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コミュニケーションの掛け算で納得感を最大化する

投稿日:2018/08/11更新日:2019/04/09

リーダー『自問力のリーダーシップ』から「納得感醸成による巻き込み」を紹介します。

他者に動いてもらうには、強制力やいわゆる「ニンジン」的なインセンティブだけでは不十分ですし、かえって人々の行動をバラバラなものにしかねません。その前に必要なのが、しっかりしたコミュニケーションを行い、納得感、言い換えれば腹落ち度合いを深め、人々を駆り立てることです。その際、往々にしてやってしまいがちなのは、リーダーが自分の思いを一方的に喋ってしまうことです。伝えるだけまだマシとも言えるのですが、このようなやり方には限界があります。一人ひとりの関心やモチベーション、理解度合いなどを見据えながら、コミュニケーションの「深さ」×「広さ」×「正確さ」を最大化するような双方向的なコミュニケーションが必要なのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

実行計画の具現化の際には、(1)現実直視に基づく判断の明確化、(2)納得感醸成による巻き込み、(3)実行プロセスの明確化とリスク対応の3つが求められます。ここでは、(2)納得感醸成による巻き込みについてそのポイントを解説します。

納得感醸成による巻き込み

組織のコミットメントを高める最大のカギは、個々人の納得感の総和を最大化することです。すでに第1章で、目標・ゴールを共有化することの意義については触れましたが、そのうえでさらに日々の計画立案・実行のプロセスで、彼らの納得感を高いレベルに保ち続ける必要があります。

そこでカギとなってくるのが濃密なコミュニケーションです。では、納得感を高めるためのコミュニケーションとはどのようなものでしょう。キヤノンの御手洗冨士夫会長はかつて、日本経済新聞紙上で、「経営のスピードとクオリティは、経営の意思がいかに深く、広く、正確に伝わるかで決まる」といったコメントを出していました。

私もまったく同感です。以来、私自身、事業部門の運営に際して、この一節をいつも意識するように心がけています(まだまだ至らないことのほうが多く、未熟ではあるのですが)。

具体的に意識しているのは、組織を集団というくくり、あるいは塊でとらえるのではなく、できるだけ構成要素である「個」に照準を当てて認識するという点です。そのうえで一人ひとりが納得感を持てるよう、彼らの心に「深く」刻み込むように伝えることを意識しています。

それに加えて、多くのメンバーそれぞれが、自分の問題としてとらえることができるように、「広く」たくさんの人々に染みわたるように伝える努力をし、さらに、表面的な理解にとどまらないよう、誤解なく「正確に」伝えることを意識しています。

「深さ」×「広さ」×「正確さ」を最大化するには、どれか一つが欠けても駄目です。すべてを意識しながら実行することが、リーダーの役割なのです。以下、順に見ていきましょう。

深く広く正確に

●深く伝える

深さとは、結局は受け手一人ひとりの腹落ちの度合いです。そしてそれが好ましい最終成果が出る確率を左右します。では、受け手の意識に深く入り込むために、リーダーは何をすればよいのでしょうか。

フェイス・トゥ・フェイスの説明と、繰り返し伝えるということが頭に浮かんだ読者も多いでしょう。確かに、時間という貴重な資源を投入し、自分の意図を伝えるべく、直接的に伝える頻度を高めることは効果的です。それだけでも立派な取り組みと言えるでしょう。

さらに気のきいたリーダーであれば、説明の質的な充実度合いにも配慮することでしょう。方針に関する背景情報や、複数の選択肢からその方針を選んだ理由、今後に対する展望やリスク要因、意思決定のプロセスや先の見通しなどについても、受け手と共有を図ろうと努力します。ここまでやれば上出来です。

しかし、これだけで強く持続力のある「やる気」を引き出し、実行への強い執着心を喚起させられるかと言えば、難しいのではないでしょうか。もう一段の「深さ」を追求したいところです。

そのためには、個々人の多様な労働観、モチベーションの源泉、どのように成長していきたいと願っているかなど、受け手を普段からしっかり理解しておくことが必要です。そのうえで、組織のビジョンや全体方針の重要なポイントを切り出して、受け手の関心と結びつけることが望まれます。

