生兵法はケガのもと。55種類のフレームワークの副作用を起こさないためにーー『ダークサイドオブMBAコンセプト』

生半可な知識が悪影響を与える

「分かったつもりになっては良くない」――グロービスのスクールや研修の場では、こういった趣旨の言葉がよく聞かれます。講師から受講生への警句といった形もありますし、受講生同士が学びを振り返る場面もまた然りです。

MBAで学ぶ多くの理論やフレームワークは、それ自体はマネジメントにおいて必須といってよい知識ばかりです。知ると知らないとでは確かに大違い。しかし、単に知識として生半可に理解しただけでは、往々にして役に立たない、それどころかかえって悪影響を及ぼすこともある。冒頭の話は、そうした事情を表したものです。

定評のある理論やフレームワークなのに、なぜ上手くいかないことがあるのか。それは、理論化やフレームワーク化の過程で、できるだけ多くの業種業態で汎用的に使えるようにするために、細かな前提や条件を捨象して抽象化、モデル化するからと言えます。一方で、現場で実際に理論やフレームワークを当てはめる際には、その状況ならではの千差万別の条件があり、それを考慮に入れる必要があるのです。

世の中の多くのビジネススクールが、いわゆる講義方式ではなく、ケースメソッドといって現実的な経営状況においてどう考えるかを講義の中心に据え、受講生同士の議論を通じた学びをデザインしているのも、ここに理由があります。

すなわち、教科書を読んだり教授の話を聴いたりするだけでは通り一遍の理解となりがちで、現実に当てはめてみるシミュレーションを経ることが重要、さらに多様なバックグラウンドを持つ人が「私の場合はこうだ」と意見を交わすことで初めて、実務で使える知恵が身につくというわけです。

ありがちな失敗例から、知識を知恵に昇華する

本書は、こうした「実務ならではの知恵」の提供を、書籍の形でチャレンジしたものです。ダークサイドというタイトルは少々おどろおどろしい印象ですが、ここまで触れてきた「理論を漫然と当てはめると、つい出てきがちな副作用」「分かったつもりでいると、つい犯してしまう間違った使い方」という意味合いで使われています。

55種類に及ぶ典型的なビジネスフレームワークごとにありがちな失敗例を対応させ、それに堕ちないためのヒントを付けるなど、なるべく読者の記憶に留まるよう工夫が凝らされています。

たとえば、規模の経済性を当て込んでM&Aによって企業規模を拡大しても思ったほど効かないケース、顧客満足度調査の数値は一見良いのにリピート率向上など目に見える成果につながらないケース、組織内のダイバーシティを高めるため多様な人材を意識的に採用したものの副作用に悩むケース等々。

個人的に特に身につまされたのは、モチベーションの項です。マズローの欲求5段階説にのっとって、相応の報酬、帰属意識、顧客からの承認等、社員が高いモチベーションを持てる仕組みは整っていたとしても、それが必ずしも生産性の高さや市場での競争優位を通じて客観的な業績につながるとは限らないこと。社内の士気が高くそれなりの売上成長もあるのに、実はコストもそれ以上にかかるので儲かっていないとか、競争が激しくて市場シェアは伸びていないとか。よく注意していないと、モチベーションがある程度高く保てていることが、かえって戦略ミスを覆い隠してしまうこともあるのです。

皆さんも、自分の周りのビジネスシーンで経験、体感してきたことと照らし合わせながら読み進めてみてください。これまで知識として理解していたビジネスコンセプトが、実際に使える道具として、より身についていくことでしょう。

『ダークサイドオブMBAコンセプト』
著者:グロービス 執筆:嶋田 毅 発行日:2019/10/18 価格:1650円 発行元:東洋経済新報社

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