G1ベンチャー2017にて、DMM会長の亀山氏とメルカリ社長の小泉氏が「イノベーションを生み出す組織」について語ったセッションの模様をお届します。(全3回)
“日本版ユニコーン”経営者たちが考えるイノベーションを生み出す組織のつくり方[1]
麻生巖氏(以下、敬称略): 今日は日本を代表するユニコーン企業の経営者御二方にお越しいただきました。いろいろなお話を45分間で聞けるだけ聞いて、そのあと15分ほど質疑応答に充てたいと思います。まずは亀山さんから。
亀山敬司氏(以下、敬称略): はい、ユニコーンです。(会場笑)でもね、俺ちょっと調べたんだけど、ユニコーン企業っていうのは上場前提で時価総額が1000億超のところを言うらしいんだよね。だから、うちはユニコーンでも一角獣っていうより二角獣。「永遠のユニコーン」みたいな。小泉さんのところはそのうち(ユニコーンの領域から)出ていくけど、俺はずっとここに居続ける。麻生さんのところもね。
麻生: もうずっと非上場ですね。
亀山: ね? というわけで、(小泉氏を指して)本物のユニコーン、どうぞ。
小泉文明氏(以下、敬称略): この振り、すごいやりづらいんですけど(笑)。何からお話ししましょうか。
麻生: じゃあ、テーマにも「組織のつくり方」とあるので組織論的なところから伺っていいですか? 組織の特徴ですとか。
小泉: 今、僕らは会社をつくって4年です。社員数は50人が100人になって、200人になって、今は500名ぐらいになりました。海外で100人前後、日本で400名強ですね。当然、新卒採用はあまりやっていなくて、ほぼ中途採用でここまで来てます。職種別だとカスタマーサポートが多くて、社員の6割前後。それ以外だとエンジニアが100名前後という感じですね。
麻生: 組織運営で特に気をつけていることは何かありますか?
小泉: 中途採用が多いこともあるし、やっぱりミッションとバリューの徹底はすごく大事にしています。僕自身はメルカリの前にミクシィという会社を経営していたんですけど、今考えるとひとつ反省点があって。サービスが伸びている会社っていうのは、ほうっておいても会社のマインドがいいんですよ。ポジティブなマインドがサービスと一緒に伸びていく。でも、プロダクトのライフサイクルに伴ってサービスが少し落ちるときはあって、そのときに会社としてのミッションやバリューがしっかり浸透していないと雰囲気まで一緒に悪くなる面があるんですね。なので、僕らは最初から、ある程度は会社とサービスを分けて考えていて、会社としてのミッションやバリューの徹底ということをやってきました。
亀山: それで今どれぐらいの売上なの?(会場笑)
小泉: 去年の国内売上が「官報」ベースで130億ぐらいです。
亀山: 儲けのほうは?
小泉: 日本だけだと営業利益で33億前後ですね。
亀山: 今はそれぐらいの人数がちょうどいいの?
小泉: そうですね。
亀山: なるほど。うちはITだけでも20年ぐらいやってるし、それ以外も含めると創業して35年ぐらいだから、(小泉氏を指して)こんな風に昨日今日できた会社とは違って伝統と歴史がある(笑)。麻生さんのところは創業何年だっけ?
麻生: 145年です。
亀山: 145年か(笑)、それには勝てないけどさ。で、社員は今3000人ぐらいで、売上は2000億前後。儲けは、まあ、言わないということで。(会場笑)
小泉: 僕言わされましたよ(笑)。
亀山: 言いたいやつは言えばいいけど言いたくないやつは言わなくていいの(会場笑)。非上場の特権なんだから。
小泉: 「官報」に出ちゃってたんで。
亀山: まあ、とにかくうちはそういう感じ。あとはなんだろう。メルカリと少し違うところと言えば、彼らはこの4年間で優秀な人材をいっぱい集めてきた。あっちこっちから抜きまくってたと思う。いい会社のいい人材に「うち来いよ」みたいな感じで。メルカリも「メルカリ、ヒトカリ(人狩り)」とか言われてたもんね。(会場笑)
小泉: そこまで言われてないと思うんですけど(笑)。
亀山: だから小泉さんたちを含めて、今をときめくエンジニアとか、とにかく優秀なやつらが集まってる。でも、うちのほうはビデオレンタルやカフェで働いてたやつらの叩き上げ集団みたいな感じ。つくりがぜんぜん違うかな。
で、メルカリのほうはたぶんそろそろ軋轢が生まれてきてるんじゃないかと思うんだよね。優秀なやつらばっかり集まると、そうなる。優秀なやつは自我が強いから。うちなんかは従順なやつもいるわけよ。でも、優秀なやつの集合体だと「あーだこーだ」って、上のほうで揉めてるんだろ?
