今年11月発売の『経営を教える会社の経営』から「CHAPTER6 評価 2.納得性の高い評価プロセスの追求」の一部を紹介します。
グロービスでは長年、新年度の自分の期待する職掌・タイトル・給与・役割を自ら申告してもらう「自己申告制度」を採用してきました。自己申告がそのまま受けいれられるわけではないですが、不服がある場合には話し合う制度も設けられています。これによって、評価報奨制度において最も重要な「納得性」が担保されるのです。
自分の実力に見合った申請を行うには、自分を客観視するメタ認知能力が必要となります。グロービスでは、自己申告が高すぎても低すぎても、「この人は自分を客観的に見ることができない」と思われてしまうので、このメタ認知能力を高めることが極めて大切なのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
納得性の高い評価プロセスの追求
ここまでで、グロービスが評価において最も重要視している「公平性(フェアネス)の追求」について触れてきました。本節では、評価において「公平性」と同時に追求するべき「納得性」について考えていきたいと思います。
●評価における納得性
評価において、「納得性」は「公平性」と同様に非常に重視すべき観点です。なぜならば、納得していない評価を押し付けられても、その本人としては、その後もずっとわだかまりが残り続けてしまい、気持ちよく前向きに仕事に取り組むことができなくなるためです。「個の爆発」を促すためには、自身の評価に対して納得し切った上で、新たな目標に向かって邁進する必要があるのです。
故に、この「納得性」は評価において非常に重要になるのですが、世の中的には、先の「公平性」よりも、この「納得性」を得られていない評価をしてしまっているケースの方が多いように感じています。実際に、私はこれまで様々な会社に属する方々から、「自身の評価に納得がいっていない」という声を沢山聞いたことがあります。よって、ここでは評価における納得性を実現させるために押さえるべきポイントを確認していきましょう。
評価における「納得性」とは、どうしたら実現できるのでしょうか? もし、誰がどう見ても「100%正しい」と言える評価がこの世に存在するのであれば、皆、自分の評価に納得できるのかもしれません。ただ、前段で触れた通り、人が人(他者)を100%正しく評価することはそもそも不可能なのです。よって、評価においては100%の正確性を実現することで納得性を実現することはできないため、評価基準をいたずらに精緻に細かく設計するのではなく、他の方法を考える必要があるわけです。
グロービスでは、評価結果における100%の正確性が担保できない以上、被評価者に納得をしてもらうためには、「納得性の高いプロセスを追求する」ことこそが重要だと考えています。ここから、その納得性を高めるためのプロセスとして具体的にどのような仕組みがあるかを見ていきたいと思います。
●自己申告制度
まず、グロービスの人事制度の中でも特にユニークと言われる制度に、「自己申告制度」というものがあります。これは、年度が切り替わるタイミングで、新年度の自分の職掌・タイトル・給与・役割を、他の誰に言われるでもなく、まずは自分自身で決めて、それを会社に申告するというものです。つまり、自分が新年度に、どのような役割を、どういうタイトルで、どのような給与で担うのかを、自ら申告する制度なのです。もちろん、申告通りに自分の希望が通るかどうかは、組織の審議結果次第ではあるのですが、毎年、自分の意思や希望を明示できる公式な機会が用意されています。
私は、初めてこの制度を聞いた時には、「自分で自分のタイトルや給与を申告できるなんて、なんて素晴らしい制度なのだろう!」と感激した覚えがあります。ただ、初めて取り組んだ際に、実際にはそんな生易しい制度ではないことを痛感しました。一旦の仮決めであったとしても、自分で自分のタイトルや給与を決めるということは、自分のことを客観視できていなければできないわけです。
「自分の市場における価値をいかに把握するか」、「自分は現在の給与以上の働きが果たしてできているのかどうか」、「周りから自分はどのように見られているか」といったことの自己認識が問われるわけです。故に、自分のことを客観的に見る視点に繋がるメタ認知能力が求められます。自分が周りから評価されている以上の申告を出してしまうと、組織からは「自己認識が甘い人」と判断されかねませんし、一方で控えめに出すと「成長意欲や努力をする意志がない人」と判断されるかもしれません。
この自己申告制度では、すべての社員か年に一度、必ず申告することが求められます。この制度によって、私は、毎年このタイミングで、この1年間を振り返り、自身の成果と成長について棚卸しをし、これからの新たに始まる1年間でどのような挑戦をしていくかを心に決めています。そういう意味で、この内省の時間はとても貴重なものであり、毎年、想いを固める良い時間になっています。まさに、グロービス社員全員の「自由と自己責任」が問われる瞬間でもあります。
『経営を教える会社の経営: 理想的な企業システムの実現』
著:グロービス 、 内田圭亮 発行日:2023/11/8 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社