結果を出せる駐在員と出せない駐在員は、何が違うのだろうか――筆者はグロービスのシンガポール拠点に駐在して6年目を迎えるが、自身の海外駐在員としての経験と、様々な活動を通して出会った企業・駐在員の皆さんとの関わりの中で見えてきたその違いを、数回にわたって書いていきたい。
駐在員に必要な「起業家精神」とは?
駐在員にとって、もっとも重要なことは、企業内で「起業家意識」を持つということに尽きる。「社内起業家(イントレプレナー)になること」と言ってもよいかもしれない。
筆者も駐在にあたり社長から「起業家精神を期待しています」とメッセージをもらい、現場で起業家精神をどのように発揮していけばよいのかをよく考えていた。振り返ってみると、その後の様々な活動の中で、企業DNAは残しつつも日本で成功してきたビジネスモデル・やり方の延長線上に乗らない、日本側のリソースに無理に頼らないと決めたことが、海外拠点を成長軌道に乗せるターニングポイントになったと感じている。そしてそれは、既存企業の中でビジネスをしつつも、ある種の自立性を持って事業を行うことに繋がったと思う。
通常、海外事業規模比率が高い企業であっても、重要なリソースやプロセスは国内に置かれていることが多い。また、海外拠点は事業の一部だけを担う役割で設立され、国内重視で意思決定がなされることもある。そのため、多くの日系企業から「エース人材は、国内(本社)に留める傾向があり、戦略的には海外重視と言えども優秀な人材の確保は苦労する」という声を聞く。また、国内事業で優秀な人材が必ずしも海外事業において優秀であるとは限らないため、「優秀」の定義が曖昧で齟齬が起きているケースもある。
海外売上比率が高い企業でさえこのような感じであるから、いわんや海外事業の規模が小さい場合には、日本のリソースの配分先が海外拠点に回ることはおそらく最後の最後だろう。しかし、これは日本から見れば至極当たり前の論理である。本社のほうが重要、事業が大きいほうが重要という論理が立つからだ。
海外拠点からすると事業リソースを海外で持ち合わせていないので、どうしても日本側に頼りたくなる。しかし、日本側にとってはリソース配分などの優先順位は高くないので、そのヘルプを待っていては海外事業は成り立たない。こういうバッドスパイラルに陥らないためにも、トップ自らが「海外拠点が自立をすることが先決」と言う方針を出すことが、海外拠点を強くするのだ。
日本からのヘルプに頼らず、現地で一気通貫のサービス提供ができるように立ち上げる。その中で、駐在国の状況に合わせたモデルを構築する――もちろん1人のカバー範囲が極端に広がるので、生易しいものではない。筆者も相当苦労したが、現地のすべてに責任を持つことで、現地で決断してすべてを作り上げることに焦点を当て、事業開拓と構築をすることができたと思う。
グロービスのクライアント企業を見ていても、トップ自らが「海外拠点の自立性」に重きを置いて覚悟を決めて取り組んでいる企業は、バッドスパイラルに陥らないための策を打っている。特に、リソースの1つである「人材」に関しては、日本からの駐在員に頼らなければいけない状態から、(時間がかかるが)ローカルリーダーが事業を成長させることができるようにと舵を切っている。上級管理職にアサインすることを決め、育成にかなり投資をして、実際に海外拠点の拠点長にローカルリーダーをアサインしている企業の事例もある。
もちろん、連携しないところもあれば、しっかりと本社と連携する部分もあろう。自立とは何も孤立することではないからである。何を残し(日本と連携し)、何を残さない(連携しないのか)、しっかり見極める能力とそれを判断する覚悟が重要になる。
イノベーションを成功させるための「忘却「借用」「学習」
イノベーション論の第一人者、ビジャイ・ゴビンダラジャンは、共著『
ストラテジック・イノベーション』の中で、イノベーションを成功させるには「忘却」「借用」「学習」が重要だと説いている。
駐在員が成果を出すために必要なのは、まずは忘却(アンラーン)であろう。駐在員は日本本社や人によっては様々な国で活躍しているので、今までの成功体験やリソースをベースにビジネス構築を考えがちだが、一度それらをアンラーンし、自立に向け、ゼロベースで発想することが重要になる。ちなみに、借用は1つか2つに絞って本社から借用すべきと言われている。1つか2つしか借用しないので、よくよく考えてもっとも重要なものにしたほうがよいだろう。
筆者も日本での潤沢なリソースがあった環境をアンラーンしたが、その上で現地に根ざしたモデルを作り出す道のりがスムースだったわけではない。大きなボトルネックになったものは何だったのか、
次回書いてみたい。
【駐在員の皆さんへ】
●日本本社への不満を持つ前に、海外会社の自立を高める努力をしているか?覚悟をしているか?
●何を残し(日本と連携し)、何を残さない(連携しないのか)、しっかり見極めているか?
●アンラーンし、海外現地でベストなビジネスモデルとは何かを常に考え、実行しているか?
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