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正しく「考えること」は難しい。だからこそ面白いー『入社1年目から差がつく ロジカル・シンキング練習帳』出版記念座談会(前編)

投稿日:2020/08/11更新日:2021/10/27

さる6月末に発売された『入社1年目から差がつく ロジカル・シンキング練習帳』(東洋経済新報社、グロービス著、岡重文執筆)が非常によく売れており、あっという間に3刷まで増刷がかかりました。今回は本書の発売も記念し、執筆者である岡重文に加え、松井孝憲、渡邉由美の3氏をお招きし、改めて「考える」ということについて座談会を開きました。3人ともグロービスの思考FG(FGはFaculty Group=教員グループの略)に所属している、「考えること」の一人者です。その意味で、グロービスが「考える」ということにどのような問題意識を持っており、各人がそれにどう取り組んでいるのかということの一端もうかがい知れると思います。(全2回、前編。後編はこちら

グロービスの思考系講師のバックグラウンドやこだわりとは?

嶋田(司会):まず簡単に自己紹介からお願いします。

渡邉:思考FGとカネFG(会計やファイナンス等を扱う)を兼務しています。講師活動の他、カリキュラムの設計や教材作成などをしています。またGAiMERi(グロービスAI経営教育研究所:GLOBIS AI Management Education Research Institute)に所属し、AIを活用した教育の研究にも参加しています。

グロービスに入る前はコンサルティングファームとベンチャーにいました。いずれもプロジェクト単位で働く仕事で、考えるテーマも、一緒に働くメンバーもプロジェクトごとに一定期間で変わっていく環境でした。その中で、テーマや環境が変わってもいつも役に立ったのがロジカル・シンキングでした。ビジネスパーソンの方々は環境も抱えておられる課題も様々と思いますが、どなたでも役立てていただける内容と思いますので、ぜひそれをお伝えしたいと思い、グロービスでは主に思考系科目の講師をしています。

松井:僕もコンサルファームにいた後、NPO法人でソーシャル系の事業経営に携わっていました。グロービスではクリティカル・シンキングといった思考系の科目の講師をしています。ちょうど今は、オンラインのクラスのファシリテーションをどうすればより効果的にできるかということなどに取り組んでいます。

もう1つ、現在KIBOW社会投資(グロービスの社会投資活動)にも携わっています。社会課題の解決を目指す起業家への投資や、投資先の起業家の経営に伴走する仕事です。これまでにコンサルタントから経営者、投資家と立場が変わる中で、「モノの見え方の違い」というものを強く意識するようになっています。

:私はまずシステムの会社に入ったのち、少しコンサル業界にいて、その後グロービスにジョインしました。もうグロービスにはおよそ20年いて、講師も18年ほどやっています。最初に講師を担当したのがクリティカル・シンキングでした。それ以来ずっと思考領域に携わっています。「考える」というテーマはいまだに自分自身、奥が見えないこともあり、今でもアップデートしていないといけない分野で面白いですね。

最近の関心は、やはりオンラインクラスになった場合に、どういうコミュケーションや学び方を提供すると効果的なのかといったところです。あと、しばらく前からはAIをいかに活用して考えるという行為を効率化するかということにも関心を持っています。「テクノベート・シンキング」なども教えています。当面はこの2つのテーマを追求していきたいですね。

嶋田:オンラインについていうと、単にオンラインクラスで「教える」ということだけではなく、今回の新型コロナの問題もあり、「働き方改革」の中でいかに良いミーティングをするかなどにも関連しそうです。社会的にも大きなテーマですね。

:そうですね。

嶋田:ところで皆さんが仕事やプライベートで「考える」ということについて自分なりにこだわりを持たれている点はどんなところでしょうか。姿勢に関することなどでも結構です。

渡邉:私は、満足しないというか、分かったつもりにならないように気をつけています。自分が得意な事柄だと、「わかった」と思った瞬間にそれ以上見なくなりがちなので、そうした時こそ他の考え方はないのか、ということを自問したりします。知らない事柄は意識しなくても学ぼうと思いますが、なまじ知っている分野では、意識して深く掘り下げる習慣を持つと効果的と考えています。

メタレベルで自分を眺められると強い

松井:いま非常に意識しているのは、「この人は話が分からないな」と思う人にも、その人にとっての根拠というか一理はある、ということです。お互いにそれぞれの合理を持っている中で、完全には分かり合えないまでも、「自分たちのやりたいことは、こういうことだよね」というコミュニケーションを図り、物事を前に進めていくということの重要性を意識しています。

実際、あるべき姿が完全に一致するわけでもない中で仕事を前に進めるというのはよくあることです。その中で、そうした意識をもって相手と仕事を進めることが大事と最近実感しています。グローバル文脈になるとなおさらですね。

:私も、自分の考えはしょせん自分の考えに過ぎないという謙虚さを持つことを意識しています。自分の考えというのは、自分の持っている情報と、自分の視点と、どういう視点で評価しているのかということの3つで形成されるわけですが、これは相手が変わると当然変わってくる。自分の意見というのはその中の1つに過ぎないということは意識しようと心がけています。

私はもう1つこだわりがあるのですが、そうしたことができるためにも、自分を客観視できる自分を持つように気をつけています。「こう考えている自分の前提は何だ?」ということをもう1人の自分が見ている印象です。

嶋田:いわゆるメタ認知の力でしょうか。それはどうしたら高まるものですか?

