これはメタバースの本?
最近何かと巷を賑わせているバズワードの一つ:メタバース。そんなメタバースを少しでも理解しようと本書を手に取ったわけだが、私の読了後の感想は、「この本は、メタバースの本?」というものだ。もちろん、メタバースについての言及もある。しかし、それ以上に、この本を通じて学べることは、「世界を創造するためのレシピ」である。まるで神様になったかのような高揚感のあるイシューだが、「世界を変えたい」と考えるビジネスパーソンの皆さんにとっては、絶対に読むべき類の本とも言えそうだ。では、「具体的に新しい世界をどうやって創造すればよいのか?」「新しい世界とメタバースがどう関係するのか?」など、色々な“?”(疑問)が思い浮かんでくることだろう。
世界の創り方とは?
さて、世界を実際に創る前に、まず我々が理解しておかなければならないことがある。それは、世界の構成要素、すなわち「世界とは何と何で構成されているのか?」ということである。著者によると、世界の構成要素は、視認できるビジュアルとしての「視空間」と、社会的な機能と役割をもつ「生態系」だと提示される。そして、それぞれの要素ごとに、どのような点に注意して、新しい世界を創造していくのか、そのレシピが公開されていくわけだ。
興味深いのは「生態系」に対する著者の分析である。うまく回っている生態系の特徴として、著者は「自律的であること・有機的であること・分散的であること」を挙げており、自然界の生態系からアナロジーを得ていることが分かる。この部分だけでも、ビジネスリーダーにとっては「良い組織とは?」という問いに対する示唆が得られることだろう。
レシピの最後を飾る著者による締めの言葉も、中々興味深い。新しい世界を創造する上で、最後に大切になってくるのは、「今よりも良い世界を創ろうとする人間の“強い”意志」だというのだ。グロービス流に言うと、最後にモノをいうのは、「志」ということだろう。
新しい世界の創造とメタバースの関係性は?
最後にメタバースとの関係性について述べておこう。これを説明するには、本からの引用を紹介したい。
『現代において世界を変えるためには、どんな方法が一番効果的なのでしょう。それは、新しい生態系の仮説を考え、実際にうまく成り立つことを証明することです。世界を変えるためには、これが近道です。―(中略)―「世界を変えたい」と考えている人は、既存の世界の問題点を克服するために新しい生態系のモデルを考え、仮想空間(もう一つの生態系)を実際に成り立たせることを成功させればよいのです。』
現在の資本主義社会を始めとする社会システムは、それなりに良くできたシステムである一方で、その限界も見えてきている。そんな今こそ、メタバースを未来の社会の「実証実験」の場として用い、新しい世界観を提示し、賛同者を増やし、現実世界に還元することが可能となりつつあるのだ。グロービス経営大学院では“社会にダイナミズムを起こす「創造と変革の志士」を輩出する”ことを掲げているが、そんな言葉に共感する我々こそ、新しく理想的な社会システムを創造し、世の中に変革をもたらすべきではないか。この本は、その教科書となる一冊と言える。
世界創造の方法論以外にも、著者が創業したメタップスでの苦悩を通じて上場企業におけるプロジェクトの進め方の難しさを追体験したり、AKB48の総合プロデューサーで有名な秋元 康 氏、あるいは『ドラゴン桜』・『宇宙兄弟』の編集者の佐渡島 庸平 氏によるヒットコンテンツを創り出す秘密から、物事を抽象化し原理・原則を導き出す術を学べたりと、読み応えのある書籍に仕上がっている。是非、手に取って読んでみてもらいたい。
『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』
著者:佐藤 航陽 発行日:2022/03/31 価格:1,650円 発行元:幻冬舎