進化するExcelを使いこなす
本書は、ビジネスパーソンが定量分析を行う際に活用するソフトの中心であるExcelについて、実務での分析事例を紹介しつつ、「手を動かしてもらって」それを体験いただこうという1冊である。また、オーソドックスな表計算にとどまらず、「モダンExcel」の代表格であるPower Queryなどのツールについてもページを割いて活用方法を解説している点も相まって先進的かつ実践的だ。
本書を執筆したのはグロービス経営大学院で長く「ビジネス・アナリティクス」(古くは「ビジネス定量分析」)の教鞭を執られ、現在はファイナンス系科目の講座に登壇する人気講師の鷲巣大輔氏である。鷲巣氏は長年ビジネスの現場でFP&A(Financial Planning & Analysis)や管理会計に携わりながら、Excelを使いこなしてこられた。YouTubeでもExcelの使い方を動画にして公開されている。その技をテキストにしたのが本書ともいえる。
ケースを活用した、体験型の学びの工夫
本書の目次・構成は以下のようになっている。
- Introduction:分析の基本の「キ」
- Chapter1:定量分析からの顧客理解
- Chapter2:RFM分析を用いた顧客セグメンテーション
- Chapter3:回帰分析に基づいた「因果関係」の仮説検証
- Chapter4:DCF法を用いたプロジェクトの投資判断
- Chapter1:会社に何が起こっているのかを可視化する「予算・ギャップ分析」
- 資料:知っておくべき基本的なエクセル操作法
冒頭のIntroductionと最後の資料は比較的基本的な内容で、多くの分析本やExcel本に書かれている内容をコンパクトにまとめたものだ。
特徴的なのはChapter1からChapter5である。それぞれの章で場面(例:新任マーケティング担当者が顧客像を知る、新製品導入の意思決定など)を設定し、イシューを立てつつ、具体的な数字を用いて分析を進め仮説検証を行うシーンを、ワークシートを適宜紹介しつつ解説を加えて説明している。
各章で用いられている数字の元データは本書の出版社である東洋経済新報社のサイトからダウンロード可能である。つまり、実際に著者が本の中で用いている数字を読者もダウンロードし、本の中で行われている分析を追体験できるのである。Excelのようなツールは、本で読むだけでは身につかず、手を動かして実感することが大切だ。それゆえ、ぜひ読者にもそれを体験してほしいという意図である。
テクニックを学ぶだけでなく、経営・分析への関心を高めるきっかけに
『MBAのExcel』というタイトルからもわかる通り、それぞれのシチュエーションは非常にビジネス的である。Excelの超基本書にあるような、クラスの名簿を作るといった次元ではないのである。具体的にはChapter1と2はマーケティング、Chapter3はHRM、Chapter4はファイナンス、Chapter5は管理会計をテーマとして取り上げている。
たとえばChapter4では投資分析の基本であるDCF法を紹介し、NPVや感度分析といった手法についても解説している。つまり、Excelの実践書、解説書でもありつつ、バランスよくMBAの重要なキーワードやフレームワークにも触れられるというのが本書の特徴である。もちろん、紙面の都合もあるのであらゆるMBAのキーワードやフレームワークを紹介することはできないが、「ビジネスではこうしたことを知らないといけないのか」という気付きを得るきっかけにもなるだろう。
本書の帯には「経営学+エクセル+分析を実務に即して 『リアル』に『まとめ』て『一気』に学べる」とある。ある意味では贅沢な内容を一冊に圧縮しているのである。 単に達人の技に触れるというだけではもったいない。ぜひ手を動かしながら、使えるエクセルテクニックを習得するとともに、経営や分析に対する関心を高めるきっかけとしてほしい。あわせて鷲巣氏のYouTube動画や、グロービス学び放題の動画もご覧いただけるといいだろう。
『MBAのExcel: 即戦力になる!』
著・編集:鷲巣 大輔・グロービス 発行日:2023/2/23 価格:2,420円 発行元:東洋経済新報社
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