あなたは、デジタルテクノロジーの発展を楽しめているだろうか?
デジタルテクノロジーの発展が著しい。
SNSのタイムラインでは、情報感度の高い人たち(アーリー・アダプター)による、その技術を「使ってみた」系の記事が賑わす。また、テレビのニュース番組は、その技術をビジネスで活用した企業の事例を豊富に紹介している。そして、会社内では上司から、その技術を使ってなにか事業を企画して欲しいという指示がある。
ブロックチェーン、メタバース、ChatGPT……、と新たなキーワードの相次ぐ登場に自分が振り回されている。やったほうがよいと思いつつ、何だか気持ちが乗らない。さまざまな角度から、その技術を使って何かビジネスを考えないと時代から取り残されてしまう気がする。この変化に、不安な気持ちになっている人も少なくないのではないだろうか。
その一方で、新たな技術の活用アイデアを考えると、様々な可能性が頭の中に広がり、ワクワクした気持ちになれるはずだ。そんな具合に、デジタルがますます発展していく世界のあり方を、あなたは純粋に楽しめているだろうか。一度、立ち止まって自身に問いかけてほしい。
Web3に至る価値観の変遷から、進化の全体像を掴む
今回取り上げる『デジタルテクノロジー図鑑』で解説されているのは、個別技術に関する情報の解説だけではない。どのようなことを背景にその技術が生まれ発展してきたのか、そして、それぞれの時代でどのような価値観が大事にされてきたのか、を手掛かりにデジタルテクノロジーの進化の全体像を掴むことができる。
本書はデジタルテクノロジーの進化を、Web1、Web2、Web3の3つの時代にわけて、それぞれの時代の価値観を分析している。改めて振り返ってみよう。
まず、Web1は「read」の時代だという。この時代にはウェブブラウザを通じ、たくさんの情報へのアクセスが可能になった。Yahoo!に代表されるポータルサイトが登場し、ユーザーにとって有益な情報を集約するサービスが台頭した。
次のWeb2の時代は、「読む」に「書く」が加わった「read/write」の時代であると指摘されている。Web1では限られた数のウェブサイトしか存在しなかったが、ブログサービスやYouTube等の消費者生成メディアの登場やFacebookをはじめとするSNSによって、誰でも簡単に情報発信ができるようになる。こうした情報が爆発的に増える状況で力を発揮したのがGoogleをはじめとするプラットフォームの存在であり、「検索」等の新たな技術を用いて、多くの情報からユーザーにとって有益な情報を見つけ出すことを可能にした。
そして3つ目のWeb3は、「読む」「書く」に「所有」が加わり、「read/write/own」の時代と表現されている。Web2では、GoogleやFacebookをはじめとするプラットフォームに、「読み手」と「書き手」のデータが集まっていった。たとえばGoogle検索の上位に表示されなければ、情報が目に触れる可能性が少なくなっていたり、あるいはそれらのデータを広告ビジネスに活かし、莫大な収益を上げていたりといったように、プラットフォームに権力が集中している。
この状況に対し、Web3で問われているのは「では、インターネット上に自分が構築したさまざまなデータ(ユーザー行動やSNS投稿データ)は、いったい誰の『所有』なのか?」ということだという。
本書ではこうしたデジタルテクノロジー発展の歴史を確認した上で、プラットフォーマーから「所有」を取り戻したユーザーが自分自身でデータを所有するという発想のもと、Web3によってどんな世界が生まれるかの事例が、経済、仕事、組織、国家等の切り口で37のキーワードのもとに豊富に紹介されている。
本書を通じて、デジタルテクノロジーの進化やトレンドを、Web1、Web2、Web3という区分によって掴むことができる。また、最先端のデジタルテクノロジーであるWeb3の豊富な事例に触れることもできる。もし、デジタルテクノロジーの発展に振り回されてしまっているのでは、という気持ちになっている人がいるとすれば、これらの情報に触れることで、各技術がどんな価値観に基づくものなのか分析する視点を得ることができるだろう。
ただし、このように書籍の情報を「読む」だけでは、本書の魅力は活かしきれないかもしれない。
書籍を「引く」ことで、自分なりの見取り図を作る
本稿の筆者はWeb3の動向にくわしくない。特に本書の大半を割いてで紹介されているWeb3のキーワードや事例については初見のものが多く、ついていくのがやっとであった。ただし、本書を読み進めていくうちに、だんだんと自分なりの理解が少しずつ構築されていくような不思議な感覚であった。
本書の前半でWeb1からWeb2、Web3にいたるデジタルテクノロジーを見る眼を養ったうえで、Web3のさまざまな事例に触れることができたからというのはもちろんだろう。それに加え、本書が百科事典のような作りになっており、項目を「引く」ことを通じて、ページをいったり来たりしながら、自分の興味に応じて読み進めることができたからだと思われる。
各項目の解説ページの例。写真中央太枠内のように関連キーワードのページが記載されている(P176:著作権者確認の上掲載)
タイトルの「図鑑」という言葉が示すように、本書にはデジタルテクノロジーに関連するたくさんのキーワードが項目立てて紹介され、その項目に関連するキーワードを解説したページがどこかも紹介されている。
たとえば、投稿内容がプラットフォームに「所有」されないWeb3版SNSである「分散型SNS」という項目のページでは、参考キーワードとしてその基盤となる分散型ネットワークの技術である「ブロックチェーン」、そのブロックチェーンで作成された代替不可能なデジタルデータである「NFT」、中央集権的な仲介者なしに行われる金融取引を指す「Defi(分散型金融)」等、Web3としての「分散型SNS」ならではの特徴を深掘りできるキーワードのページが紹介されている。その一方で、「Web2」や「SNS」といった中央集権的な価値観の中でのキーワードのページも紹介されており、「分散型SNS」とWeb2におけるSNSの違いを比較することができるようにもなっている。
なじみのないキーワードが多い中でも、地道にキーワードを「引く」作業を繰り返すことで、少しずついまのWeb2テクノロジーの特徴とこれからのWeb3テクノロジーの特徴が浮かび上がってくる。SNSやニュース、個別技術の解説本に接するだけでは断片的になりがちな情報に対して、本書があれば自分なりのつながりを見出し、自分なりにデジタルテクノロジーを考える際の「見取り図」を作ることができそうだ。
まだなじめていないWeb3のキーワードもいくつもある。これからも本書を「引く」ことを通じ、発展していく世界やデジタルテクノロジーとのこれからの付き合いを考えるのが楽しみである。
『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』
著:comugi 発行日:2023/7/1 価格:2,200円 発行元:SBクリエイティブ