「生産性向上」 分かっているようで、いまいち分からない
このように感じている方は、多いのではないだろうか。
本書は、アパレル会社を舞台にドラッカーの生産性理論を会計を用いて物語形式で説明したものである。業種に関わらず、数字の感度を高めながら、「生産性とは何か」「生産性向上のカギは何か」「日常業務でどう取り組めば生産性は向上するのか」、といった疑問に対するヒントを与えてくれる。
同時に、会計の基本的な要素がビジネスとどう紐づくのかも理解ができる。会計に苦手意識のある方もストーリーを楽しむうちに、読み進めることができるだろう。
従来の生産性向上の考え方が通用しない時代
これまでは、生産要素である人、モノ、カネの投入量を増やせば利益が増え、設備投資をすれば生産性が向上すると考えられていたが、今はどうか。
サービス業や間接部門では残業規制をし、結果として利益が増えたことを生産性向上とする企業は多いが、一層の生産性向上は期待できない。設備投資にしても、例えば医療の現場で、MRIやCTといった高額医療機器へ投資を続け、技師を大量採用しても1人当たりの利益が減ることが想定される。
つまり、これまでの生産性向上の考え方は必ずしも通用しなくなった。では、今後生産性を向上させるカギは何か。本書ではドラッカーの言葉を引用し、生産性向上のカギは「知識の生産性」にある、と結論づけている。
「知識の生産性」を高めるとは?
話を戻すが、そもそも生産性とは何か。本書では「使用した人、モノ、カネなどの経営資源が、どれだけの生産物や粗利益といった付加価値を生み出しているか」を生産性だと定義している。
それでは、「知識の生産性」を高めるとは何なのか。本書では、知識労働者の生産性を高めることとしており、知識労働者を次の3つのグループに分類している。
・グループ1…もっぱら仕事の質で勝負し、肉体労働はしない研究者や技術者、経営者などの「純粋な知識労働者」。
・グループ2…肉体労働の要素は含むが、専門知識を自らの専門技能に生かし仕事を進める「テクノロジスト」、医師や看護師、企業の各部門で専門知識を生かして働く労働者。
・グループ3…肉体労働の要素が多く含まれる「サービス労働者」。
本書では、アパレル会社の事例をもとに、会社の生産性を上げるには、サービス労働者の肉体労働部分をパターン化することが必要だと指摘する。パターン化できる肉体労働の部分は作業手順を決め、マニュアル化し、そのうえで仕事のやり方を工夫する。余裕ができたら、そのエネルギーをどうすれば顧客の満足を高められるのかを考える時間に振り向けることが大事だと本書は示している。
マニュアル化と考えることのバランスをとる
本書では主に「サービス労働者」の生産性向上について触れているが、実は今の時代、テクノロジーの進化に伴い、あらゆる知識労働者にマニュアル化の波が押し寄せているのではないだろうか。行き過ぎると一部の知識労働者だけが考え、その他の知識労働者は考えないという状況が生まれてしまう。この状況は一見、生産性が高まっているように見えるが違う。本来、知識労働者の仕事は顧客のことを考えることだからだ。
ドラッカーは「企業活動とは、知識労働者が頭の中にある専門知識によって、生産要素である人、モノ、カネを統合的に活用して企業全体の生産性を向上させ、新たな価値である現金に変換させるプロセスである」と言っている。
ここで重要なのは、顧客が満足しなければ現金には変換されないということだ。現金に変換させていくためにも、「どうすれば顧客を満足させられるのか」を起点に知識労働者一人ひとりが業務に取り組むことが重要であると言える。マニュアル化で効率を上げていくことと、一人ひとりが顧客のことを考えることーーそのバランスを考え、知識労働者としての役割を全うすることが、生産性向上に結び付くのではないだろうか。
『ドラッカーと生産性の話をしよう』
著者:林 總 発行日:2019/4/19 価格:1512円 発行元:KADOKAWA