「労働観?モチベーションの源泉?そんなこと言われても、普段そんな会話はしないからな」と思われる方もいるでしょう。しかし、あまり大上段に構える必要性はありません。過去にやった仕事の中でどの仕事が楽しかったか、あるいはまたやりたいと思うかなど、ちょっとした機会をとらえて話し合うだけでも、大いに参考になるはずです。骨の折れる作業に感じられるでしょうが、個々の能力を最大限引き出すマネジメントとは、そもそも手間のかかる営みなのです。

●広く伝える

広く伝わらないと、何か不都合なのでしょうか。浸透の範囲が狭いということは、必要な情報を知っている人と知らない人が組織の中に混在する「まだら状態」だということです。経営方針や目標はもちろんのこと、実践方法に対する理解度にムラがある中途半端な状態では、顧客に対する対応にもバラツキが出ますし、組織間の連携もうまくいきません。「深さ」同様、「広さ」もきわめて重要な論点なのです。

では、広く伝えるために、リーダーが実践すべきことは何でしょうか。3つのプロセスが大切です。

第1段階:コアメンバーと握る(コンセンサスをつくる)
第2段階:組織の中にブームを起こす
第3段階:組織の常識、習慣にする

もう1つ別の観点から重要なのが、情報の受け手のリテラシーを高めることです。人間の理解力は、その情報を正しく理解するための、基礎となる知識を有しているか否かに左右されます。情報を伝える側の語り部の育成とセットで、情報を受ける側の理解力も鍛えることが必要です。

リテラシーや知識量を高める方法の一つに、読書会があります。これは、ある書籍を参加者全員に読んできてもらい、そこに書かれていることを皆で議論し共有するものです。ここでは、知識もさることながら、価値観や「勘所」の共有に力を入れることで、組織のスキルアップに加え、あるテーマに関する意識レベル・感度の向上や志向性の一致を図れます。

●正確に伝える

正確さとは、知恵と知識、技能の理解共有度です。とりわけ、「KNOW-WHY」つまり「背景、理由、必要性についての理解=結局、どうしてそう考えたかの判断軸」と、「KNOW-HOW」つまり「いかにして実践するか、やり方の理解共有度」にポイントがあると、私はとらえています。

さて、しばしば「コミュニケーションの成立は受け手が決める」と言われますが、情報の出し手が、いくら丁寧に時間をかけ、適切に情報を伝えたつもりでも、それで意思疎通が成立するとは限りません。正確に伝えるうえで大事なのが、「受信状態の確認」です。以下の行動を日常的に意識することが求められます。

・大事な話をするときに、相手の表情や態度を注意深く観察し、どこまで理解しているのか、どの程度共感を持って聞いているのかを意識しながら伝える
・質問などで相手の思考を促し、理解を深めさせるなど、適切な刺激を十分に与える
・本人の解釈を自らの言葉で発言させ、記憶の定着を促す。また、そうした機会を積極的につくる
・前提をずらした質問を投げかけ、相手の応用力、原則への理解度をつかむ

これらはどれも手間のかかる行為です。しかし、こうした双方向の応酬を経て初めて、リーダーの想定する判断基準が相手に正しく伝わるのです。

なお、受け手の受信状態を確認しない、あるいはできない要因として、伝えることに一生懸命になりすぎている、というケースもしばしば見られます。私自身も時折やってしまい、自己嫌悪に陥るのですが、自分なりに考えた所信ができ上がると、言いたい気持ちが先行しすぎてしまうのです。

こうなると、相手にも発言を促してはいるのですが、実際には半ば聞く耳を失ってしまいます。考えさせているつもりが、結局は「指示」になっていることもあります。受け手への配慮の感覚が麻痺した自分に時折気づいて、ハッとするケースは少なくありません。受け手を常に意識した意思疎通は、実に難しいものだと日々実感しています。

(本項担当執筆者:鎌田英治 グロービス経営大学院教員)

『自問力のリーダーシップ』
鎌田英治(著)、ダイヤモンド社
1,728円

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