「部下を動かす」「組織を動かす」といった表現、日常的によく耳にするのではないだろうか。
しかし、トップコピーライターである著者は、「人を動かすことはできない」と断言する。そして、我々ができることは、「人が動きたくなる」ようにしたり、「自ら進んで動いてもらう」空気をつくることだと主張する。つまり、コミュニケーションをする上で大切なのは、自主的かつ能動的な行動を促そうという心構えを持つことなのだ。
とはいえ、一生懸命に考え、十分な準備をし、自信を持って顧客や社内へ企画を提案したにもかかわらず、意図が相手に伝わらない…といったことは日常茶飯事だ。人が「動きたくなる」空気をつくるために、具体的にどうすればよいのだろうか。
本書では、言葉を「外に向かう言葉」と「内なる言葉」の2種類に分けている。相手が共鳴・共感し、動きたくなる状態にするためには、後者の「内なる言葉」を磨き、自分の意見を育てる努力をすることが不可欠という。
そのうえで、「内なる言葉」を磨くための思考サイクルとして、
・アウトプットする(頭の中を徹底的に書き出し、
・拡散させる(なぜ?それで?本当に?を繰り返し、
・化学反応を起こす(あえて真逆の視点、
という3つのポイントを挙げ、プロセスに分解して具体的な手法を紹介している。
私自身、担当する法人企業での人材育成の現場で、課題解決に向けた提言やリーダーとしてのミッションに強く共感し、「応援したい」「自分も動きたい」と感じた場面を振り返ると、発表者自身が「内なる言葉」と向き合い、本音をさらけ出し、発せられる言葉の深さと重さを感じられた時だったように思う。
将来、自分が成し遂げたいことを実現するために、周囲の共感や賛同を得るためのヒントを得たい方、自分自身の想いを相手の心により届けるための方法を学びたいという方に手に取っていただきたい1冊だ。
『言葉にできるは武器になる。』
梅田 悟司(著)
日本経済新聞出版社
1500円 (税込1620円)