『ビジネス数字力を鍛える』から「伝えたいことを明確にする図や表を選ぶ」を紹介します。
人間は数字に限らず様々なことを視覚を用いて考え、記憶に残す動物ともいわれます。視覚を用いて考えるということは前回も触れたとおりですし、また、グラフと共に伝えられたメッセージは、メッセージ単独で伝えられた場合に比べ、はるかに長く記憶に残るという実験結果もあります。言い換えれば、他人にしっかり理解してもらって記憶に刻んでもらうには、正しく視覚に訴えかける必要があるということです。
数字力の文脈で、それが最も重要になるシーンはグラフの作成です。私も様々なグラフを見ましたが、ポイントを押さえた読み手に優しいグラフを見るだけで、「この人は考えている」と感じることはよくありますし、逆もまたしかりです。もちろん、グラフ作成の巧拙だけで仕事力を測ることはできませんが、ある程度の正の相関があるのは間違いないでしょう。毎回とはいかないまでも、重要なプレゼンなどのグラフなどは、しっかりこだわって、聴き手の理解と記憶定着を促すようにしたいものです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
◇ ◇ ◇
伝えたいことを明確にする図や表を選ぶ
伝えたいことを相手にしっかりと伝えるには、まず、適切なグラフや図を選ばなければなりません。具体的な例を使って、より詳しく見てみましょう。例えば、次のケースで、あなたなら、どんなグラフを用い、何を伝えようとしますか?
「あなたは企画部長。明日の取締役会議で、自社の扱う製品の売上げの変化に関して簡単に報告をすることになっている」
いちばんオーソドックスなグラフは下図に示したものでしょう。年ごとにすべての製品の数字を積み上げ、棒グラフを2本作るわけです。これで十分と思う人もいるかもしれませんし、少し工夫して、製品ごとに棒グラフを描き、2003年と2004年の数値を比べるという人もいるでしょう。ここまでは、誰もが思いつく、ごく一般的な方法です。聞き手の印象としては、まあ、こんなものかな、という感じになるでしょう。
ここでもう一歩進めて表現を工夫したのが下図です。2004年の値から2003年の値を引き算し、その値だけを取り出してグラフにしたものです。
こうしてみると、製品Eだけが前年割れしていることが、きわめて明確です。先の2つの図に比べ、伝えたいことがひと目でわかるようになっているのです。
さらに工夫してみましょう。他の製品で積み上げたプラス分が、E製品のマイナス分でどれだけ影響を受けたかを示したのが下図です(このようなグラフを「ウォーターフォールチャート」と言います)。
どのグラフがいちばんよいという話ではありません。作るグラフによって、相手に伝わる、または伝えうるメッセージが変わる、ということが重要です。逆に言えば、伝えたいメッセージによって使うグラフを変えるべきなのです。
このように考えてくると、優れた伝え手が作成した資料には、伝え手の意図が明確に詰め込まれていると言えます。皆さんも、資料を作る際には
「この資料で自分はいったい何を伝えたいのだろう?」
ということを徹底的に考え、それがいちばんクローズアップされるグラフや図を選択し、表現すべきです。よく一般論として、「○○の場合は、○○グラフを使う」といった解説がありますが、それを鵜呑みにするのではなく、しっかりと目的に立ち返ってどんな図を使うべきかを考えるようにしてください。
(本項担当執筆者:グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長 田久保善彦)
『ビジネス数字力を鍛える』
グロービス経営大学院/田久保善彦 (著)
1728円