今年のGWは、本を片手にお出かけしませんか。グロービス経営大学院 教員やグロービス・ファカルティ研究員らがオススメの書籍をご紹介します。
チーム力をあげる「問いかけ」の実践
推薦者:許勢仁美
本書は、発揮されずに眠っているチームのポテンシャルを最大限に発揮させるための「問いかけ」の実践書だ。
前著『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』の続編だとしたら、抽象度の高い内容なのではないか、という心配には及ばない。
書名を「問い」から「問いかけ」へ、名詞から動詞へ変えたことに、著者の強い意志が表明されている。名詞としての「問い」という人工物をいかにデザインするかという難題に取り組んだ前著。対して、本書は実践のリアリティを踏まえて「問いかけ」という行為に関する知見を編み直したものである。明日から何か一つでもよいからアクション、変化を起こしてほしいという願いが込められているのだ。
4月から新しいチームをマネジメントしている方や、いつものチームミーティングに物足りなさを感じている方には、ぜひ手に取ってみてほしい。
ファシリテーションに慣れた方にとっても、新たな着眼点を得られる一冊になるだろう。
『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』
著者:安斎勇樹 発行日:2021/12/23 価格:1980円 発売元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
充実したGWを迎えるための一冊~読書で学ぶ歴史と経営
推薦者:垣岡淳 グロービス経営大学院教員
突然ですがこの文章を読み始めたアナタ、歴史がお好きでしょう?
で、読書が好き、そう、本大好きですよね~?
そしてさらに、このページ(知見録)にアクセスしているくらいなので、経営に関する学びが大好物ですよね?
え? 違う??
まあ気にせず進めますね。
で、この連休にどんな本を読んだらいいか、迷っている?
そうですよね?
え? ちょっと強引??
なになに、もったいぶらずに早くって???
はい、そんなアナタにピッタリの一冊があるんです。
歴史と経営に通じた二人の“ギーク”が、「始皇帝からグーグルまで、古今東西の戦略・組織」を縦横無尽に語った対談集がコレ!!おまけに関連図書まで紹介してくれるという太っ腹具合!!
例えば、「イノベーション」を取り上げた一節はこんな感じ。
アメリカ大統領になった「リンカーン」のエピソードを皮切りに、中国統一を果たした「秦」、そして「明治維新」と、“イノベーションは辺境から”という括りで縦横に歴史語り。
同じ文脈で、今をときめく「ワークマン」や家電ナンバー1の「ヤマダ電機」といった北関東(≒辺境)起点の流通企業に触れ、事例研究として経営の学びへと昇華。
とどめは、イノベーションを最初に論じたとされる一冊、シュンペーターの『経済発展の理論』を紹介、更なる読書へと誘う…。
如何ですか?
読みたくなったでしょう??
ちなみに読み始めは連休前半がおススメです。
何故って? なんと100冊以上の本が紹介されているのですよ、これが。
それでは良いGWを!!
『オリエント 東西の戦略史と現代経営論』
著者:守屋淳、三谷宏治著 発行日:2021/6/25 価格:2200円 発売元:日本経済新聞出版
学習科学による驚きの「効率的な学び方」
推薦者:谷原英利
皆さんは、学び方に興味がありますか?
最近では、働き方改革が注目を集める一方で、学び方に関しては、残念ながらそれほどは注目されていません。しかし、VUCA(先行きが不透明で将来の予測が困難な)時代に生きる私達現代人は仕事の一部として常に学び続けなければなりません。その意味では、日々多忙なビジネスパーソンの皆さんだからこそ、仕事での生産性と同じく学習にも効率と成果を求めてはいかがでしょうか?
学習科学とは、認知科学等の研究知見を基に学習の効率と成果を研究している学問です。
今回紹介する書籍は、この学習科学による最新の実証研究から科学的に正しいとされる学習法を解き明かしています。著者たちの「もっとも効果的な学習法は直観に反するのだ」との言葉が端的に物語る通り、日本で長らく精神論と経験則から正しいとされてきた学習法が実は間違いだとわかっています。本書は、特に我々日本人にとっては目から鱗が落ちる内容の連続です。
例えば、「教科書を何度も読む」「同じ科目を集中して勉強する」「テキストを様々な色でハイライトしたり線を引いたりする」等のありがちな方法は、いずれも学習効果が薄いとの研究結果が出ています。何となく昔ながらのやり方で学んでしまっているそこのあなた、ぜひ本書を読んでこの機会に「本当の勉強法」を知ってみませんか?
