海外駐在員に必要なのはプライドを捨ててmust to doに集中すること

前回、駐在生活でのアンラーンのきっかけについて紹介したが、現地に根ざしたモデルを作り出すこの道のりは決してたやすいものではなかった。そこに横たわっていた大きなボトルネックは、組織構造や意思決定の遅速といったものではなく、実は「自分自身の能力」と「マインド」だったのだ。

Must to doに集中する

駐在国では日本に居るときよりも幅広い仕事の領域をカバーするため、一つひとつは小さくても、性質の違う仕事が無数に存在する。そんな環境を乗り越えるには、幅広い知識と能力を自分が持つか、仲間を増やすこと。とはいえ、欲しいリソースがほしい時に必要なだけあるわけではないので、一番重要なものは、とにかくmust to do*だけに集中し、nice to doはやらないと決めることだった。つまり、優先順位をつけることだ。

そのため、must to doとnice to doの2つを顧客視点で戦略的に判断する判断力が問われた。Nice to doは「やらない」と決断すること。これは正直恐怖を感じるときがある。なぜならば、もしも結果が伴わない場合には、なぜこれを実行しなかったのかと問われるからだ。

この判断は、「シンプルに考える」という思考に繋がる。複雑に見えているものをシンプルにするには、捨てる勇気が必要だ。足し算で考えるのではなく、引き算で考える。海外現地特有の環境下において、結果につなげるには、その思考を発揮することが重要だ。

実は、グロービスのグローバル企業向け研修の中で、最も盛り上がりかつ現地法人のトップから問われるのがnice to doとmust to do の見極めである。今までの延長線上でなんとなくやっている仕事や慣れている仕事は、nice to do に当たる可能性が高い。時代や環境が変わればその戦略や業務内容も変わるはずだが、過去に行ってきた業務はeasy to do でもあるので、ついnice to doかつeasy to do的な作業から始めてしまい、本当に重要なことに手を打てていないことがよくある。「言うは易し、行うは難し」なのだ。

*編集部注:文法としては「must do」が正しいですが、韻を踏むため「must to do」としています

マインドを変える

もう1つの大きなボトルネックは、自分自身が持つ「マインド」だった。それは「必要のないプライド」から来る、ある種の言い訳を作る姿勢だったかもしれない。例えば、駐在国ではこれまで自分の専門の中ではやらなくてよかった仕事や、他の部門がやってくれていた仕事もやらねばいけない。筆者の場合、日本では自分の専門に基づく仕事だけにフォーカスしてキャリアを積んだこともあって、専門外の仕事をすることに対してはどこかためらいがあったし、専門外の仕事が続くとくじけそうにもなった。しかし、最終的には、「自分がせねば誰がする!」と思い直して順応できた。

成し遂げたい目標があり、その覚悟を決めたとき、自分のマインドも変わるのだろう。「必要のないプライド」に早く気づき、それに向き合い、マインドの変化を伴うことが重要なのだ。覚悟の持ち方が自分の仕事の範囲を規定する。自分自身の能力やマインドを決めるのは自分自身である。

ある海外現地法人の経営者が素晴らしい経営手腕を発揮されていたので、どこで学んだのかを聞いたことがある。その経営者は「1回目の駐在で失敗し、2回目の駐在なので、同じ間違いをしないようにしているだけなんです」とおっしゃったが、そこには戦略の立て方の話ではなく、ご自身の心持ちの変化と重要性を伝えてくださったように感じた。

前回と今回の学びは、海外拠点の成長を止める要因・加速させる要因を正しく判断する力を持つこと。何よりも、海外に出た駐在員が覚悟を決め、毎日毎日迫られる意思決定にひるむことなく、判断・意思決定し、前に進む努力をし続けることである。

駐在員の中には、孤独に感じながらも海外拠点を守り立てようと必死になっている仲間もいることだろう。一方で3年の任期をなんとかやり過ごせば日本に帰れると思っている人もいるだろう。前者であっても、「やるのだ」と覚悟を決めた人と、ただ「できればいいな」と永遠に願望だけで毎日を過ごしている人がいて、それは雲泥の差である。

1人でも多くの、覚悟を持った日本人駐在員を応援したく、次回以降、海外駐在員として活躍する人の行動パターンや考え方についても考えてみたい。

【駐在員の皆さんへ】
・Nice to do/easy to doから仕事を始めていないか?「やるべきこと=must to do 」を優先的に行っているか?
・足し算思考ではなく、引き算思考で業務設計ができているか?
・必要のないプライドで、自分の成長と事業の成長を止めていないか?

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