「やっと社会人になることができた。自分で食っていける実力をつけるためにも、今のうちから学んでおきたい」
「ついに社会人になる日が来てしまった。研修が終わって現場に出るのが怖い」
「とりあえず、まずは同期に置いていかれないようにしなければ」
これらは、いずれも私自身が新入社員なりたての頃に抱いていた悩みです。
成長したい。でも無理はしたくない。失敗もしたくない。
でも多少無理して失敗しないと成長できない。
私はこの相反するモヤモヤ感から解放されるべく、いろいろと試行錯誤してみて、「頭の中にずっと残りつづけ、知識やスキルを自分の血肉にする」読書の方法論を編み出しました。この内容については、書評サイト「BIZPERA(ビズペラ)」の運営や拙著『投資としての読書』でも発信しています。
今回はこうした中で気づいた、ビジネススキルを高めるにおける「読書の効用」についてお伝えします。
毎日1%成長すると、1年後には37倍成長できる。そのカギは「読書」にある。
37倍。
これは「365日毎日1%ずつ成長した場合、1年間でどれだけ成長できるか」を示したものです。(1.01の365乗=37.78と計算できます)
例えば、研修期間に教わったことを1日30分でいいので振り返り、そのうち1つでいいので次の日にアクションをしてみる。あるいは、会議のあと、商談のあと、10分だけ時間をとって「良かったこと」と「改善できること」を3つずつ書き出してみる。
こういった取り組みを毎日1%ずつ積み重ねていくと、37倍とまではいかないかもしれませんが、1年後や2年後には相当な成長が見込めます。
成長した結果、より面白い仕事にチャレンジする機会を獲得できるかもしれませんし、効率を上げて残業を減らすことでよりプライベートを充実できるかもしれません。そのためにも、1日1%のプチ改善がカギになります。
「インプット」が断片的な知識を体系的にする
では、具体的にどんなサイクルを回していけば、毎日1%ずつ確実に成長できるのか。
組織行動学者デービッド・コルブが提唱している「経験学習モデル」があります。
経験学習とは、自分が実際に経験した出来事から学びを得ることを意味します。そのプロセスを理論化したものを経験学習モデルと呼びます。具体的には、以下4つのプロセスを回していきます。
- 経験:初めての分野や業務内容に対して、自ら考えて行動し、経験を積む
- 振り返り:あらゆる角度から経験を振り返る
- 概念化:1つの経験で得られた気づきを、ほかの場面にも展開できるよう持論化する
- 試行:持論化したことを新しい場面で試してみる
この経験学習モデルのサイクルをいかに回していくかが、1日1%確実に改善できるかどうかを左右します。
そして、このサイクルでいう「振り返り→概念化」の材料となるのが、「インプット」であり、そのための手っ取り早い手段が「読書」です。
もちろん動画学習でも、ざっくり手早く必要な意識を獲得できます。しかし「経験によって得られた断片的な知識を、自問自答しながら体系的に整理する」となると、自分のペースで文脈を紐解きながらインプットしていける「読書」のほうがオススメです。
参考記事:オンライン動画学習のメリットと限界
本を選ぶときの2つのコツ
では、具体的にどうやって本を選んでいけばよいのでしょうか。
拙著『投資としての読書』で述べた方法を2つピックアップしてみました。
- 全体観を持ちながら、鍛えたいスキルを決める
- 迷わず本を選ぶための「モノサシ」を持っておく
コツ①全体観を持ちながら、鍛えたいスキルを決める
例えば筋トレをするとき、いきなり「とりあえずスクワットをやろう」とは思わないのではないでしょうか。「高校生のときよりも明らかに足腰の衰えを感じるから、下半身を重点的に鍛えるために、スクワットをやろうかな」と考えるはずです。
そこでまずは、筋トレと同じように「全身の中のどの筋肉を鍛えたいのか」を言語化しておきましょう。
読書も筋トレと同様に、本を手に取る前に「ビジネスの基礎体力全体の中で、どの力を鍛えるのか」を考えていきます。例えば、私の場合、「ビジネスの基礎体力のマップ」を以下のように整理しています。