小泉: 揉めてはないですけど(笑)、ビジョンというか「会社としてここに行きたいよね」みたいな話はいつもしてます。しないと本当にブレるから。今回は経営メンバーの体制も変えてますけど、体制面含めて「将来どこに行きたいの?」という議論は結構してます。亀山さんのほうはそういうお話はあまりしないんですか?
亀山: うちは最近社長も替わったし。小泉さんが社長になったのは4月だっけ?
小泉: 僕は4月ですね。
亀山: うちも去年12月頃、35歳ぐらいの社長に替わった。とにかく俺がITをよく分かってないから「もうそいつに任した」って。だから最近はもう調整役みたいな感じだね。
モチベーションやインセンティブをどう与えればよいのか?
麻生: 以前、「インセンティブをすごく大事にしてる」というお話を伺いましたけど。
亀山: ああ、うん。たぶんメルカリみたいな感じだったらストックオプションを一斉にばら撒いて「そのうち100倍や200倍になるから」とか、うまいこと言ってると思うんだよね。(会場笑)「夢、あるよ」って感じで。やっぱり上場を前提にしてる会社はストックオプションなんかが出せるから一体感を持てる。「この会社が良くなったら私たちもいい思いができるんだ」って思えるからね。
でも、うちは上場がないから、やっぱり現ナマだけ。たまに「利益の何%」っていうやつもいるけど、たいていは昇給っていう形になる。最近は買収をするときに経営陣に10%持たせたりするようなことも出てきたけど、基本、ほぼすべての株は俺のところにあるから。だから給料のようなものでしかインセンティブを与えられないっていうのかな。
麻生: 組織に対してはどうですか? テーマにあるような「イノベーションを生み出す組織」にするため、何かモチベーションやインセンティブを与えたりしていることがあれば。
亀山: 組織には何も言わないというか、たとえばスタートアップを買収したらそこはその経営陣でやらせる。つけるのは財務と法務と人事だけ。そこはホールディングスのほうにあるから、ちょっと介入する。でも、それ以外はね。たとえば最近は「nana」とか「POOL」とか、いろんなサービスを買収してるけど俺はそのサービス使ったこともないし。(会場笑)下手に事業を見てるとなんか言いたくなるじゃない? だから俺はFXも「艦これ」もやったことない。「艦これ」は30分だけやったかな。 でも、ほとんどの事業について俺は分かってないっていうのが現実。でも分かった風に話をするのはうまいから、世間に出て、「みんな、うち来たら面白いよ?」って言って人を集めるのが、最近の俺の仕事みたいな感じになってる。
麻生: 小泉さんは「メルカリ」をきちんと使ってますか?
小泉: 僕は使ってます(笑)。ただ、僕らも今は「積極的に新規事業をやろう、子会社化していこう」っていう感じです。子会社のソウゾウもそうですが、社長も含めてすべて子会社側で組織もつくらせて、自由度を持たせてやっているっていうのが特徴だと思いますね。
麻生: 財務等について本体側の共通プラットフォームを使ったりしないんですか?
小泉: そこはうちも同じです。共通部分だけは本体で持ってます。
亀山: メルカリの事業以外に子会社っていくつかあるの? どういう会社?
小泉: 子会社はまだひとつなんですけど、そこで今はいくつかのラインを動かしていて、基本的にはそれを子会社化してくつもりです。
亀山: あ、今からね。そのときは自由にやらせる感じ? 別々の会社で。
小泉: はい。で、子会社社員は本体からの出向にさせていて、本体のストックオプションを出してます。子会社といっても100%子会社なので。
亀山: なるほどね。うちは事業部自体でも独立性を持たせてる。それで、たとえばどこかでセクハラなりパワハラなりに遭った人が人事に訴えたら、会社のなかで異動もできたりするわけ。あと、ほったらかしにしておくと、ときどき法律違反しちゃったりするとき、あるじゃない? だからそういうとこだけ法務がちょっと見張るようにしたり。儲かってないのに黙ってるやつもいるから。(会場笑)そこは財務が定期的に数字を見る。みんな新しい事業はやりたがるんだけど、止めるときは言わないんだよね。(会場笑)それでしばらく引き延ばそうとしたりして(笑)。だから止めるところだけはこっちで決断するっていうことかな。
麻生: それもいわゆる組織論ですよね。
亀山: うん、組織論。自然と組織論を語ってしまった(笑)。
組織には新陳代謝が必要
麻生: メルカリさんは今3カ国に6拠点と伺ってますけれども、良い面なり悪い面なり、拠点が増えたことでマネジメントが変化した部分はありますか?
