「評論家」になるには、どうすればいいのだろうか。名刺を作れば評論家になれるかもしれないが、それだけで仕事が舞い込んでくるわけではない。今回は、評論家になる方法とそのギャラを紹介する。(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2009年1月15日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)
現在、あるいは将来の職業ないし副業として「評論家」をやりたいと思う読者はどのくらいいるだろうか。仕事の経験、あるいは趣味の経験を生かして評論家になることができる人は、ビジネスパーソンの中にも、相当の割合でいるのではないかと筆者は常日頃から思っている。
それでは「評論家」になるには、どうすればいいのか。先ずは、「○○評論家」と名刺を作ればいい。それで、あなたは評論家だ。評論家になるのに、資格は必要ないし、何らかの組織に属さなければ活動できない、ということはない。
しかし、評論家を名乗っただけで、いきなり仕事の依頼がわいてくるわけではない。たいていは、いくつかの段階を踏む必要がある。
評論家のビジネスモデル
いきなり注目された人(特殊な経験や才能を持っている人)を除くと、評論家のビジネスモデル(というほど大げさなものではないが)は概ね以下のようなものだ。
(1)単著の本を出して「専門家」として認知される。
(2)メディア(象徴的にはテレビ)に出て「知名度」を上げる。
(3)知名度を生かして講演やセミナーで稼ぐ。
まず、世間に何らかの分野の専門家として認知されることが必要だが、そのためには本を出版するのが手っ取り早い。著書があると、メディアが取材の相手を探すときに検索エンジンに引っ掛かるようになる。例えば、政治に詳しい記者なり文科系の研究者なりが『政治家の病気と死』というようなタイトルの本を出したとすれば、有名政治家が病に倒れたときにテレビから取材が来て「政治家の病気の問題に詳しい、○○氏」と紹介される。
単行本を出すには、まず出版社に企画を持ち込むことだ。出版の狙い(出版社の立場に立って書く)や構成案(できれば詳細な目次案)などとともに、過去に雑誌などに自分が書いた関連テーマの記事があると判断してもらいやすい。雑誌に記事を書くところがハードルになるかもしれないが、ブログでもいいだろう。出版者側にとっては、他人の目に触れる形で、商品になる品質の原稿を書いた実績があるかどうかが重要なのだ。あえていえば、この段階である程度のスクリーニングがかかっているといえる。
評論家の収入源は3つ
筆者は現在、評論家は「本業に近い副業」だが、15年くらい前に資産運用の専門書を書いたことがあり、後から振り返ると、これが大きかった。この段階で、資産運用関係の講演やセミナー講師の依頼が来るようになった。その前に、金融・経済の専門誌の原稿を匿名でかなり書いていたので、それがある程度の信用になって、単行本の企画が通った。
テレビなどメディアに出るきっかけは一種の「縁」だが、自分がコメントできる分野があれば、コネをたどって売り込むことは可能だろう。筆者の場合、単行本の著書や雑誌の原稿が先方の目に触れて、数年前から、時々テレビに出るようになった。あえて1つ挙げると、「JMM」(作家の村上龍氏が主宰・編集するメルマガ)を読んでいるメディア関係者が多く、これがきっかけになったケースが複数ある。
テレビの広報効果はやはりそれなりに大きく、テレビ出演が増えると、講演の依頼が増えるという関係は強い。また、頻繁にテレビに出るようになると、テレビのギャラはそれほどでもないが講演の価格が上がるようだ。
評論家の収入源は大別すると、(1)原稿料・印税、(2)テレビなどの出演料・取材謝礼、(3)講演料・セミナー講師料、の3つある。
それぞれの具体的な金額やそのビジネス構造に関しては、別の機会にまた詳しく書こうと思っているが、まず原稿料、出演料の2つは、ビジネスパーソンの感覚から率直に言って、そう高いものではない。媒体によって価格設定は大きく異なるが、特別有名ではない著者が雑誌の1ページ(400字詰め原稿用紙4枚くらい)の原稿を書いたとして、高くて5~6万円くらい、多くは3万円くらい、という感じだろうか。最近ネットの媒体が増えているが、ネット媒体での原稿料設定は、紙媒体の大手よりも安いことが多いし、長期的な傾向として、世の中の原稿料の文字数当たり単価は下落している。
原稿料・印税は、書く材料の仕入れに掛かる時間を考えると、大手企業の管理職の時給にかなわないかもしれない。書きたいだけ書けるようにちょうど良く仕事の依頼があるとは限らないし、また、生理的な感覚として書き続けられるというものでもない。それでも、雑誌などの連載を持つようになると、多額ではなくとも安定した収入源になるし、対外的な露出のチャネルにもなるので、フリーの生活を考えるとこの種のものの継続性は「ありがたい」
単行本は、大まかに言って売り上げの1割が印税として著者に入るが、概していえば、手間に対して効率のいい仕事ではない。ビジネス書などの場合、初版は数千部でスタートすることが多く、それでも重版が掛からないということが、しばしばある。継続的に万単位で本が売れる著者は、ごくわずかだ。「本を出せる」というレベルと、「売れる本を書く」というレベルの間には大きな距離があり、この距離を詰めるためには“運”も必要だ。
テレビの出演料についても触れておこう。レギュラーで出る番組で、その個人が特別に大きな役割を果たすようなものでない限り、評論家、大学教授などのいわゆる文化人に関しては、民放の間で「文化人価格」と称せられる、ゆるやかな談合価格がある。それはどこの局のどの番組に出ても、あまり変わらない。文化人価格は「タレント価格」の数分の1であり、1時間の番組に出て数万円ほどだ。打ち合わせや準備も含めて収録の番組の拘束時間などを考えると、これもそう割のいい仕事ではない。
「割がいい」のは講演
時間と手間を考えて「割がいい」という意味では、たぶん講演が一番だろう。講演料は人によって違うし、同じ人でも場合によって受ける講演料には幅がある。
低めのケースを挙げると、民間シンクタンクの若手研究員(専門家だが無名だというレベル)で1時間半程度の講演料が20万円くらいのことが多い。講演の性格にもよるが、知名度のある評論家なら、もう少し高いはずだから、講演の数が増えると、評論家もある程度は儲かる商売になる(「講演」の市場構造も別途書いてみたいテーマの1つだ)。
ただ講演は、時間と場所が随分前から指定されるし、準備も必要だ。別々のテーマの講演をばらばらと引き受けると準備に費やす時間が増えるので、効率が上がらない。また、講演は概ね知識のアウトプット一方の仕事なので、講演の仕事が増えると、インプットが減る弊害がある。
島田洋七さんの「がばいばあちゃん」のようなどこででも通用するようなキラー・コンテンツを持っている人は別だが、普通の評論家の場合、講演は、ほどほどにしておくべきだろう。
何事もバランスが大切だ。
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