるようコンサルティングをします。もう少し戦略的なレイヤーで「アフターデジタル型に企業を変革させるためにはどうしたらいいのか」という仕事も受けています。

2つめが「UXデータサイクル定着支援」です。UXができるチームをつくっていくなど、そういったケイパビリティを持っていくことを支援するクラウドサービスが「USERGRAM」です。

GAFA、アリババ、テンセントなどのユニコーン企業は、既にUXを経営課題として認識しています。会社によっては、CXO(Chief Experience Officer)がいます。

一方、日本ではUXがデジタルやマーケティングの一部として語られるケースが多い。アフターデジタル時代のビジネスにおいて、UXは重要なビジネスコンポーネントになってきます。ただ現状、そういう企画力や運営力がない企業が多いので、そのケイパビリティをつくっていくのがUSERGRAMです。

ビービットは東京と台北と上海に拠点があり、私は上海オフィスに勤務しています。台北、上海オフィスの顧客の6割は現地企業です。

7月29日に『アフターデジタル2』が発売になります。2019年3月に出版した前著『アフターデジタル』で描いた世界や持つべき視点の変化に対し、本書は「では何をすればいいか」を示した実践編です。

オフラインがほぼない中国で生まれる莫大な行動データ。監視社会という勘違い。

ここから改めて、アフターデジタルについてお話しします。中国はここ3~4年でデジタル先進国と言われるまでになっています。

現在、中国ではオフラインがほぼない状況です。例えば、日用品の買い物では、ほとんどの買い物客がWeChat Payとアリペイというモバイルアプリで支払っています。特に都市部では現金使用率が3%を切ったと言われます。

飲食店に行くと机の隅にQRコードが貼ってあります。それを携帯で読むとメニューが出てくるので、そこから注文をして会計も携帯で済ませます。QRコードを読むときにモバイルアプリを使って読むので、顧客のアカウントが読み込まれ、無銭飲食ができません。フードデリバリーもかなり普及していて、知り合いはみんなフードデリバリーのアプリを落としていますし、街中のほとんどのレストランがフードデリバリーを実施しています。フードデリバリーが既に食のインフラになっています。

また、シェア自転車は一般的な交通インフラになっています。私が住む上海でも、街中のそこら中にシェアリングの自転車が置いてあります。専用アプリで、自転車に貼ってあるQRコードを読むとIoTロックが外れて運転できるようになります。タクシーの配車アプリもごく一般的に利用されています。

日本と中国の環境の違いを考えると、日本が同じようにはならないかもしれません。ただ、グローバル全体で既に同様の変化が起きているし、日本でも遠からずそうなると思います。オンラインがオフラインを覆い尽くし、オフライン行動だった生活、例えば飲食や移動がどんどんデジタルデータ化していき、個人のIDにひも付いていきます。

従来はウェブ上で残る行動データはたいしたことはなかった。しかし、実際に歩いて移動する、電車に乗る、食事をする、これがすべて行動データとして保存され蓄積されることになれば、超高頻度で超膨大な行動データが出てくる時代になります。そのデータをしっかり使えるかどうかが企業の生死を分ける時代になるでしょう。

信用のスコアリングは日本では監視社会の温床のように報道されますが、その認識は誤りです。国とアリババのスコアリングは全くの別物です。

ではアリババの信用スコアは何をやっているか。中国人の75%に信用情報がないと言われています。信用情報がないと、お金を借りられなかったり、都市部で家を借りるときに後回しにされたりします。でも信用情報がないからといって、お金がないわけではありません。

その点、アリペイから購入履歴が分かると、消費行動からその人の支払能力が把握できます。すると、これまで信用情報がなかった人も行動データの蓄積で信用が生まれるというわけです。

行動データを蓄積して使えるようにすることで付加価値を増やしたり、新たなサービスをつくるイノベーションを生み出したりできます。

これを踏まえてアフターデジタルと言っています。中国でビジネスをする中で、日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)の立脚点が間違っているのではないかと思い始め提起したのが、アフターデジタルという考え方です。

リアルの重要性が薄れるわけではない。リアルとデジタルが融合する世界の到来

日本企業はリアルが中心でアセットの比重も大きい。リアルに対してデジタルを付加価値のように「いつも店舗で会える顧客がたまにアプリに来てくれる」といったイメージで捉えている。とにかく店舗中心で「デジタルで少し価値が増えればいい」くらいの考え方です。

ただ今やリアルはどんどん侵食され、今後は純粋なオフラインのリアルがなくなっていくでしょう。最終的にはデジタルがリアルを完全に内包する構造に変わっていくと思います。

