『1分で話せ』の著者であり、企業でプレゼン指導をすることも多い伊藤羊一氏が、ITジャーナリストの神田敏晶氏にインタビュー。「伝える」とは何なのか、伺いました。
一人ひとりが発信することで真実が見える
伊藤:神田さんはYouTubeよりも前にKNN(KandaNewsNetwork)という小さな放送局を開設し、ご自身がメディアとして活動されています。きっかけは?
神田:元々はワインのマーケッターで、30歳のときに転機が来て、Macintoshの情報誌をつくり始めました。最初はAppl
伊藤:リクルートがフリーペーパーをつくったのよりももっと前ですよね。
神田:はい、その次にやってきたのが、CD-ROMブーム。
次にきたのが、インターネットの時代で、ビデオストリーミングサ
伊藤:当時はコンテンツとして面白いって思えた?
神田:ワールドカップの初日に「盛り上がっています!」ってとこだけテレビは放送するけど、撮影が終わったらみんなファーって脱力している。それを僕は撮っていた。ヤラセの構図が全部ダダ漏れだったわけです。
それで思い出したのが、1994年のロサンゼルスの地震。橋が崩れているところばかりCNNなどが映しているけど、引いて見てみたら大したことない。インパクトのある映像ばかり強調されるとフェイクニュースに近くなる。そうではなく、僕はジャーナリズム的に「普通の人を現場に連れて来たらこう見えた」と、全部引いて撮っていました。
ショックを受けたのは、1995年の阪神大震災。ちょうどこの年に独立してKNNを立ち上げたこともあって、震災の様子を撮り続けていました。しかし、どこまで引いてもリア
伊藤:一人ひとりがちゃんと自分の意思に従って発信しなきゃダメだって、気づいたと。
神田:そうすることで、ファクトが見えてきます。例えばTwitterが出てきたことで、あちこちで「少し揺れた」「信じられないくらい揺れた」みたいなツイートが生まれた。それをマッピングすれば事件の甚大さも分かる。
個人メディアって実はクールなメディアで、自分たちの感じ取った事象のセンサーとして今後も機能していくと思います。一方で、今までのメディアは売るためにちょっと装飾されていて、「それって本当に知りたいこと?」みたいな特性がずっとある。
イノベーターとして生きる
神田:一時期はアメリカに拠点を置いて、マルチメディア情報の発信をしていました。でも、インターネットバブルが弾けてからは全然仕事にならなくて日本に帰ってきました。
その後、COMDEX(コンピューター製品の展示会)でたまたまセグウェイっていう乗り物を見つけました。Amazonで50万円で買えるのに、誰も買わない。日本で乗れるかどうか分からないし、輸送するのも大変、税関を通るかどうかも分かんないんで。だから、「よし、買う」って。最初の1台を買いました。
当時はある企業に間借りしていたんですが、乗りたい人がたくさん押し寄せてきて。さすがにヤバいと思って、体よく断るためにレンタル30万円にしたら来なくなった(笑)。セグウェイレンタルは各地で始まっていったけど、東京の渋谷区では誰もしていないから、テレビの引き合いも多かった。そして、日本じゃダメなんだけど販売も始めたんです。
伊藤:道路交通法関係の問題がクリアしたあとに?
神田:いや、クリアしているかどうか10か所以上聞いて回ってもわからなかった。「原動機付き違反に当たるのでダメだ」「当たるかどうか誰が判断するの?」「うちじゃない」…の繰り返し。じゃあ、やってみるのが一番分かりやすいということで、原宿でイベントをやって。ニュース番組にも出て。それから半年後に書類送検され、最終的に罰金50万円の略式起訴になりました。
伊藤:2007年の参議院選挙に出たのはなぜ?
神田:その頃、僕の前置詞に必ず「セグウェイ」が付くことに辟易としていて、それを変えたかった。実は政治には昔から興味があって、当時「インターネットの選挙はなぜできないのか」というテーマに挑んでいたんです。議員に立候補予定だったら総務省で話が聞けたので、予定ということで話を聞くと潰さないとダメな壁がいっぱいあることが分かった。選挙に出た方がもっとインターネット選挙について記事も書けるだ
伊藤:僕は神田さんのことを何となく「表現者」や「メディア」というイメージで捉えていたけど、その前にフロンティアであると。「最初に突っ込むぞ」感が半端ない。神田さんみたいに興味を持つ人とそうじゃない人の違いって何でしょう?