この中で、例えば次のように読む本のジャンルを考えてみてください。
- 「新卒研修を通して、”わかりやすく文章を書くこと”が苦手なことがわかった。だから、この1か月は”書く力”を鍛える本を読むぞ」
- 「研修が終わって実業務がスタートしたけど、大量のマニュアルを読み解くのに時間がかかってしまう。今度は”読む力”を鍛える本を読んでみよう」
このように考えながら本を読んでいくと、自分の得意・苦手なスキルについて全体観をもって把握できるようになります。
コツ②迷わず本を選ぶための「モノサシ」を持っておく
鍛えたいスキルが決まったら、いよいよ次は本を選んでいきます。
このとき、自分の中で「本を選ぶモノサシ」を持っておくと、良書に出会える確率がグッと上がります。
例えば、私は「わかりやすさ×深さ」のモノサシを使うようにしています。
わかりやすさ=読み手が「分けて」理解しやすいか
「わかる」は「分かる」、そして「分かる」は「分ける」と表現できます。つまり、「わかりやすさ」とは、読み手にとって「分けやすいか」を意味しています。
例えば、「コミュニケーション」という言葉を思い浮かべてみてください。
「コミュニケーション」と聞くと、色々なキーワードが浮かんできます。ただ、色々なキーワードが思い浮かぶ一方で、いまいち「コミュニケーションの全体像がよくわからない」と疑問に思ったとしましょう。
この疑問を抱いた人が、あるビジネス書を読むことで、思い浮かんだキーワードをスッキリ「分けて」理解できるのであれば、その本は良書といえるのではないでしょうか。
人は物事を「分けて」理解します。本を読む前は「コミュニケーションとは、ああで、こうで、うーん……一番重要なキーワードはどれなんだろう」と混乱している状態でしょう。そんな読者が、本を読んだ後に「コミュニケーションは、言語か非言語×インプットかアウトプットの2軸で整理できるのか」と理解できるのであれば、その本は十分役割を果たしたといえます。
では、どうやって「わかりやすさ=分けやすさ」を測ればよいのか。
私は次の観点を気にするようにしています。
- 本の内容が体系的に分解されて整理されているか?
- 中学生や高校生でも理解できる表現で書かれているか?
例えば、目次を見た時点で「背景・目的→主張→具体的な方法論」といった全体像がスッと頭に入ってくるのであれば、その本は「わかりやすさ」の観点で良書といえます。
また、テクノロジーなどの専門的な知識を知りたいときは、「中高生でも理解できる表現で書かれているか」も、本を選ぶ際に重要な観点です。
深さ=so what + why so + so how
本の深さを見極めるときは、3つのツッコミをしてみることをオススメします。それは「so what ?」「why so ?」「so how ?」の3つです。
この3つのツッコミは、私が新卒でコンサルティングファームに入社したころに、文字通り耳にタコができるほど言われた言葉です。この3つのツッコミを、本を選ぶ際のチェックリストに落とし込むと、次のように表現できます。
- 他の本に書かれていないような「あっと驚く洞察」がなされているか?(so what ?)
- 主張の根拠は十分か?ツッコミどころが多すぎないか?データや理論に支えられているか?(why so ?)
- 明日からすぐ実践できるほど超具体的な内容か?(so how ?)
書店に行ってみて本をパラパラめくりながら、簡単で構わないので「1行でも、見聞きしたことのない気づきが書かれているか?」「グラフが盛り込まれているか?引用はされているか?」「結論やまとめ部分に目を通したときに、取るべき行動のイメージが動画レベルでわくか?」をチェックしてみると、自分にとって有意義な本と出会えるはずです。
以下の「わかりやすさ×深さ」のチェックリストを手に、ぜひ書店に足を運んでみてください。
次回は新入社員の皆さんに特にオススメしたいビジネス書をご紹介します。
『投資としての読書』
著:本山 裕輔 発行日:2023/2/9 価格:1,760円 発行元:フォレスト出版