SNSやデジタルツールの普及により、個人が情報発信したり稼いだりとするインフラは整い、さまざまなチャンスが転がっているようにも見える。また、働き方改革や人生100年時代を見据えたキャリア構築の仕方など、多様な生き方が選択できる環境になってきた中、「自分らしい生き方をしたい」と思う人も増えてきているのではないだろうか。
本書はそんな自分らしくよりよい人生を送りたい人たちに、分かりやすくアドバイスをしてくれる。その根底にあるのが、キャリア構築をマーケティングの観点で捉えていくという考えだ。
「自分を表現する」ではなく、「相手からスタートする」
『自分らしい人生』を送りたい人は、自分の好きなことを好きなように表現することに意識が行きがちだ。しかし、筆者は「自分を表現する」より「相手の役に立つ」を意識することが大事だと言う。「マーケターのように生きる」とは、人の役に立ち、自らの価値を高めることに他ならない。より多くの人の役に立つことができたら、自分の価値が高まり、より相手に必要とされるようになる。だから、相手からスタートして、相手が求めていることを深く理解しなければならないのだ。
相手も知らない「相手の望み」を理解する
「相手からスタートする」「相手が求めていることを理解する」ということは、字面では分かっていても、本当に理解することは難しいものだ。というのも、相手は往々にして、自分が何を欲しているかはっきりと理解していないことが多いからだ。逆に言えば、本人が何を必要としているかを明らかにしていければ「相手にとっての価値」を定義でき、ビジネスの勝敗を分けることにもなりうる。
では、具体的にどうしたら相手も知らない「相手の望み」を理解することができるのだろうか?筆者は、以下の2つをポイントに挙げている。
- 価値にはどのような種類があるのかという「知識」
- それを聞き出す、引き出すための「対話の技術」
価値の種類は4象限で分けられる
そもそも価値の種類は、「顕在的/潜在的」の軸と「機能的/情緒的」の軸で4象限に分けられる。
これらの価値の中では、表面的には理解しやすい実利価値が取り上げられやすい。が、他者との差がつくのは実利価値以外の価値だ。だが、それらを見出すのは簡単ではない。では、どうやったら見出し、理解できるのか?
それは、自分一人で考えるのではなく「相手の中から見つけ出す」ことだ。そのためには、相手の声を聴かなければならない。それも、本人も気づいていない心の声を探りに行く必要がある。
心の声を聞き出そうと思って、直接的な質問をしても、本当の望みを探ることはできない。その解決策として、著者は「雑談」を勧めている。雑談は、相手がリラックスしているため、より本音が引き出しやすくなる。雑談における口振り、身振り、表情などからも心の声のヒントを見つけ出すことができるというのだ。
価値をつくり、伝える対話の技術
相手を見出し、理解できても、相手にとっての価値を作り出し、伝えようとしなければ相手には届かない。(キャリアアップのために)個人がアピールするというのは抵抗感があるという人もいるだろうが、何より大事なのは、価値を届けたい相手に自分と出会ってもらうことである。
そのためには、①覚えてもらう②好きになってもらう③選んでもらう、が必要になる。特に勝負の行方を大きく左右する②好きになってもらう、のために具体的なポイントになるのが次の3つだ。
- 繰り返し伝える
- 自分ごとにしてもらう
- 心を動かす
これをキャリアの中で生かすためには、積極的に人に会い「共通の知人を増やす」ことや、人前で話す機会をつくり、新たなことにチャレンジすることで「ニュースの供給源」になる、といったことが有効だと著者は言う。新しい何かにチャレンジし続けることは、「話題になる」ための戦略であるのみならず、自分自身の成長にもなりうるので、チャレンジが上手くいかなかったとしても、良いことしかないだろう。
マーケティングはあらゆる人の役に立つ『思想』である
つまるところ、ビジネスにおいても、個人のキャリアにおいても、「利他の精神」を持ち、「新しいチャレンジ」を続けていくことが、これからの時代に必要な要素になるだろう。
私は日頃から受講生の皆さんに「マーケティングの考え方は、どんな人にも役に立ちます」とお伝えしてきているが、著者は本書を通じてこの考えを後押ししてくれた。よりよい人生を生きるために、自分自身もマーケティングの観点を広く活かしながら、利他の精神とチャレンジする姿勢を忘れないようにしたい。
『マーケターのように生きろ: 「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動』
著者:井上大輔 発行日:2021/2/19 価格:1,760円 発行元:東洋経済新報社