本書は、SWA(Smart Work Accelerator)の概念を打ち出し、特に営業担当者が楽しくかつ効果的に働ける環境をクラウドサービスを通じて提供している企業で代表を務める著者が、これからの日本企業のビジネスのあり方や、働き方の変化について記した1冊である。
著者による提言が多数説明されており、納得できるものが多いが、その中でも特に自分が共感したのが以下の部分だ。今回はこれらを中心に紹介しよう。
- モノを高く売らないと企業にも日本にも将来はない
- 現場の情報を正しく捉え、解釈し、企画につなげる力が差を生む
価値観の差が利潤につながる
デフレ経済と言われて久しいが、単にコスト削減を続けて戦っていては、消耗戦になるし、従業員の満足度やエンゲージメントも高まらない。国としての生産性も低いままだ。まず日本企業が決別すべきは「20世紀型の大量生産によるコストダウン」「改善の積み重ねによるコスト削減」である。もちろん、これらは完全に否定されるものではないが、あらゆる企業がこれに気をとられすぎていては利益は出ないし生産性も低いままだ。コストを下げる方向性から、思い切って高く売る方に知恵を絞るべきというのは納得性が高い提言といえよう。
モノや商品を高く売るコツにはいくつかのものがある。よく言われるのは、「オンリーワンの(あるいはそれに近い)存在になること」「顧客が高値を払うことを納得する『嬉しさ』を提供すること」「お金を払うに値する個性的なブランド(「らしさ」)を構築すること」「モノを売るだけではなく、独自の体験価値を届けること」などだ。本書でもこれらについては別の表現で語られているが、著者が繰り返し説いているのは、価値観の差が利潤につながるということだ。アービトラージ(裁定)は時代を超えて有効ということである。
歴史をたどれば数百年前、インドでは当たり前の品であった「胡椒」は、ヨーロッパでは金銀と同じ価値で取引された。近年でも、他の人にとっては価値の低い「掘り出し物」を見つけ/あるいはそれを加工して売り(例:着物のリメイク)、利益を上げている企業は存在する。うまく価値観の差を見出したり、作り出すことができれば、ビジネスチャンスはいたるところに存在するのである。
価値観の差を知るためには、文化を知ることが重要というのが著者の主張だ。人間は自分の感覚だけで物事の価値を決める傾向があるが、それは好ましいことではない。異質の文化を多々知ることが、価値観の差、すなわちビジネスチャンスにつながるというのは、言われてしまえば当たり前のようであるが、多くのビジネスパーソンができていないことではないだろうか。
現場の情報を正しく捉え、解釈し、企画につなげる力が差を生む
「情報は21世紀の石油」ということが言われて久しい。ただ、ここで言う「情報」はいわゆるネット上で生成・収集されるビッグデータを指して用いられることが多い。もちろんそうした情報も重要だが、やはり消費者やユーザーの生声やアナログな情報などにもビジネスチャンスは多々眠っている。それを的確に収集し、スピーディに解釈して企画につなげ、製品・サービスとして上市することが、企業の競争力につながるというのが著者の意見である。
そのためには、営業担当者が雑談なども通じながら的確かつ確実に意味のある情報を集め、素早く会社としてシェアすることが必要となる。高収益企業で知られるキーエンスの営業担当者が5分以内に情報をまとめるのは有名な話だ。人間は時間がたてばどんどん情報を忘れるし、その時に感じたことも曖昧になっていく。それでは、ビジネスチャンスを逃してしまう可能性が高まる。こうした基本をまず的確に行ったうえで、それらをもとに企画につなげることがポイントなのだ。
筆者は、良い企画を生み出すカギはオフィスにあるという。昨今はコロナ禍でオンライン会議全盛だが、だからこそコミュニケーションの在り方をしっかり見直すとともに、ポストコロナに備えてオフィスでの企画力を高める試みが重要だという。それこそが、AIではなく、「人間だからこそ出せるバリュー」につながるからだ。これは現在進行形の課題なので、絶対的な正解はないが、企業としては真剣に取り組むポイントだろう。
本稿では、本書の中から2つのポイントについて紹介したが、その他にも「最強のビジネスモデルの作り方」、「主観の重要性」、「賢く将来に賭けられるのは人間だけ」、「スマートグラス時代のビジネスの在り方」など、ユニークな視点が豊富である。2020年代の勝ち残りの方法を模索されている方にヒントにしていただきたい1冊である。
著者:別所宏恭 発行日:2021年9月 価格:1628円_ 発行元:クロスメディア・パブリッシング