神田:マニュアルを見て、使って、おしまいな人がほとんどなんです。僕は基本的にもっと面白くしたい、もっと人が驚くような使い方をしてみせたいんですよね。そこは自己顕示欲であり、人の面白がっているさらに上行く面白さを見つけることに対しての貪欲な部分で、寝ないでもやれる。今は、マレーシアで民泊事業もしていて、シェアリングエコノミーの面白さを追求しているところなんです。
伊藤:ソフトバンクアカデミアで神田さんを始め色んな面白い人と出会ったけど、僕とその人たちの1番の違いは「好奇心」だった。ビジネスをやる上でも好奇心って大事だから、みんなのことを観察したんですよね、主に神田さんですけど。そしたら、何を言っているかっていうと、基本的に「すげー」と「やばい」の2語(笑)。そのあとから意図的に「すげー」と「やばい」を言うようにしたんです。そうしたら後天的に好奇心が湧くようになった。
伝えることは生き様そのもの
神田:「ポジティブシンキング」ってありふれた言葉ですけども、自分の中に悪の感情を抱かないように生きています。相手を妬んだりディスったりする人生ほどつまらないことはないし。自分と会った人が楽しくなれるようにと毎日思っていると、自分よりも相手が得するように考えるようになる。相手が得することが、僕にとっての幸せなんです。
働き方もそう。ピラミッド・プリンシパル的には、底辺に「生き方」があり、その上に「働き方」、そして「組織」がある。その整合性が高くないと一緒にいる意味がないし、生産性も上がらない。生き方が似ている人と一緒に、誰かが喜んでくれるためにいっぱい汗をかく。そのためには、オフィスは単なるツールだからいらないし、マネジメントもほとんどいらない。ビジョンとゴールが決まっていれば、やり方は自分たちで全部決めればいいし、進捗を上手く共有できれば会議もほぼ要らない。
伊藤:神田さんにとってKNNって何だろうと思っていたんですけど、生き方そのものっていう感じがしますね。まず突っ込んで、そのために技術的なものが必要なら努力は苦にならないという習慣があり、みんなに伝えてお互いハッピーになるといいっていう。
この前、「どうすれば自信を持って人を巻き込むような話し方ができますか」って質問されて、初めてそのことに気付いたんです。「これはテクニックじゃない。一瞬一瞬が、僕の言葉が全部、生き様なんだ。自信がないのは生き方に自信ないからだ」って答えた。自分が何かしら伝えるものを求めて、それを伝えてくこと自体は、生き様そのものだと。
神田:僕がそれ確信したのは、阪神大震災ですね。「明日死ぬんだ」と思うと、人に合わせて、スキルを磨いて、テクニック的なものでなんとかセーフで生きていたら絶対後悔する。僕の後ろにはあわせて1万人ちかくの生きたかったけど生きられ
伊藤:僕も全く同じです。東日本大震災の復旧をやる中で、亡くなった方に少しでも顔向けできるような生き方したいって思うようになった。それが多分生き様で、それをそのまま声に出すから力強くなっていく。
最後にビジネスパーソンに「伝える」ことに関して何かメッセージはありますか。
神田:日常の中の小さな違和感って、みんなが持っていて、その集合知をまとめるだけでもメディアになる。そのソーシャルハックが政府や地方自治体に届けば、社会起業家や組織じゃなくても社会を変えられる。プラットホームに「この階段は歩きにくい」って書いたら、賛同する人が出て、AIが勝手にクラウドファンディングを立ち上げて、入札が始まって、次の日に行ったらもう直っている、みたいな。
だけど、ほとんどの人が会社に行く前に、自分の中の違和感を下げているんです。その違和感は、生き方と働き方と組織が一気通貫だったら、会社のためになるはず。だから、社是と自分の生き方が合わない会社で働かない方がいい。
そして、自分の心の中の気づきや違和感は、書いたり、発信したり、事業企画に落とし入れて常に磨いていってほしいですね。そういう意味で、伝えるっていうことは、自分自身がメディアになることなんだと思います。
【まとめ】
・伝えるとは、自分自身がメディアになること
・生活する中で感じる気づきや違和感を、
・面白いことを見つける。
・客観的に、自分が見える姿を伝えていくことが大事
・つまり、伝えるとは、生き様。働くことも、生き様
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