新刊『MBA心理戦術101』の2章「統計/データを用いた意思決定に影響する心理バイアス」から、「例外の過大視」を紹介します。
「大酒のみでも長生きする人間はいる」というのは筆者の知人がよく言う言葉です。実際、100歳以上まで生きた方で、健康の秘訣を聞かれて「タバコと酒」と答えられた方もいました。その他にも「世界一のお金持ち(当時はビル・ゲイツ氏)だって大学中退なんだから、大学を辞めたってどうってことないさ」と言った人間も知っています。これらは、個々の事実は正しくても、それを一般化しようとしたり、ましてやそれを何の根拠もなく「自分にも当てはまるはず」などと考えると痛い目にあってしまいます。人間は何事も自分に都合よく考える動物。傍目に見て無茶な我田引水をしていないかという点には注意が必要です。
(このシリーズは、グロービスの書籍から、文藝春秋社了承のもと、選抜した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
例外の過大視
定義:散布図の特に外れた異常値に過度に引っ張られて間違った結論を出す傾向
以下のような会話を聞かれたことはないでしょうか。
「大学に行っても高卒よりも仕事ができない人はいくらでもいるから、大学に行く意味はない」
「東大を出ても仕事ができない人はいくらでもいるから、わざわざ苦労して東大を目指す必要はない」
「お金があっても不幸せな人はいくらでもいるから、無理してお金を稼ぐ必要はない」
それぞれ、言っていることの前半は間違いではありません。しかしそれぞれの結論は間違っています。やはり大卒、さらには東大卒の方がビジネスに限らず活躍できる可能性は増しますし、お金もないよりはある方が幸せを感じる可能性は高いはずです。
ここで陥っている錯覚は、図からも明確でしょう。確かにそれぞれのサンプルを見れば、大きく相関から外れたものは存在します。相関係数が完全な1の関係(○○の要素が大きいほど、確実に△△の数字も上がるという関係)は、人間という複雑な動物が関係する営みの中では普通はありえませんから、当然のことです。しかしその数少ないサンプルを根拠として物事を判断すると大きく間違ってしまうのです。
なぜこのような錯覚が起こるかについては、別のバイアスや心理も関連してきます。ちやほやされている人間が気に食わない、あるいは自分の不遇な立場について何かしらの理由を付けて弁護したい(合理化の一種)などです。
それが無邪気なものなのか、他意があっての発言なのかは分かりませんが、一部の極端な例を示されただけで相手の主張を鵜呑みにするのは禁物です。