この状況を考えると、いつもアプリやWebやSNSで接することができている顧客がたまにお店に来てくれるという構造に変わっていくと思います。

こう話すと「リアルがあまり重要ではないということですか」とよく聞かれるのですが、全くそうは思っていません。いつも「そんなことはない。むしろリアルが重要だ」と答えています。そもそも「デジタルの世界になる」と言っているわけではないし、リアルとデジタルを分けて考えていません。デジタルが来た、そのアフターなので「デジタルとリアルがほぼ融合した社会になる」ということが、実はメインで言いたい言葉だったりします。デジタルとリアルを分けて考えること自体が本質的ではなくなってきていると思います。

ただし、リアルは重要は重要なのですが、顧客と接する接点の頻度としてはレアになっていきます。例えば、フードデリバリーをほぼ毎日頼むとレストランに行かなくなりますよね。すると今度はレストランに行くことが特別になり、むしろ今まで以上に期待値が高まります。

とはいえ、接点としては「いつもフードデリバリーを頼んでいるからたまには外食をしよう」という構造なので、利用頻度は下がってくる。例えば、普段は自宅でNetflixやHuluを見ているからたまには映画館の大きなスクリーンで見たい、IMAXや4Dで見たい、と思うのと同じ構造です。これは現時点でも既に起きていることです。

ですから、視点を大きくアフターデジタルに転換してDXを進めないといけない。今や社会構造や一般の人々の認識がアフターデジタルに寄ってきているので、それに合わせた企業構造、ビジネスにしないと社会に適合した形にならないからです。アフターデジタルを社会や時代の変化と捉えることです。

属性データから行動データの時代に:最適なタイミング×コンテンツ×コミュニケーションをコントロールする

ではビジネス側において一番大きな変化は何か。それが次のスライドです。

これまでは属性データの時代。逆に言うと、属性データぐらいしか取れなかった時代と捉えられます。商品A、B、Cに対して属性A、B、Cというのがあると、最適なターゲットに振り分けることができます。その人の属性に合わせた商品づくりやマーケティングがされるということです。

ただ、今は行動データが膨大に出てくる時代なので、できることが大きく変わっています。「最適なタイミングが分かって、それに合わせて最適なコンテンツを提供する」、自分が欲しいタイミングに欲しいコトやモノをくれる。コンテンツは商品だけではなく、イベントでも温かい言葉でもウェブ記事でも何でもいい。それを、その人に合ったコミュニケーション方法で提供できるのが、行動データの時代なのです。

このデータを理解するには、人間観のようなものも関わってきます。属性データは結構荒っぽいデータなので、極論すれば「25歳で給与がこれぐらいの人は全員一緒」という話になる。とはいえ、そういう属性に属していたとしても、ビジネスをしているときの自分とスポーツをしているときの自分、家族と一緒にいるときの自分だと、人格やモードが大分違う。スポーツをしているときに、いきなりビジネス書をお勧めされても「後にしてくれ」と思うでしょう。それぞれのモードや状況に応じて人格は変わる。

だから、そのモードや状況に応じたデータをとっていくのが行動データです。つまり、人間観として「状況と集合体として、人間というものが構成されている」という考え方がここで適用されているわけです。この人間観は実態に即していると思います。行動データをきちんと活用できると、その人のモードや状況に合わせた最適な価値提供ができるようになります。

その観点からするとモノを売るタイミングが5年に1回、10年に1回というビジネスの場合、最適なタイミングが分からない。5年に1回のタイミングであれば、それが3つ溜まるまでに10年、15年もかかってあまり意味がない。

では毎日コーヒーやパンを買うコンビニやコーヒーショップならいいのかというとそうでもない。「この人はいつも午後にコーヒーを買いに来る」ことは分かっても、最適なコンテンツが基本的にはコーヒーとしか分からないので価値提供の幅は狭い。

最適なタイミング×コンテンツ×コミュニケーションのコントロールという意味合いでいうと「モノを売る」だけでは、多分うまくいかない。むしろその人の置かれた状況や、なし得たい自己実現に合わせてソリューションを提供し、その中でできるだけ高頻度に寄り添っていく。それによって高頻度な行動データが取れていく構造になると、最適なタイミング×コンテンツ×コミュニケーションの価値提供ができるようになります。

企業競争の焦点が製品販売から体験提供へとシフトしていくわけです。アフターデジタルの時代、企業はこれに対応していかなければなりません。

既にオンラインとオフラインが一体化している社会の変化と企業のズレ

アフターデジタルという考え方の中で、成功企業が共通で持っている思考法をOMOと言っています。OMOとは、Online Merges with Offlineのことで、オンラインとオフラインが融合するといった意味合いです。これは中国発祥の言葉で、2017年の9月ぐらいに言われ始めましたが、その後使われなくなりました。もはや当たり前の概念になっているからです。

アレクサに「アレクサ。冷蔵庫の中に入っている牛乳の数を数えて、いつもより足りなかったら買い足しておいて」と言ったとします。これはもはやオンラインなのかオフラインなのかよく分からないし、考える意味があるのかと思います。ユーザーは便利だったらどちらでもいい。もはやオンラインとオフラインを分けて考えていない。これが世界の状況であり、ユーザーの認識なのです。

