『最難関のリーダーシップ』――ハーバード卒業生が最も影響を受けた授業の本質とは? 

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本書は、ハーバード大学の卒業生に最も大きな影響を与えたリーダーシップクラスのエッセンスをまとめた本です。共著者のうち、メイン著者のハイフェッツ氏は医師からリーダーシップ研究に転じ、ハーバード・ケネディスクール(行政大学院)で教鞭をとるというやや変わったキャリアの持ち主です。企業はもちろん、政府機関や国際機関、あるいはNPOのアドバイザーも務めていることからも分かるように、ビジネスに閉じない広い知見が含まれた1冊でもあります。

本書で提示するリーダーシップは、アダプティブ・リーダーシップ(適応型リーダーシップ)と呼ばれるもので、技術的課題以上に適応課題を乗り越えることを主眼とします。

トヨタに代表される「カイゼン」活動の巧みさからも分かるように、日本企業は技術的課題への対応は、比較的得意としていますが、環境変化がもたらす大きな変化への適応――自分自身のメンタリティの変化も含む――については必ずしも得意とは言えません。たとえばビジネスモデルの大きな転換や、M&A(買収、被買収、合併)による大きな組織の変化などがその典型です。しかし、この混沌とした不確実性の高い時代にはむしろそちらの方が重要になっていくのは論を待ちません。

リーダーシップとは権威のある人間に求められる役割ではなく、誰もが果たしうる機能や行動であるということは近年よく指摘されることですが、本書でもその立場がとられています。むしろ、プライベートも含むあらゆる場面でアダプティブ・リーダーシップを発揮し、相手や自分を変えていくことを提唱しています。

本書では、実はびっくりするほど新しいコンセプトはそれほど紹介されていません。基本は実験、実践へのアドバイスを提供することだからです。サッカーに例えれば、新しい戦略や戦術を提唱するというより、いかに着実に個人やチームの力を高めるか、そのヒントを詳細に述べた指南書という側面が大です。

アダプティブ・リーダーシップでは、観察-解釈-介入-(再度)観察…を実践の基本プロセスとし、ステージごとに、そのコツを身につけることが大切とされます。ちなみに、本書の章建ては以下のようになっています。Part1が理論編で、Part2からPart5は実践編です。

Part1:イントロダクション 目的と可能性
Part2:システムを診断する
Part3:システムを動かす
Part4:自分をシステムとして認識する
Part5:自分を戦略的に動かす

この構成からも分かるように、実践に向けてのヒントがプロセスごとに事細かに書かれており、比較的納得できる個所が多いと思います。ただし、読んでみて分かったということと、実践できるということの間には非常に大きな溝があります。私自身、経営学を教えているからこそ、ヒントを得られる一方で、実践の大変さが思い浮かぶ個所も少なくありませんでした。

ただし、本書は「実験のための書」と言っていることからも分かるように、まずは小さな事柄からでもいいので、地道に実験をし、コツを掴むことを推奨しています。そしてそれをより大きな事柄にも用いることで、成功の可能性が増すという点が重要です。

本書ではまた、実験、実践に加え、「メタ認知」を非常に重視しています。メタ認知とは、一段階レベルの高いところから、自分自身を含め、状況を客観視する思考法です。まずは自分を取り巻く環境を正しく捉えたうえで、何か行動を起こし、そこからさらに学び、考えるという方法論は、非常に現代的と言えます。

本書では、Part2以降、「バルコニーにて」というコーナーで観察すべきポイントを示し、「現場での実践演習」というコーナーで、実験へのヒントを紹介しています。この部分だけでも読んで試してみる価値は大です。

特に組織変革のような大きな転換シーンにおいて、リーダーシップを発揮するのは難しいものです。しかし、難しいからと言って、人任せにするのでは、ビジネスパーソンとしての成長は期待できません。

いきなり難しいことに挑戦するのではなく、まずは身近なところで成功体験を積み、それをいつか大きな場で発揮できるように準備するという意味でも、本書は大きな参考になるでしょう。マネジャーの方のみならず、これからさまざまな適応課題に直面する若手の方にも読んでいただきたい1冊です。
 

『最難関のリーダーシップ』
ロナルド・A・ハイフェッツ他著
2,400円(税込2,592円)

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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