日本の製造業で「コンプライアンス違反」が止まらない理由 

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不正には2つの異なるタイプがある

日本の製造業の信頼が揺らいでいる。日産自動車で無資格の社員が完成検査をしていた問題に続き、神戸製鋼と三菱マテリアルの子会社、東レの子会社による性能データ改ざん問題も発覚した。

これらのコンプライアンス違反に共通するのは、明らかに不正の意図をもった「首謀者」が見つからないことである。度重なる担当者の引き継ぎを経て不正が「慣行化」しているケースや、上層部の意向を「忖度」して、現場が微妙な不正を行ってしまっている。前者は神戸製鋼と三菱マテリアルのデータ改ざん問題、後者は東芝の不正会計が典型である。多くの場合、この両方が入り混じっている。

いずれも、不正に関与した人々が明らかな悪意を持って上司や顧客を騙そうとしたのではない。むしろその逆で、現場の慣行や上司への忖度の結果として生じた「行動の歪み」によるものである。こうした不正を「慣習・忖度型」の不正と呼ぼう。

こうしたタイプの不正は、アメリカ企業では見受けられない。例えば、エンロン事件やバーナード・マドフの詐欺事件は、明らかに悪意を持つ誰かによる意図的な不正である。このように、悪人が主導するタイプの不正を「意図・計画型」の不正と呼ぼう。このタイプの不正は、個人の懐を満たすことを目的として行われることがほとんどである。

ただし、日本でもこのタイプが少ないわけではない。例えば、2017年に発覚したバンダイの元社員による2億円の横領事件や、2015年に発覚したコマツで元社員による4億円の横領事件である。また、2011年に発覚したオリンパスの不正(経営陣による損失隠し)もこのタイプに近い。逮捕された7人の経営陣は、直接個人の懐にカネを入れたわけではないが、粉飾によって株価を不正に釣り上げた。そのメリットを最も享受したのは、他ならぬ逮捕された経営陣である。このように、日本では「意図・計画型」の不正が少ないのではなく、「慣習・忖度型」の比率が高いだけである。

では、「慣習・忖度型」の不正は日本企業に固有の現象なのだろうか。必ずしもそうではない。

例えば、2015年に発覚したドイツのフォルクスワーゲン社(以下、VW社)による「排ガス規制逃れ問題」がそれに該当する。その概要は、排出ガス検査時だけ合格するように設計された不正ソフトウエアを1千万台以上に搭載していたというものである。この事件は同社の屋台骨を揺るがせた。

このタイプの不正は首謀者が見つかりにくいため、長い間逮捕者が出なかったが、2017年になって米国で1名、ドイツで1名の現場責任者が逮捕され、ドイツでは開発担当(当時)の取締役が逮捕された。しかし、彼らは個人の懐にカネを入れたわけではない。排ガス規制が厳しくなる一方で、開発スケジュールは延期できない状況に置かれていた。こうした状況下で、社内のプレッシャーに耐えきれずに現場が手を染めてしまったゆえの不正だろう。

実際には、完全にどちらか一方になるわけではなく、両方の要素を含むケースが多い。東芝とVWは「慣習・忖度型」だが、「意図・計画型」の要素も入っている。オリンパスは「意図・計画型」だが、「慣習・忖度型」の要素も入っている。

企業のコンプライアンス違反に対する処方箋

企業のコンプライアンス違反を防ぐための制度には様々なものがある。オリンパスの粉飾のような「経営者の不正」であれば、コーポレート・ガバナンスの強化が有効である。具体的には、社外取締役を増やし、社長を指名する際に社外の指名委員の比重を高めるといった制度を導入すれば、世間や株主の意見が経営に反映されやすくなる。

しかし、いち早くこうした制度を導入していた東芝で、不正会計問題が起こってしまったのは皮肉である。同社は2003年に「委員会設置会社(取締役会の中に指名委員会、監査委員会、報酬委員会を置く)」を採用できるようになった際、他社に先駆けて委員会設置会社に移行し、先進的なコーポレート・ガバナンスを行っている企業と見なされていた。

では、なぜこうした不正を防げなかったのだろうか。なぜなら、これらの制度は「意図・計画型」の不正を防ぐためものだからだ。つまり、意図的に悪事を働く者がいることを前提に制度が設計されている。ここで用いた「悪事」の意味は、隠ぺいや虚位の報告などの不正行為を通じて、自己の利益を最大化することを指す。ちなみに、当時の東芝の社長や会長は現場に「チャレンジ」を求めたが、オリンパスの経営陣のように意図的に粉飾を主導したわけではない。この例のように、コーポレート・ガバナンスの仕組みをいくら強化したところで、「慣習・忖度」型の不正には全く効かないのだ。

これは経営陣以外の社員による不正にも同じことが言える。仮に内部統制のルールを充実させたとしても、それが効力を発揮しやすいのは横領やハラスメントなどの、「意図・計画型」の不正である。「慣習・忖度型」の不正は、内部統制をすり抜けてしまう。

例えば、日産の工場における最終検査工程の問題では、工場全体でルールが形骸化(ルール無視が慣習化)していたので、発覚までに時間を要した。また、神戸製鋼の場合は10年以上前から不正が行われていた(一説には40年前からという話もある)。三菱マテリアルの子会社の不正については、経営陣が不正を認識した後も出荷を続けたという。「慣習・忖度型」の不正に対して、いかに内部統制が予防につながらないのかが分かる。

「慣行・忖度型」のコンプライアンス違反を防ぐのが難しい理由

日本の上場企業はここ10年でコーポレート・ガバナンス(コーポレートガバナンスコード,2015年)と内部統制(日本版SOX法,2006年)を強化してきたにもかかわらず、こうした不正を防げていない。それどころか、近年になって頻発している状況である。その最大の理由は、「慣習・忖度型」の不正を予防するための処方性が見当たらないためである。

ゆえに、昨今頻発している「慣習・忖度型」の不正に対して、「意図・計画型」に適応した仕組みを強化するという処方箋は的外れである。むしろ企業内の管理コストを高めるだけで、不正を巧妙化させるだけだ。では、どうすればいいのか。そのためには、「慣習・忖度型」が起こる仕組みを理解する必要がある。

続き:首謀者不明な「コンプライアンス違反」に対する処方箋>>

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