「意見を引き出し、導き、まとめる」ことの重要性に気付き、一方的な伝達ではないファシリテーションを実践しようと挑戦すると、多くの方はまず、「頭が真っ白になる」という経験をします。メンバーとして議論に参加するときはあまり感じないのに、ファシリテーターとなるとそうなってしまうのです。なぜでしょうか?
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頭のキャパの限界を超える「仕込み」
ファシリテーターの中には常に、「この会議をどうしたいか?」という、メンバーとはレベルが異なる関心事があります。どんな結論を導く必要があるのか? 議論のプロセスでメンバーにどのように振舞って欲しいのか? 最終的な到達点に至るために、今ここで行われている議論は適切なものなのか?といった関心です。それと同時に、多くの人間がいろいろな方向から述べる意見を聴き、その意見に即座に対応することが求められます。
つまり、「人の話を聴き理解すること」、「本来、議論すべきことは何かを考えること」、「話をしていない人の状況を把握すること」など、複数のことを頭の中に置き、それらを同時に処理する必要があるのです。それをそのままやると頭のキャパ(処理能力)がオーバーフローしてしまうというわけです。
これはある意味、当たり前のことと言えます。人間は一度にたくさんのことを考えられるだけの認知・思考のキャパは持っていないのです。ですから、この限界を超えるためには、ファシリテーションの現場において自身が考えることを減らすしかありません。つまり事前に十分な準備をし、本来あるべき議論の姿をイメージしておく。そしてその場で出てくる発言を適切に位置づける地図を頭の中に持っておく必要があります。私はこれを「議論の仕込み」と言っています。
ファシリテーションの世界では一般的に「ファシリテーターはコンテンツ(話される内容)には入りこまず、プロセスにフォーカスする」と言われますが、それとは異なるアプローチです。但し、その「入り込み方」はメンバーの主体性を妨げたり、ある結論に強引に導いたりするためのものではありません。むしろメンバーにしっかり議論してもらうために、議論すべき内容について、ファシリテーターが十分に理解し、準備するということです。
適切にメンバーの思考を導く「さばき」
もちろん、いくら「仕込み」をしっかりしても、いざ実際のコミュニケーションの場面になると、「具体的にどう反応すればよいのか?」という問題は生じます。
「『どうですか?』と問いかけてもなかなか意見を出してくれない」、「ある人がそこで議論すべきポイントとズレた発言を長々とやっているのでなんとか軌道修正したいのだが、どのように介入してよいのかわからない」、「メンバー間で意見が対立してしまっているが、どう収拾したらよいかわからない」といった具合です。
この問題を解消するには、一つひとつの発言に対し、ファシリテーターがどのように向き合い、対応するのか? その基本的となるコミュニケーションの原則を理解し、訓練を積むことが必要です。具体的には「意見を引き出す」、「話を聴き、理解する」、「話を導く」、「話をまとめる」という基本的なステップを押さえ、それぞれのステップで何を考え、どのように反応・対応すべきか?を知ることです。こうした具体的なコミュニケーションの手法を、私は「さばき」と呼んでいます。
こうした「仕込み」と「さばき」の思考プロセスを理解し、正しく訓練を積むことが優れたファシリテーターになるための第一歩です。ここをしっかり押さえるからこそ、様々なコミュニケーションのテクニックが有効に機能するとともに、本当の意味で傾聴し、人の知恵を、意欲を、引き出すコミュニケーションが可能になるのです。次回以降、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
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