:心がけるしかない、という側面もありますが、そうですね……現実に、「こうだったかもしれない」と気づくシーンがしばしばあるわけです。その都度都度の経験、特にミスった場面を振り返って、「今違う前提で物事を見ていたかも」と考えるようにはしています。

昔は講師などをしているとき、後ろで別のスタッフが見学するということもあったのですが、「岡さん、さっきの学生の質問は、たぶんそんな意図ではなかったと思いますよ」などと指摘されることが多々ありました。言われてみれば「なるほど」なんですね。そうしたことも役に立ちました。今でも、質問の意図を正しく解釈して答えきれているのかは自問するようにしています。

渡邉:私ももう1人の自分を持つように意識していますね。仕事の中でも習慣づけるようにしています。バックグラウンド的に身につけやすかったというのもあるかと思います。法学部出身で、学生時代に模擬裁判等を通して相手の批判を予測しながら考える機会に恵まれました。それもあって、自分の考え方に否定的な考えが浮かびやすくなったというのはあるかと思います。

「良い考え方」のエッセンスは人それぞれ

嶋田:ちょっと難しい質問ですが、皆さんが「良い考え方」というものを定義するならどのようなものになるでしょうか。

渡邉:本質をとらえるということでしょうか。イシューの設定次第で全く違う結論となることも少なくないので、そこをまずしっかり考えることが必要だと思います。独りよがりな考え方にならないように、多面的に考えることを意識して、「いずれの立場であってもここが問題だ」というポイントを押さえられるとよいと思います。実際、ばらけている部分は表層的な部分だったということを、しばしばお見受けします。

松井:僕は、自分の意志がしっかり乗っているか、ということを重視したいですね。論理思考は自動的に「正解」を出す思考法ではありません。人によって見えている世界や持っている背景は違うわけですから、当然、出てくる結論も違う。でもその違いこそが、その人自身のオリジナリティであって、他に代え難い価値を生み出すと思うのです。客観的な数字やファクトは意識しつつも、どこかで主観が入ることは止められない。

だからこそ、そこに込めた意志が大事だと思います。「こいつの言うことには思いが乗っている」と見られるようにすることが大切ではないかと。それが、事実から導かれるだけではない、迫力のある意見となることへつながると思います。

嶋田:そこは「志のグロービス」らしい部分でもありますね。「平凡な客観性」では人は動かないですから。

:私はまた違う観点を提示したいのですが、良い考え方とは結局はプロセスなのかなと思います。組織の中で、「If I were you、というか、もし私があなたの立場だったら、同じ結論に至るかもしれない。逆に、あなたが私の立場だったら、自分と同じ結論に至るかもしれない」という状態を作ることですね。考え方が揃っているわけです。最終的にどういう意思決定をするかはその時々ですが、こうした状態ができている組織は強いと思います。

嶋田:皆さんの言われていることはどれも大切ですね。三者三様の意見が出る点が、この「考えること」の難しさでもあり、面白さなのかもしれません。(後編に続く)

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

  • 岡 重文

    グロービス経営大学院 教員

    担当科目は「ファシリテーション&ネゴシエーション」、「クリティカル・シンキング」、「ビジネス・アナリティクス」など。京都大学工学部応用システム科学専攻 修士課程卒業。NTTデータに入社し、SEとして複数のシステム開発に従事した後、ネットワーク機器の製品開発に携わる。その後、プライスウォーターハウスクーパースに入社。プロジェクトマネジャーとして複数のプロジェクトを担当。 2000年、グロービスに入社。企業研修担当、eLearning事業の立ち上げに関与したのち、グロービス・グループの情報システム部門を統括。2007年より経営管理本部にて人事・総務を兼務。2013年よりファカルティ部門。

  • 渡邉 由美

    グロービス経営大学院 教員/グロービス ファカルティ本部 主任研究員

    神戸大学法学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。Juris Doctor。
    コンサルティングファームにて、製造メーカーを中心とした、業務改善、事業戦略立案、実行支援、海外拠点展開等に従事する。その後、ベンチャー企業にて、業務改善、組織改革などのプロジェクトリーダーを務める他、事業戦略立案や新組織立ち上げなどに従事する。グロービス入社後はファカルティ本部にて、講師、講師育成、コンテンツ開発に携わる。

  • 松井 孝憲

    グロービス 経営大学院 教員/KIBOW社会投資 プリンシパル

    一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科修了
    株式会社シグマクシスにて、新規事業立案、人事・人材開発プロジェクト等に従事。並行して2011年にNPO法人二枚目の名刺に参画、2015-16年常務理事として活動。社会人とNPOが協働し、社会課題解決に取り組む「NPOサポートプロジェクト」を運営。本取り組みを企業向けの人材開発プログラムとして立ち上げる。本プログラムは2016年日本の人事部「HRアワード」(人材開発・育成部門)最優秀賞受賞。大学との共同研究を通じた副(複)業・パラレルキャリア・越境学習の実証研究も実施。グロービスでは、研究・コンテンツ開発に取り組むのと合わせて、(財)KIBOWで社会インパクト投資にも従事する。

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