『ビジネス数字力を鍛える』から「数値を用いた資料を読み解くテクニック」を紹介します。
より上位の管理職になるほど、通常は自分で表やグラフを作るのではなく、部下を始めとする他者の作った表・グラフを見て物事を判断することが増えます。しかし、困ったことにそうした表やグラフから何を読み取ればいいのかが分からないというケースが少なくありません。より好ましくないのは、表やグラフの作成者が、不都合なことを隠すために、そのことが一見分かりにくい表・グラフを作成するというケースです。
典型例は、自分や自分のチームのパフォーマンスが良くない、あるいは進捗が遅れているのをうまく誤魔化すといったものです。そこで何も気がつかずに見逃すか、「これって何か変じゃない?」「これってグラフの描き方を変えたら全然違う感じにならない?」などと指摘できるかは、マネジャーの能力を大きく左右するといっても過言ではありません。マネジャーは通常忙しく、時間がありません。だからこそ、そうした表やグラフに込められた落とし穴を瞬時に見抜く力をつけることが必要なのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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数値を用いた資料を読み解くテクニック
ここから先は、表やグラフを読み解いていくうえでの具体的な注意点、テクニックを紹介します。主なポイントを図にまとめました。
表・グラフを見る際の共通の注意点
○意図のないものに注意する
これまでは、意図を持って表やグラフを作り、相手を動かすイメージを持つことの重要性を説明してきました。皆さんには、何かしらの意図を持って分析を行い表現するという気持ちを持っていただけたと思います。
しかし世の中は、このような考え方を持っている人ばかりではありません。まったく意図のない表やグラフは、そこかしこにあるのです。つまり、意図を見極めようとしても何も意図がないので読めない、という状況になるのです。そして意図を持たないように見える表やグラフでも、作成者が何がしかの解釈を加えている場合、資料を見る側にとっては、「なぜそう言えるのか」というロジックがわかりにくいので、短時間に重要なポイントを見極めることが困難になるのです。
下図をもう1度見てみましょう。(参考:良いグラフは仕事の生産性を上げる)
このグラフを作った人は、あまり深く考えず、最もありがちなエクセルのグラフを選んでしまったとしましょう。このままでは、このグラフを選んだ意図は明確ではありませんから、何を言わんとしているのか、見ただけではわかりません。必然的に、「2003年から2004年の製品別の売上高の変化を見ると、製品Eだけは落ち込みが大きく、何らかの対策を実施していく必要がある」というメッセージを読み取るのも難しくなります。
○データの出所、出典を確認する
最初に自分が見ている表やグラフの元データはどこから取られてきたのかを確認する必要があります。それが明確でないならば、その表やグラフは信用すべきでないと言っても過言ではありません。
特に最近は、グーグルを使えばほとんどのデータが入手できるかのように思ってしまいがちですが、インターネット上にあるものには、データ出所が明記されていないケースが非常に多いのです。あるいは、どこかからの引用や転載が、まるで伝言ゲームのごとく繰り返されていて、元々の意図が変わってしまっているケースもありますし、意図的に前提を省略したり、何かの理由で前提が抜け落ちたりしているケース、強調すべき部分を変えたりしているケースなど、信憑性の低いデータが山のようにあります。
つまり、そのまま使うには危なっかしいものが多いのです。まずは出所を調べ、情報の大元をしっかり確認しましょう。私もしばしば、「良いデータなのに、出典が曖昧だから使えない」といった目に遭遇しています。
○表やグラフの近傍に書かれた留意事項、前提条件を確認する
しっかりと作られた表やグラフの場合、グラフの周辺に前提条件が書かれているものです。逆に言えば、前提条件などが付記されず、表やグラフそのものが独り歩きしている場合には、注意が必要です。経年的に変化する可能性のある数字などは、いつ作られたデータなのかを確認することも重要です。
(本項担当執筆者:グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長 田久保善彦)
『ビジネス数字力を鍛える』
グロービス経営大学院/田久保善彦 (著)
1728円