一方、企業はどうか。多くの場合、オンラインとオフラインで部署が分かれ、連携していない目標やKPIで動き、チャネルで完全に分断されているケースがほとんどです。

つまり、社会はOMO的にアフターデジタルになっているのに、企業はそれを融合させた構造になっていない。ズレてしまっている。これをズレのない構造にし、統合的に顧客に価値提供をするというのがOMOという考え方です。オンラインとオフラインを分けるのではなく一体の、ある意味ジャーニーとして捉えます。

基本的にはオフラインがどんどんなくなり、ほとんどがオンラインになるので、例えばリアル店舗であっても、今までウェブで実施していたA/Bテストを活用することもできます。そういった原理を使いながらリアルも考える。両方を統合して考えることが重要だと思います。

行動データを集めることより、価値提供が重要。エクスペリエンス×行動データのループをつくる

ここまでお話しすると、行動データに目が行き過ぎるケースがあります。特に『アフターデジタル』を読んだ方から「どんな行動データを取ればいいですか」「どれくらい包括的に取っていけますか」「どんなふうに、どこと組めばいいですか」とよく質問されますが、これは少しズレがあるなと思っています。行動データを集めることではなく、新しい価値提供がきちんとできるかどうかが目的だからです。

かつ価値提供ができて体験が便利だから、行動データが溜まっていく。何となくいいと聞いてダウンロードしたアプリを1回使ってやめることがありますよね。ダウンロードしたデータは溜まっていますが、1回使ってやめると行動データは蓄積されていかない。シーケンス型など時系列で行動が蓄積されていかないので、データとしてあまり意味がなくなってしまうのです。

一方で体験が良くてずっと使い続けると、その人がサービスをやめそうなときも分かりますし、何かしらの商品を買いそうなフラグを立てることもできます。そう考えると、やはりエクスペリエンスのほうが重要であると言えます。

ですから、便利か楽か、使いやすいか、楽しいか、感動するか、というような体験品質が生き残りを決めている。ここから得られたデータ、オフライン行動をすべてデジタルデータ化し、その保有や活用が鍵になります。ここで得られたデータをさらにエクスペリエンス側に返していくと、さらにユーザーが残ってくれて使用頻度が上がり、さらにデータが溜まり、体験がもっとよくなる。エクスペリエンス×行動データのループをつくっていくことが、アフターデジタルにおけるビジネスの本質です。

どんな価値を提供するのか、それについてどんなエクスペリエンスがついてくるのか。エクスペリエンスが良くても行動データが溜まっていかず、ユーザーのことが分からないという状況になると、何が起きているかを可視化することもできなければ、サービスの改善も遅くなるので、他社に負けてしまいます。

だから、できるだけ行動データを取りに行ってエクスペリエンスをさらに改善する。このループの速度が速ければ速いほど、競争力を増します。あくまでデータ取得を見据えた、エクスペリエンス競争市場であると捉えていただくとよいと思います。

行動データの時代到来で産業構造が一変する、決済プラットフォーマーがトップに

行動データの時代になると、産業構造が様変わりします。今までは良いものをつくるプレイヤーが強く、メーカーがトップに立つ構造でした。けれどもアフターデジタルの時代においては、行動データを得て顧客の状況を細かく精緻に理解しているか、しかもその量がどれだけあるかが重要なポイントなり、それが可能なプレイヤーが上位にきます。

そうすると一番上にくるのが、決済プラットフォーマーです。日本ではまだここまでラディカルな構造にはなっていませんが、中国では既にこうした構造になっています。アメリカではGAFAが一番上ですが、中国の場合はアリババやテンセントが一番上にきます。

決済データがあれば、ユーザーがどんなものを買っているかという志向性も分かりますし、かつどれぐらい消費をしているかという支払能力まで分かってしまう。しかも、業界横断でそういったデータが集まるから強い。

1つ下がってサービサーはどうなるかというと、移動や飲食、旅行、動画など業界ごとに圧倒的なUXで圧倒的なユーザー数を抱えるプレイヤーが覇権を握る形になります。

ではメーカーレイヤーはどうなるか。上位のレイヤーが持っている情報や接点がないと、ユーザーにリーチしたり、理解したりすることができなくなるので正しくモノが売れない。そもそもユーザーの心がサービサーやプラットフォーマーに移行してしまっています。例えば、デリバリーサービスのためのバイク、自転車を作るとか、タクシー配車サービスのための車やドライブレコーダーを作るというように、そのサービスのパーツを作るという構造になってしまうということが見られます。

日本はまだここまでの状況ではありませんが、行動データを持っているほうが顧客を理解でき、価値提供を増やせるという意味では、同じようなことが起きると思います。

後編に続く

(文=荻島央江)

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