経済ニュース「1文目」は多くを語る ビジネスパーソンの必須知識

ビジネスパーソンが経済ニュースの「確度」について見極める能力は非常に重要です。ニュースに出ていた=事実と信じ込むのが禁物であるのは言うまでもないことですが、ひと口に経済ニュースと大きく括っても、ほぼ確定したものから、不確定要素の大きいものまで幅広くばらつきがあります。確度の濃淡をどう読み解くか―。実はニュース記事の(特に1文目の)表現にカギがあります。記事を書く記者が、確度の濃淡をその表現を通じて使い分けているのです。今回はニュースの確度をざっくりと判別する方法を紹介します。

ほぼ確定した話題=「発表モノ」

(1)双葉工業は2日、三つ葉産業と人工知能分野で業務提携すると発表した。
(2)日銀は20日、金融システムリポートを公表した。

ニュースリリースや適時開示資料、報道機関向けの配布資料をもとに、担当記者が取材して執筆した記事を「発表モノ」と言います。ほとんどの場合、1文目に「発表」や「公表」などの語が入っています。「公表した」「発表した」と書いてあれば、確定した話だと判断してよいと言えます。

報道機関が配信する経済ニュースは、インターネットを通じ広く拡散されます。事実と異なる報道をすれば厳しい批判にさらされるだけに、報道現場は事実関係の確認にかなり多くの資源を割き、正確な情報配信に努めています。資料がある場合でも丸写しは厳禁で、発表内容そのものに誤りがないか、取材活動を行います。

発表モノは誤報のリスクがかなり小さいと考えられますが、もちろん例外はあります。STAP細胞をめぐる騒動は記憶に新しいですが、最初の報道は理化学研究所の発表を受けた「発表モノ」でした。一読して理解しにくい複雑な内容のニュースリリースの場合、記者は電話などで広報担当者に問い合わせをします。この段階で企業とのミスコミュニケーションが発生し、双方がそれに気づかなければ、誤情報の配信リスクが高まります。

確度が分かれる「独自ニュース」

未公表でかつ、過去に他メディアで報じられたことがない記事は、独自ニュースと呼ばれます。米英メディアの場合、”Exclusive”などと明記されることがあります。独自ニュースは、取材を通じた記者の判断が幾分か混ざった表現となり、書きぶりによって確度が変わってきます。独自ニュースの1文目の例と、確度との関係について掘り下げてみましょう。

1.「方針を固めた」

(3)山陽電機製作所は関東照明を買収する方針を固めた。

「方針を固めた」は、確度がかなり高く、近く正式発表が行われると記者が確証を得た場合に用いられる表現です。上場企業のトップ交代に関しては「人事を固めた」という表現が使われます。企業ニュースの場合、経営陣のコンセンサスが形成されている場合がほとんどであり、記者も情報の正確性について、トップや役員など、内部に精通する人物からの言質を取ったうえで記事にするのが通例となっています。

もちろん「方針を固めた」との表現を使ったにもかかわらず、結果として誤報だったという事例が、全くなかったわけではありません。取材対象者が認めた内容であっても、独占禁止法上の審査など行政当局の判断など、外的要因で報道通りにはならなかった、というケースもたびたび起きています。正式発表があったとしても、今後の動向についてウオッチし続ける姿勢が必要です。

2.「わかった」「明らかになった」

(4)山陽電機製作所が関東照明を買収することがわかった。
(5)山陽電機製作所は関東照明を買収する方針を固めたことが、明らかになった。

これらの表現も、1.と同様、確度が高い記事と位置付けられています。(4)は独自ニュースの例で、(5)は他社のスクープ記事の内容を確認し、ほぼ同じ内容で配信する記事(後追い記事)の例です。複数のメディアが後追い記事を配信した場合、そのニュースの確度はかなり高いものと受け止められることとなります。

「関係者への取材でわかった」「複数の関係者が明らかにした」との表現を使った記事も存在します。マルチソース(複数の取材源)から確認したことを明示した後者の記事の方が、確度がより高いとみなされます。ニュースバリューや時間的な制約を考慮しながら、報道現場が問題がないと判断した場合は、前者のようにシングルソースの記事を配信することがあります。

3.「方向で調整に入った」「検討に入った」

(6)名古屋ミシンは米国で新工場を建設する方向で調整に入った。
(7)東北電機は生産時に使用する電力のうち、再生可能エネルギーの比率を高める検討に入った。

実現に至らなかった際、後で不正確な情報を流したと指摘されるリスクを回避する手段として、記者が用いることが多いのがこれらの表現です。「方向で調整に入った」に比べ「検討に入った」は、まだ合意形成の初期段階で、実現までのハードルが高い状況にあることが示唆されています。

取材対象者が未確定情報を記者に提供し、記事になった後の社会や業界、マーケットの反応を見極めるのを目的とした「観測気球」的な記事にも、これらの表現が用いられることがあります。いずれにせよ、確定までは紆余曲折があるかもしれない、と受け止めることが肝心かと思います。

4.「…する」には落とし穴も

(8)東京半導体は、本社機能をシンガポールに集約する。
(9)双葉工業は医療機器事業に参入する。

文末表現が動詞の終止形などで終わる独自ニュースの場合は、確度の判断で少々慎重さが求められます。過去に誤報とされた記事に、比較的多い表現とみなされています。明確な誤報というのはそうそう起きることではありませんが、ひとまず確定前の情報だととらえ、同じ内容で正式に発表されるのかどうかを見極めるべきかもしれません。発表内容と報道内容の細部が微妙に異なっている、といったことも時々みられます。(もっともインパクトがそれほど大きくない記事の場合、ニュースリリース自体が配信されないこともよくあります)

何らかの事情で新聞紙面を構成する原稿が足りなくなった場合、新聞社によってはデスクが急遽、記者に独自ニュースの出稿を要請することがあります。中面(1面以外の面)のトップとして予定していた原稿が、1面に出ることになった、といったケースが該当します。(8)や(9)は中面の主要記事によくみられる表現です。誤報の原因には様々なものがありますが、時間というプレッシャーがあっても記者は常に冷静さを保ち、事実に謙虚であることが求められます。

会見時の発言の捉え方

別の視点となりますが、取材対象者の発言を紹介する記事についても触れておきます。

(10)広島ビールの別府執行役員は10日の決算会見で、今期のノンアルコールビールの出荷見通しについて、前期並みにとどまりそうだとの見方を示した。
(11)岡山化学は15日、香川興業によるTOB(株式公開買い付け)に賛同すると明らかにした。岡山化学の幹部が同日、報道陣の取材に応じた。

「認識を示した」や「明らかにした」は、記者会見や、記者を招いたオンレコ懇談会などの出席者による発言をもとに執筆された記事に多用されます。取材対象者が歯切れの悪い発言を繰り返したり、質問と回答が微妙に食い違ったりした場合、発言者の意図とは違うニュアンスで報じられることが多々あります。

取材対象者の発言部分は「クオート」と呼ばれ、本来は捻じ曲げてはいけない神聖なものです。ところが経済報道の世界では、取材時の発言内容がそのままでは読者には伝わりにくいと記者やデスクが判断すれば、語句を補ったり、表現を見直したりすることがしばしば行われています。この際、メディア従事者の主観的な判断が入る余地が生まれるということは、留意すべきだと思います。

※文中の記事は架空のものです。

(文=GLOBIS知見録編集部 長田善行)

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