小泉: 海外の方々をマネジメントするうえで、やっぱり評価制度の透明性を確保するのは重要だなと思っています。非日本人だけで100人以上いて、バックグラウンドはたぶん20カ国以上になりますから。
麻生: 拠点はどちらでしたっけ?
小泉: 今はロンドンと、アメリカはサンフランシスコとポートランドの3拠点で、海外だけで計100名以上います。なので、僕らは「OKR(Objectives and Key Results:目標と主な結果)」という仕組みを入れてるんですけども、基本的に数字やスケジュールといった測れるもの以外では評価しないっていう考え方をベースにしてます。あとはバリューの3つは全世界共通で持っていまして、その浸透をはかっています。
亀山: じゃあ、「一杯飲もうぜ」みたいな話はあんまりないの?
小泉: やらなくはないですけど、やったとしても、最後の段階では数字を達成してるかしてないかで評価しないと結構揉めるんですよ。彼らは「これがあったからできなかった」みたいな話をどんどんしてくるので。日本人的になんとなく、「お前、これできなかったよね」「まあ、そうですね」みたいなやりとりがあまり通用しないというか。主張することが一般的なので、きちんと測れるもので議論するのが大事だなと思っています。
亀山: 日本ではどうなの? まだ4年だから在籍期間も短い人ばかりだけど。
小泉: 基本的に日本も同じ仕組みを入れてはいますね。
亀山: なるほどね。ただ、優秀なやつをたくさん集めてると上場したらみんないなくなっちゃったりしない?(会場笑)
小泉: それは(笑)、まだ上場してないんでなんとも言えないですけど。
亀山: もし俺がそういう立場だったらさ、タイミングを見計らって「上場した頃に抜けちゃおう」なんて思うわけよ。今は同じ目標に向かってるわけじゃない。 で、上場まで籍を置いておかないとストックオプションを行使できないと思うんだよね、たぶん。
小泉: そうですね。
亀山: だから一応上場まではみんな共通の目標を持ってる。でも、本来はキャラもばらばらだと思うんだよね。腕がある人ってそれぞれ個性も強いから主張も多いと思うし。だから上場したあとはちょっとばらけないかなって。そこは心配じゃない?
小泉: それはありますけど、僕らとしては、ある程度そこで出てくのもいいかなって考えを持っていて、実はベスティング(※)もさせてないんです。株数が多い一部の人たちだけは何年か設定していますけど、ほとんどの社員はベスト無し。上場して一定の期間が経てば全株行使できるようにしてます。それで、ある程度は新陳代謝を起こしてもいいんじゃないかなと思って、腹括ってやってる状態ですね。
亀山: じゃあ、俺が狩りに行くのはその頃だね(笑)。その頃「awabar」(六本木にあるIT業界の経営者や起業家たちが集うバー)に行けば、もう辞めたがってるやつがいっぱいいるってことで。(会場笑)
麻生: その辺の新陳代謝をポジティブに見てらっしゃる理由というのは?
小泉: まさにミクシィの頃の経験なんですけど、そのときはベスティングがあったんですよ。だから、上場後に優秀なメンバーがどんどん入ってきた一方、ベストがあるから違和感を感じながらも残る社員もいます。実はミクシィでも途中でベストを止めたんです。「このベストはもう破棄します」みたいな感じで。
それで、一部のメンバーはそれで辞めていきました。でも、それが逆に組織として良かったっていう経験があります。結局、最後は事業で握らないとですよね。今でも僕らはストックオプションや給料について交渉してくる人たちを採らないって決めてるんですよ。できるだけ、そこじゃない、事業ややりがいといったころで握ろうとしてますね。
亀山: でもさ、「人狩り」しようとしたら待遇で変わるんじゃない? 心情的な話じゃなく「ストックオプションこれだけ出すよ?」みたいなことは言わないの?
