事業(ビジネス)を考える時、マーケティングやファイナンス、人・組織論などの経営学の各領域はどのように繋がるのか?
これらの問いに明確に答えてくれるのが本書である。具体的には、事業経営の全体像を捉える上で非常に有効なフレームワークを与えてくれる。また、フレームワークを「分かる」から「使える」までになるよう、ビジネス経験の少ない人にも理解しやすい企業事例を多く取り上げ、それを基にした演習が豊富に用意されている。
ビジネスを究極に単純化して捉える術を与えてくれる
ビジネスモデルとはビジネスの構造を単純化したものである。本書では、究極の単純化として「ターゲット」「バリュー」「ケイパビリティ」「収益モデル」という4つの要素でビジネスを語っている。
各用語の定義や使い方の解説は書籍に譲るとして、参考までに私なりに、街中にある従来型の喫茶店とスターバックスのビジネスモデルを本フレームワークを使って比較してみる。
従来の喫茶店は、社会人男性(ターゲット)にコーヒーを飲んで一休みできる場所(バリュー)を提供している。比較的低コストの二等地に店舗を構え、マスターの独自技術でコーヒーを煎れるため(ケイパビリティ)、それほど高くない単価でも利益を出すことができる(収益モデル)。
一方、スターバックスは若者層男女(ターゲット)に、単純にコーヒーを提供しているだけではなく、そこにいること自体が素晴らしいと思えるコーヒー体験(”The Third Place”)を提供している(バリュー)。特別な体験を演出するために、一等地に店舗を構え、いずれの店舗・スタッフでも美味しいコーヒーを煎れられるよう、独自のコーヒーマシンやバリスタの教育が徹底されている(ケイパビリティ)。特別な体験という付加価値により単価を高く設定でき、それゆえにケイパビリティに掛かるコストを上回る収益を上げることができる(収益モデル)。
このように、本書のビジネスモデルのフレームワークで整理することで、非常にシンプルにビジネスの構造を理解できることがお分かりいただけたのではないか。
理論自体が新しいのではなく、経営学というものの「捉え方」が新しい
読者は、本書のタイトルから最新の経営論を期待されるかもしれないが、決してそういうわけではない。本書はビジネスモデルの4つの要素を起点に、経営学の捉え方に関して新しい視点を示してくれる。
例えば、
- 経営戦略とマーケティングは、事業の「ターゲット」と「バリュー」を定めるためにある。
- 人・組織論とオペレーション、そしてマーケティングの一部(4P+SのうちPlace、Promotion、Service)は、事業の「ケイパビリティ」を構築するためにある。
- アカウンティングとマーケティングの一部(ターゲティングやPrice)、そして経営戦略の一部(事業特性)は、事業の「収益モデル」を算段するためにある。
このように、ビジネスモデルの4つの要素を起点として経営学の各専門分野を整理・統合できるため、経営学という目に見えない化け物を新たな角度から可視化できるのである。
経営学を学んでみるも、頭の中で整理しきれていない方にこそオススメ
私は前職であるメーカーの研究職時代、入社4年目に新規プロダクト開発の提案をするも、なかなか承認を得られず大変苦労した。その時、提案を通すために初めてビジネス書で勉強した。
だが、独学で学んでいると、経営学の知識がばらばらの状態でインプットされ、いざ仕事で使おうという時に、何をどの順番で使えばよいか分からなくて使えないということになりがちだ。
例えば、営業の方であれば、営業成績を2倍に伸ばすために新規顧客を開拓したい。しかし、何を顧客に訴求するか、チームやオペレーションをどう組むか、そもそもどの顧客を開拓するか――考えないといけないことがあちこちから湧き出てきて、思考停止状態に陥ってしまう。こういった方、実はたくさんいるのではないだろうか。
このような方にこそ、ぜひ本書を読んでいただきたい。ばらばらにインプットされた経営学の理論やフレームワークが抜群の解像度で整理され、ビジネスを考える際の“地図”となるに違いない。
『新しい経営学』
著:三谷 宏治 発行日:2019/9/27 価格:2,200円 発行元:ディスカヴァー・トゥエンティワン