『グロービスMBAで教えている プレゼンの技術』から「立ち居振る舞いはここをチェック」を紹介します。
「メラビアンの法則」という言葉、ご存知ですか。最も本来の意味を勘違いされている法則とも言われていますが、一般にはプレゼンテーションにおける態度や見た目の重要度を示す法則として紹介されることが多いようです。この法則は知らなくても、プレゼンテーションの印象が、内容以上にプレゼンターの見栄えや態度に影響されるという実感は多くの人が持っているでしょう。事実、他の実験でも、結局人は見た目(特に第一印象)に大きく左右されることが示唆されています。内容が伴わないプレゼンテーションでは意味がありませんが、内容「だけ」が良くても人を動かすという最終目的は果たせないことは心しておきたいものです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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立ち居振る舞いはここをチェック
本節では、プレゼンテーションの「実施」時に聴き手の心証をよくするためのポイントを記します。それらは大きく「立ち居振る舞い」と「話し方」に分けることができます。まずは「立ち居振る舞い」について、以下の5点に分けてチェックポイントを解説していきます。
1. アイコンタクト:聴き手への向き合い方
2. 姿勢:立ち姿や着席時の安定感。身体の向きなど
3. 動作・ジェスチャー:手の使い方や、立ち方・歩き方、立つ場所など
4. 表情:目や囗の動かし方など
5. 服装と身だしなみ:服装の選択など
1. アイコンタクト
まず、大切なのはアイコンタクト、つまり聴き手の目を見て語りかけることです。聴き手の目を見て語りかけることで聴き手は「自分に対して話しかけられている」と思い、真剣に聞く度合いが増し、内容が印象に残りやすくなるのです。
アイコンタクトは、一人あたり2秒から3秒がおよその目安です。スクリーンを見てスライドを読み上げるようなことは極力避けた方がよいでしょう。
聴衆が十数名以上のときは、まんべんなくアイコンタクトをすることも心掛けましょう。コツは会場にZやW、Mの字を描きながら視線を移していくことです。こうすることで、聴衆全体をくまなく見ることができます。
2. 姿勢
ここでは話し手が立っていて、聴き手は座っているという場合を想定して、ポイントを挙げておきます。
背筋を伸ばす
背筋はきちんと伸ばして、話をしましょう。猫背だと、自信がなさそうだったり、暗い性格のように見えてしまう可能性があります。逆に胸を張りすぎると、尊大な印象を与えてしまう恐れがあります。天井から頭の頂点を糸で吊られているイメージを持って、真っ直ぐにすっと立つのがオススメです。
上半身を前後左右に揺らさない
立って話をしている際、上半身が前後左右に揺れてしまう人が時折います。聴き手からすると、落ち着きがないように見え、話し手への信頼や安心感が損なわれてしまう可能性が生じます。
その場合、上半身が揺れないよう、体の軸を意識します。コツとしては前述の通り「天井からの糸」を意識できるとよいでしょう。
両足でしっかりと立つ
左右の足に均等に体重をかけて立つことも大切です。片足だけに体重が乗り、もう一方の足は膝が少し折れている、いわゆる「休め」の姿勢は、聴き手に対してだらしない印象を与えてしまう恐れがあります。また、「休め」の姿勢はともすると、あるときは右足に体重、しばらくしたら左足に……というようにグラグラ動き、結果として前述の「上半身の揺れ」につながってしまいます。両足の幅は肩幅と同じか少し広い程度に開き、左右の足に均等に体重をかけて立つとよいでしょう。
3. 動作・ジェスチャー
身体全体の使い方にも注意を払いたいものです。ポイントは「ゆっくりと大きく動き、堂々と振る舞う」ことです。以下詳細を見ていきます。
動く/動かないをはっきりと意識する
「動くときは動く」「動かないときは動かない」のメリハリをつけることができるとよいでしょう。これは主に上半身のみならず、歩き方、立ち方など下半身の動きを伴うものもあわせ、全てに共通して言えることです。話し手がちょこまかと動いていると、聴き手は話に集中しにくくなってしまいます。また、自信がなさそうに見えてしまうのもメリハリをつけずに動くことの弊害です。
歩くときはゆっくりと大きく歩く
会場内を動くときは、ゆっくり大きく動くとよいでしょう。ゆっくり大きく動くと、話し手が自信を持っているように見えます。また、話し手自身が内心で焦っているときには、心を落ち着けるきっかけとすることもできます。
グローバル環境では2~3倍の動作・ジェスチャーで
聴き手の大半が日本人以外など、グローバル環境でプレゼンをする際には、動作・ジェスチャーに一層気を使いましょう。特に、日本人向けにプレゼンをするよりも、2~3倍増しの感覚でちょうどよいくらいです。聴き手は話し手のメリハリのきいた動作・ジェスチャーをより評価し、そこに話し手への情熱を感じたり、信頼を感じたりすることがあるからです。これは後述する表情についても同じです。
字を書くときは、聴衆全員から見える十分な大きさで
プレゼンをしながら、ホワイトボードに字を書いて説明するときもあるでしょう。このときは、字の大きさは聴衆全員から見える大きさで書くことを心がけてください。自分が日ごろ書いている字の大きさだと、最後尾の人からは小さくて見にくいことがあります。十分に大きい字を書くコツは「ゆっくり書く」ことです。慌てずにペンをゆっくり走らせると、字の大きさをコントロールしやすくなります。
手で何かを指すときは、指先まで神経を使って
ホワイトボードに書いた字や、スライドを投影したスクリーンなど、何かを手で指すこともあるかと思います。そのときは、指先まで神経を使い、揃えた指先で対象物をしっかりと指すようにしましょう。
4. 表情
聴き手の人数によらず、一人ひとりに対して言葉だけではなく表情でも語りかけることも大切です。そのポイントは次の通りです。
想いは表情から溢れているか?
