『シン・ニホン』-「見晴らしのいい場所」から日本の将来を見渡す

Vantage Point(見晴らしのいい場所)で時代の変化にキャッチアップする

今から10年以上前、グーグル検索や個人ブログなどウェブの個人利用が急速に普及する中で書かれたベストセラー『ウェブ時代をゆく』(梅田望夫著)にて、これからの時代を生きる若者へ向けたメッセージの一つとして、「Vantage Point(見晴らしのいい場所)」という言葉が紹介されました。

同書によれば、これはシリコンバレーの投資家ロジャー・マクナミーが若者のキャリアについて梅田氏に「若者はVantage Pointに行くべきだ」と言ったことがきっかけで、その分野の最先端で何が起きているか一望できる場所に行って時代の変化にキャッチアップし、そこへ集まってきた人と切磋琢磨することの価値を説いたものです。

私もこれを読んだ当時感銘を受けました。その後、時代の流れはますます急になっていると感じます。SNSの定着、BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)を初めとする中国発IT企業の台頭、エネルギーやバイオ等IT分野以外での技術革新等、数えきれないほどの変化が身の周りで起こっています。

今このタイミングでも、新型コロナウィルスの世界的蔓延は、身近な生活においても国際情勢においても何事か大きな枠組みの転換を予感させます。私が編集に携わっているこの『GLOBIS知見録』も、時代の最先端でいま何が起こっているかを記録する「見晴らしのいい場所」でありたいと思っています。

ビジネスパーソンが共有する認識の土台となるべき1冊

今回紹介する本書は、正にそんな「見晴らしのよさ」を、圧倒的な“高画質”と“精細さ”で読者に提供する一冊です。

著者はヤフーのCSO(チーフストラテジーオフィサー)にして、慶應義塾大学環境情報学部の教授、また数々の公的な会議体やプロジェクトの委員を歴任されている安宅和人氏。ビジネスパーソンには『イシューからはじめよ』(英治出版)の著者としても有名でしょう。『GLOBIS知見録』にも過去に何度も登場いただいています。

本書では、そんな著者の現状認識と危機感、そして課題解決を含めた将来へのビジョンが縦横無尽に展開されています。AIをはじめとしたテクノロジーの進化が暮らしに与えるインパクト、地球環境問題、日本の人的資源配分、教育問題、都市と地方のバランス等々。豊富なデータに基づき厳しい現状認識が提示されますが、決してトーンは悲観的ではありません。問題に対してどうしていけばよいか、前向きで具体的な提案がセットになっていて、大いに励みになることでしょう。

個人的に最も響いたのは、第4章の「未来を創る人」をどう育てるか。筆者は、AI×データ時代に向けて今までとは本質的に異なる人づくりが重要で、初等~高等教育の見直しが必要だとしています。しかしこれから若者を育成するのでは最速でも現状の変化に間に合いません。そのため、現在の技術者・エンジニア層とミドル・マネジメント層の「才能と情熱を解き放つ」ことを説きます。

とはいえ、これらの層のスキルを再生するには相当強力な仕組みとうまいやり方が必要です。筆者が提示する具体策(の一部)は、公開オンライン講座(MOOC)と反転学習を組み合わせた仕組みや、学ぶ側が教える側に順次回っていく仕組み。私もこれまで、「テクノベート」科目のカリキュラムや動画学習サービス「グロービス学び放題」等のコンテンツ開発に携わってきましたが、これまで抱いてきた問題意識と重なる部分が大きく、「もっと良いものを作って広めていきたい」と一層勇気づけられました。

もう一つ注目点を挙げるならば、同じ第4章にて日本の大学院における修士、博士(Ph.D)の出し方の特徴について解説したところです。欧米(最近では日本以外のアジアでも)のリーダー層の多くが最終学歴Ph.Dを有しているのに対し、日本はそうではないのはかねて指摘されてきましたが、そういう状況になってしまう構造が非常に明快に解説されていて、驚きの連続でした。

上述のように、非常に多岐にわたる論点をカバーした書籍ですので、読者の置かれた環境次第で響くポイントも異なることでしょう。志を同じくする仲間と読書会を開いて、各々の課題意識を共有しあう、といった読み方も良いと思います。多くのビジネスパーソンが共有する認識の土台となって欲しい一冊です。
 

シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成
著:安宅和人 発売日:2020/2/20 価格:2,640円 発行元:NewsPicksパブリッシング

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