小泉: 一応言います。でも、そこですごく交渉してくる人たちは逆に僕らのほうから「結構です」っていう感じになります。
麻生: ストックオプション以外だと何を出したりしてるんですか?
小泉: 僕らの今の課題として、「メルカリ」っていうサービスだけの会社だと思われがちな面があって、「それだけならあんまり興味ない」という人たちがいるんですよね。だから今は子会社で新規事業をいくつも出して、「どんどん新規事業をやってくよ」というのを前面に出してます。それで今は新規事業をやりたいエンジニアが入ってきてる状態で、実は子会社では本体とまったく違う技術を使ってたりします。そっちはどちらかというと少し新しい技術を使って、楽しく、というか自由にできる色を出してます。で、本体のほうはもう少しスケールの大きな事業を運営することの楽しさを伝えることで、その辺を結構分けてます。
亀山: それはメルカリブランドではやらないんだよね。ブランドも変えてく?
小泉: そうですね、場合によってはあるとは思います。
亀山: 「メルカリ何々」みたいにはしない、と。
小泉: 今は「メルカリ カウル」みたいにして先頭に「メルカリ」を付けてますけど、「付けなくてもいいんじゃないかな」ということはあります。
麻生: 亀山さんは 「現金以外だと、こういう理由でDMMに来る人材がいいなぁ」といったお話って何かありますか?
亀山: なんとなく「新しいことができそう」とか、俺が好きとか(会場笑)。俺、最近ときどきいいこと言ってるから、それで騙されて入ってくれるやつがいれば(笑)。ただ、うちはITの会社とちょっと文化が違う。もともと飲食店やビデオレンタルからスタートしてるから、ビデオレンタルのアルバイトにITを教え込んだりして、どんどん次のステップに変えてきたイメージなんだよね。だから何十年選手もいたりするわけ。ITって結構ドラスティックというか、雇用する側もされる側も短期的に物事を見るじゃない? 短期的というか、たとえばエンジニアも条件次第で会社を変えたり、戻ったり、独立したりもする。でも、他の業種はそういうのがあんまりないじゃん。麻生さんところもないんじゃない?
麻生: ないですね。
亀山: ないよね。その意味で、ITっていうのはちょっと、世間的に特殊っちゃ特殊な世界なんだよね。どっちにもその自覚がある。
今は最短距離で走ることだけ考える
麻生: 堅苦しい言い方かもしれないですけど、たとえば「研修制度を充実させよう」とか「こういうところを育てよう」みたいなお考えはあったりしますか?
亀山: うちはあんまり。教育っていうことだと1週間ぐらいの研修はするけど、それ以外はほとんど。実践派だね。最近はアカデミーっていうのをつくって高卒のやつを入れたりもしてるけど、「とにかく自分たちでやること探せ」みたいな感じだし。
麻生: ストリートスマートの強さみたいなのを求めてるんですか?勉強で学んだわけじゃなくて、生まれながらにその辺の商売センスがある、みたいな。
亀山: そうそう。アカデミーには元ホームレスもいたり、元ヤンキーで少年院あがりのやつもいたり、逆に偏差値が高くて東大を蹴ったようなやつもいる。そんな風にして、いろんなやつがぐちゃぐちゃ混じってると勝手にいろいろ考え出すからさ。だから今はあんまりこっち側からお題を与えてない。「次のアカデミー生をいかに集めるか」を考えさせるっていうのはあるけど、あとは「それぞれ好きなことをやれ」って。それで自分たちから売り込みに行せてるんだよね、事業部門に。なので、「僕、明日からレンタル部門に行きます」とか「IVS(Infinity Ventures Summit)に参加してきます」とか、いろいろやり出してる。今は機会を与えるだけで教育っていうのはあまりしてないね。
小泉: うちもないですね。唯一、カスタマーサポート研修は全員やってます。とにかく全員1度はユーザーの声を聞いてみるっていう研修を。ただ、やっぱりまだ4年だし、今は研修を重ねたりする余裕がないですね。本当に最短距離で走ってきた感じなので。
麻生: そこでミクシィでの経験が今に生きてると感じることはありますか?
小泉: うーん、たくさんあるのですが、強いて言うとミッションやバリューの徹底ぐらいしかないかもしれないです。そこが強い組織のベースだと思っているので。
※ストックオプションの権利行使について、在籍年数などに応じて条件を付けること
執筆:山本 兼司