内省こそ、起業家が失敗から立ち直るか否かの「鍵」

今年3月発売の『起業の失敗大全』から10章「立ち直るために」の一部を紹介します。

何事にも失敗はつきものであり、起業も例外ではありません。ただ、前と同じ失敗をしてしまう起業家もいれば、失敗を糧にして成功する起業家もいます。何がその差を分けるのでしょうか。それは端的に言えば学習です。つまり失敗から学んだことをしっかり言語化し、次の起業に生かせる起業家は成功の可能性を高めることができるのです(もちろん、成功が保証されるわけではありませんが)。

そして学習の鍵を握るのが「内省」です。まずはしっかりと自分を客観的に眺め、何が失敗の原因だったのかなどを検討し、教訓を言語化することが必要です。その教訓を自分の中だけに留めず、複数の知人・友人に確認することも重要です。そうすることで学習をより効果的なものにできるとともに、追加のアドバイスなども得ることができるからです。失敗を振り返るのは辛いことかもしれませんが、それを端折ってしまうと、また同じ失敗を繰り返す可能性が増すことは銘記すべきでしょう。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

内省(リフレクション)

喪失感が引き起こす強い感情を乗り越えたら、起業家は失敗後の旅の、次の段階に進む準備ができています。スタートアップの失敗から教訓を得ることは、2つの理由から容易ではありません。第一に、物事がうまくいかないと、自分の欠点ではなく、他人や外部環境のせいにしようとする、防衛的な思考が働いてしまいます。第二に、悲しみは学習を妨げることがあります。失敗した起業家が経験した強い感情は、そのような障害となります。

こうした理由から、内省をまったく行わない人や、内省からほとんど何も学ばない人がいます。このような起業家は、「誰が悪いのか」を悶々と考える傾向があります。一方では、自分が一連の大きなミスを犯して、スタートアップを破滅させたと結論づける起業家もいます。自分は絶望的に無能で、これまでも、そしてこれからも、スタートアップを率いるのにふさわしくない。事業閉鎖後に意気消沈している人にとって、この解釈は、しばしば落ち込みに伴う自尊心低下の感覚の延長線上にあります。

一方、特にナルシストの起業家は、「自分の行動はすべて正しかった」と確信し、傷ついた自尊心を癒すような解釈をします。ベンチャー企業が失敗した原因は、他人の無責任な行動や悪意のある行動、あるいは自分ではコントロールできない不幸のいずれかであると考えるのです。

起業家の中には、本当にスタートアップを率いるのに適していない人がいますし、ほかの仕事を探すべき人もいます。また、これまで見てきたように、スタートアップの失敗は、起業家のミスと不幸の組み合わせではなく、不幸だけが原因の場合もあります。つまり、一部の起業家は、「誰が悪いのか」を本当に問える立場にあるのです。しかし、自己分析の誤りは、本人にも社会にも損失をもたらします。起業家としての能力や才能があるにもかかわらず、「自分には能力がない」と思い込み、立ち去ってしまうと、彼らが築いたであろうベンチャー企業を、世に出すことができません。そして、その正反対の生意気な起業家が再び馬に乗り、前回と同じ失敗を繰り返したとき、彼らは、新しいチームメイトや投資家とともに、またしても大きな打撃を受けることになるでしょう。

このような極端な事態を避け、ベンチャー企業の終焉から正しい教訓を得るには、どうすればよいのでしょうか。まず、時間の経過が癒しの効果を発揮するようにしましょう。事業閉鎖からある程度の距離を置くことで、感情的な刺激が弱まり、何か悪かったのか、どんなミスを犯したのか、何を変えればよかったのかがわかりやすくなります。第二に、「死後」の分析を書き上げることです。書くことで論点を明示し、ギャップや論理的矛盾を明らかにすることができます。最後に、自分や失敗したベンチャーのストーリーをよく知っている人たちに、「この教訓は正しいと思うか」と聞いて、検証しましょう。

これまでの章で紹介してきた、失敗したベンチャー企業の起業家たちはみな、このようなプロセスを経ており、そこから多くのことを学んでいました。もちろん、このような綿密な自己分析から得られる結論は、起業家によって大きく異なるでしょう。

すべての起業家は、失敗した後、自分白身を見つめ直す必要があります。彼らは自分自身に、次のような一連の質問をするべきです。

  • 失敗は避けられたか? 価値を創造したり、維持したりするために、もっと何か違うことができたのではないか、すべきだったのではないか?

何年にもわたって、頭の中や他人との会話の中で、何度も何度も出来事を再現しながら、このことを自問自答することになるでしょう。

  • スタートアップは本当に自分に向いているのか?
  • もう一度やり直すとしたら、そうするか?
  • この経験から何を学んだのか?
  • この経験から、自分自身の得意なことや改善すべき点を知ることができたか?
  • 人々は再び、私の戦いについてきてくれるだろうか? そうすべきか?
  • 人々は再び、私に投資してくれるだろうか? そうすべきか?

(失敗したアパレル・ベンチャー、クインシーの共同創業者である)クリスティーナ・ウォレスは、70人の友人や仕事上の関係者に、「私の得意なことは何ですか?」と聞きました。(失敗したフラッシュセールサイト、ファブ・コム創業者の)ゴールドバーグは、自己分析の結果を共同創業者、役員、チームメンバー、エグゼクティブ・コーチ、投資家、配偶者と共有し、自分に足りないものがないかを確認しました。その結果、「私はスタートアップの起業家/CEOに適していますが、将来の失敗を避けるためには、より専門的に事業を拡大する方法を学ぶか、あるいは、ほかの人にそれを任せる必要があることがわかったのです」

最終的に立ち直ったゴールドバーグは、フィットネスやヨガのインストラクターと消費者をつなぐプラットフォーム、モキシーを共同設立しました。彼は失敗した起業家が立ち直るためのアドバイスを、次のように述べています。「自分が本当に得意なことに集中し、それを基本に戻すこと。既存の企業でも、ほかのスタートアップでも、本を書くことでも、教えることでも、ボランティア活動でも、ポジティブな影響を与えることができる優れたスキルをまだ持っていることを、自分自身やほかの人に証明してください。失敗した後に、自分がまだ何か価値のあるものに長けていることを思い出させてくれるようなことを、1つでも見つけてください」

起業の失敗大全 スタートアップの成否を決める6つのパターン
著者:トム・アイゼンマン 訳:グロービス 発行日:2022/3/30 価格:2,970円 発行元:ダイヤモンド社

グロービス出版
グロービス電子出版

RELATED CONTENTS