メッセージにあわせて表情にも変化をつけることが大切です。たとえば、新たなチャレンジを伴う年間方針をメンバーに伝える際には、真剣な表情に笑顔を多く交える、逆にトラブルが発生しているときには厳粛な表情を保つ、といった具合です。そのためには、自分で「悲しい顔をしているつもり」のとき、ちゃんとそれらしく見えるのか、他の感情ではどうか、を把握しておくとよいでしょう。
質疑応答時にも油断をしていないか?
質疑応答の際にも、表情を意識しましょう。ありがちなのは、相手から質問が寄せられている際に、痛い所を突かれたくないとばかりに表情が硬くなってしまうことです。すると、そのギャップに聴衆は「先はどの笑顔は演技だったのか?」と興ざめしてしまうことになるのです。
基本は、笑顔を見せながら相手の話をうなずきながら聞けるとよいでしょう。また、真剣な表情で相手の目を見ながら聞くのもよいことです。これは特に深刻な質問などを寄せられた際に有効です。ぜひ、質疑応答の際にも表情に気を配れるようになってください。
5. 服装と身だしなみ
プレゼンの際は、口調や身体の使い方はもちろんですが、服装や身だしなみについても注意を払う必要があります。このようなアピアランス(容姿や外見)を重点的に解説した書籍やセミナーなども最近は増えています。詳細はそうした書籍等に譲りますが、基本的な考え方を以下に紹介しておきます。ポイントは「聴き手、メッセージ、自分のキャラクターと調和する身だしなみ」をすることです。
相手の環境に配慮する
身だしなみで大切なことは、まずマイナス点をもらわないことです。その際、特に相手が日ごろ過ごしている環境や社風から大きくかい離した、奇抜な服装・身だしなみをすることは避けましょう。たとえば、保守的な社風の会社にあまりにラフな服装で行くなどです。第一印象で「なぜこの服を選んだのか」ということに相手が気を取られ過ぎてしまい、信頼関係を築きにくくなる可能性があります。また、シャツが裾から出ていたり、襟が立っていたりしないかなど、基本的な身だしなみに留意することは言うまでもありません。プレゼンの直前には鏡で服装をチェックしておくとよいでしょう。
もちろん、こうしたことはプレゼンテーションの内容によってリカバリーすることも可能です。ただ、まずは相手の環境への配慮を怠った結果、余計な失点をしないことを心がけましょう。
メッセージと調和する身だしなみをする
メッセージと調和する身だしなみをすることも大切です。たとえば、若々しさやエネルギッシュなメッセージを出すときには、カジュアルな服装をしたり、明るい色を身にまとうなどの工夫をすることです。
自分のキャラクターと合わせる
最後に大切なのが、自分が日頃振る舞っている姿や社会的立場からかい離しすぎないことです。プレゼンをしていると、自ずと話し手の人となりが垣間見えるときがあります。そうしたとき、服装や身だしなみがあまりにも話し手のキャタクターと異なると、これまでの内容自体にも信頼性が損なわれてしまう可能性があります。自分自身のキャラクターと合った服装をすることもぜひ心がけてください。
(本項担当執筆者:中丸雄一郎)
『グロービスMBAで教えている プレゼンの技術』
グロービス経営大学院 (著)
1800円(税込1944円)