フェイスブックがおよそ2年をかけて開発してきた仮想通貨「リブラ」が、各国政治家からの激しい反論・反撃を受けて話題になっています(仮想通貨については、『テクノベートMBA基本キーワード70』などを参照ください)。7月18日には、G7はリブラに対し、「金融システムなどに深刻な懸念を生じさせる」と指摘し、最高水準の規制が必要と訴えました。
今年になって比較的順調に上がっていたフェイスブックの株価は、この発表を受けて多少下がりました。しかし翌週には上げに転じており、市場はそれほどこの発表を不安材料視していないようにも見えます。
「多くの人びとに力を与える、シンプルで国境のないグローバルな通貨と金融インフラを提供する」、さらには「世界をよりよい場所にする」という壮大な目的で開発されたリブラのどこに問題があるのでしょうか。それは本当に問題を引き起こすのでしょうか。それとも杞憂に終わるのでしょうか。
リブラのメリット
リブラの分かりやすいメリットについては、世界中の人が安価で便利な決済サービスを受けられること、そして銀行口座などを持たない(あるいは持てない)人でも金融サービスを利用できることなどが挙げられています。一説には、こうした銀行口座を持てない人は、世界の成人人口の3分の1程度に達するとされます。
リブラに用いられる基本技術は通常の仮想通貨同様、ブロックチェーンと高度な暗号技術です。また、ビットコインのような需給で価格が乱高下する他の仮想通貨とは異なり、複数の通貨と公債による通貨バスケットを裏付けとすることで、大きな価格変動を避けている点も特筆されます。その意味で、これをMMF(マネー・マーケット・ファンド)に比較的近い存在と見なす向きもあります。さらに、フェイスブックという一企業がこれを独占するのを防ぐべく、その監督をリブラ・アソシエーションという中立の組織に移譲しています。ここにはビザやボーダフォン、ウーバーなど、多くの業界の著名企業が参加しています。
リブラのデメリット
これだけ見れば、既存の仮想通貨に比べても使いやすそうですし、フェイスブックだけが自らを利することはなさそうに見えます。ではなぜ政治家はこれに反対するのでしょうか?
第一に、仮想通貨の宿命として、マネーロンダリングなどに利用される可能性があることです。また、国がコントロールできない通貨が登場することで、経済制裁や経済政策などの効果が削がれることも懸念されています。これらは「通貨」という武器を国が手放したくないことの表明です。これまでの仮想通貨でも同様の懸念はあるにはあったのですが、フェイスブックという、MAU(月間アクティブユーザー)が二十数億人を超えるITジャイアントが動き出すことで、その懸念が本格化してきたのです。
第二は、フェイスブックという企業に対する不信です。詳細は割愛しますが、過去に、プライバシー保護が十分でなかったことや、特定の人間の悪用などを防ぎきれなかったことが懸念となっています。フェイスブックがリブラ専用のデジタルウォレット「カリブラ」を開発している点も懸念を増しています。これは基本的に各社使えるものですが、まずはフェイスブックのMessengerなどに使用する予定となっています。そこで個人情報がどのように扱われるかが不明というのが、当局の主張です。
第三は、既存の金融業界からの反発です。フィンテックはこれからもどんどん進んでいくでしょうが、シリコンバレーの企業にどんどん侵食されるのを手をこまねいて見ているわけにもいきません。どの国にも金融業界の代弁者的な議員はいますから、彼らは当然、強い懸念の意を示すのです。
三つ目の懸念はともかく、第一、第二の懸念はもっともと言えます。一方で、リブラのような仮想通貨ができたときの便益は非常に大きなものがあります。これは筆者の直感ですが、正しく運営されれば、金融はより便利なものになると思います。国という、軍事力などを背景にした信用力を持つ機関だけが通貨を発行できる必然性が高いわけではありません(ここは議論が分かれるでしょうが)。
さまざまな信用をベースにした通貨があることは、当初は混乱を招くかもしれませんが、金融のパラダイムは長期的にはそちらに向かっていくでしょう。今はその過渡期というわけです。フェイスブックがやらなくても、いつかは誰かがやるのであれば、無理に規制をして骨抜きにする必要性はないように思います。
フェイスブックが今後取るべき行動は?
こうした中、フェイスブックはどのような対応をとるべきでしょうか。
まずは丁寧にコミュニケーションをする必要があります。一番良くないのはコミュニケーション不足の中で拙速で物事を進め、トラブルを起こすことです。
その上で、当局と話し合いながら、マネーロンダリング対策やセキュリティなどの問題について真摯に対応し、仲間を増やしていくことでしょう。すでにリブラを好ましいと考えている政治家もいますが、そうした人間をどんどん増やしていくのです。
シリコンバレー企業はこれまで「グレーゾーンはまずやってみよう」というスタイルで物事を進め、消費者の支持を武器にそれを進めるという方法をとってきました。それがITジャイアントを生み出す土壌にもなってきたのですが、最近はそこに逆風が吹いています。そうしたやり方は捨て、「一緒に話し合いながら進めていきましょう」という協調モードを作るのが好ましいように思われます。
特に今回のテーマは、通貨という国家の基盤ともなるものです。国を敵に回して得をすることはほとんどありません。シリコンバレー流の青臭い野心は維持しつつも、物事の進め方については、ここでもパラダイムシフトが求められているのかもしれません。今後のフェイスブックの出方に要注目です。
【参考図書】
『テクノベートMBA 基本キーワード70』
グロービス、嶋田 毅 (著)、PHP研究所
1620円