『使える脳の鍛え方 成功する学習の科学』
著者:ピーター・ブラウン、ヘンリー・ローディガー、マーク・マクダニエル 翻訳:依田卓巳 発行日:2016/4/14 価格:2640円 発売元:NTT出版
問題解決に煩わされたくない人のための予防法
推薦者:田岡恵
私はとにかく無駄がきらいである。問題が起きるたびに、「解決しなければ」と反射的に動き出す半面、心の中では「どうして防げなかったのか」というやるせない感情が渦を巻いてしまう。それゆえに、書店でこの本の帯に書かれた「その瞬間、無駄な作業が全部消える」という謳い文句を目にした時、迷わず手にとった。はたして、第1章を読むだけでも、私の期待にたがわぬ内容であると確信した。
本書で言う「上流」とは、問題が発生する最初の根本原因のことである。私たちが日常で経験する問題の多くが「下流」で起きているが、問題が時の長い川を下って下流まで流れてきたときには、事態はすでに収拾することが困難なほど大きくなってしまっている。しかし、「上流介入」することで、「問題は未然に防げる」。このことを本書は300以上のインタビューで具体的に伝えてくれている。例えば、「空き巣を何十年も前に防ぐ」ための方法が「女性の生活の質の改善」だと言われて、興味をそそられない人がいるだろうか。
「上流思考」とは簡単に言えば、「問題の予防法」である。「まだ起きていない」ことに思考とリソースを投入する、という発想である。その発想にコミットするためには、私のようにひたすら無駄を嫌う特性か、それなりの先見の明が必要となる。
しかし、起きた問題にしかお金や時間を使いたくないのが、人間の悲しい性だ。組織として「まだ起きていない問題」へのリソース投入の意思決定をすることには、困難が伴うことも容易に想像ができる。
この本は、日々(無駄な)問題解決に煩わされる徒労感に悩まされている方々への一服の清涼剤となり得る。同時に、事業や組織の問題の質を本気で変えたいと願うビジネスリーダーたちには、新たなリーダーシップの命題を提示してくれているように思う。
『上流思考――「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』
著者:ダン・ヒース 翻訳:櫻井祐子 発行日:2021/12/15 価格:1980円 発売元:ダイヤモンド社
今だからこそ、示唆深い「ゲーミフィケーション」
推薦者:林浩平
皆さん、こんな目的意識はないでしょうか?
・ユーザーが、自社サービスを使い始め、その後も夢中で継続する。
しかも、ファンとして周りに熱くお勧めしてくれる。
・自社スタッフが、仕事に夢中で取り組み続け、色々な制約も創意工夫で乗り越える。
しかも、その経験やノウハウを周りに熱く語る
社外ではマーケティング、社内ではマネジメント、と相手は異なりますが、そういう方にお勧めしたいのが、本書『ゲーミファイ』です。
「ゲーミフィケーション」は、2010年頃に注目を浴びた概念ですが、その後は(ハイプサイクル上の他概念と同じく)幻滅期に入り、現2022年時点だと類書は少なくなっています。本書も、出版は2016年とやや古く、「今さらゲーミフィケーション?」と思われる向きもあるかも知れませんが、むしろ、今も/今だからこそ示唆深く感じられ、ご紹介したい次第です。
・人々が「自分の目標」に夢中に取り組んた結果、ビジネス目標も達成される―
そうした状態を生む「仕組み」をどう作るか。ITはどう活用すべきか?
・その際、利己的で露骨な"操作/誘導"や、表層的な"DX"に陥らない要諦は?
これらは、2016年以降も「ゲーミフィケーション」という言葉とは関係なく、実ビジネス/社会で試行錯誤や実装が進んでいるテーマですが、成功/失敗事例を紐解くと、本書が示すコンセプトに見事に重なる感があります。本書は、ゲーミフィケーションに対する「熱狂のあとの幻滅期を乗り越え、回復へと向かうための実用的なガイドブック」だといえます。
また、『ゲーミファイ』は、ビジネスだけに限らず、"ダイエット"や"子育て"などのプライベートにも有効です。皆さん、本書を読みながら、自分や誰かを「あることに夢中にさせるには?」を考え、試してみてください。その分、自分や周りの方の日々が「楽しく」なりますよ。
『GAMIFY ゲーミファイ―エンゲージメントを高めるゲーミフィケーションの新しい未来』
著者:ブライアン・バーク 翻訳:鈴木素子 発行日:2016/1/15 価格:2317円(Kindle版) 発売元:東洋経済新報社
価値転換の先にある「プラスサム資本主義」
推薦者:本田龍輔
SDGsをテーマとした書籍が巷にあふれる中、本書は、SDGsの本質やSDGsが目指す世界、経営への実装方法を丁寧に紐解いた「SDGs思考」シリーズの第二弾となる。450ページを超える大作だが、一貫して伝えられているのは、SDGsに通底するインクルージョンの概念とグレートリセット※をきっかけとした価値の転換の先にある「プラスサム資本主義」である。
※グレートリセット:2021年に開催予定だったダボス会議のテーマ。今までの経済社会システムを全てリセットし、全く新しいものを構築することを指す。
現在、主流となりつつあるESG投資が、社会に対するマイナスの影響をなるべく減らしている企業に積極的に投資するものであることに対し、プラスサム資本主義は、さらに先の段階にあるという。たとえば、積極的に自然を増やす企業、あるいはサプライチェーンに関わる人々の権利を伸長する企業のみが社会に存在することを認められる世界である。これは単なる成長や分配とは異なる。「ゼロサム」からの脱却といえよう。
本書には、プラスサム資本主義の到来を見据えた重要トピックが満載だ。カーボンニュートラルの実現に向けて義務化が進められる気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、生物多様性の維持に向けて着々と構築が進められている自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)、急速なデジタル化がもたらすデジタルデバイドと分断を乗り越えるためのデジタル・インクルージョン、ダイバーシティ&インクルージョンを実現するうえで欠かせないエクイティ(衡平)の概念など、SX時代における経営イシューが網羅されている。
SDGsの入門編や事例集では物足りない方、SDGsを自社の経営にどのように練りこんでいくべきかお悩みの方に教科書として活用していただきたい一冊だ。
『SDGs思考 社会共創編 価値転換のその先へ プラスサム資本主義を目指す世界』
著者:田瀬和夫、SDGパートナーズ 発行日:2022/4/21 価格:2200 円 発売元:インプレス