『新版グロービスMBA経営戦略』から「ビジネスモデルとは何か」を紹介します。
POINT▶ビジネスモデルとは、「これから生み出そうとするビジネスの設計図」であり、ここでは「4つの箱」を使って説明します。
ビジネスモデルというと、多くの人はベンチャー企業のユニークな事業形態をイメージされるかもしれません。しかし、最もよく知られた定義の1つであるビジネスモデルの「4つの箱」に従えば、古くから続く伝統的な製造業やサービス業であれ、ITを駆使したベンチャービジネスであれ、すべての事業は独自のビジネスモデルを持っていると言えます。
ビジネスモデルを考える際は、無駄や無理がなく利益を生み出し、成長できるようになっているかを確認する必要があります。ポイントは、構成要素間の整合性です。たとえばリスクの高いベンチャーキャピタル事業を始める際に、保守的な銀行出身の人間ばかりが集まっていては、成功はおぼつかないでしょう。ベンチャー投資と銀行の融資では当然業務プロセスや投資の判断基準も違います。どれだけ新しい事業機会を見出したところで、そうしたギャップが残ったままではなかなか成功しません。特に既存事業に引っ張られやすい大企業の場合、新事業創出にあたって、新しい構成要素を構築することは簡単ではなく、だからこそそこで大きな差がつくことを意識しておきたいものです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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ビジネスモデルとは何か
イノベーション分類の中でも事業創造の戦略と関係が深いのが、ビジネスモデルの変更を伴ったイノベーションである。イノベーティブな新製品を開発したとしても、生産や販売のプロセス、サービスの面で既存のビジネスモデルが利用可能であれば、戦略を大きく変える必要はない。しかし、従来とは異なる事業特性の市場に参入したり、製品・サービスの提供方法を変更したりする場合には、既存の事業戦略を多かれ少なかれ描き直さなくてはならない。
このように事業創造を語るうえで欠かせないビジネスモデルとは何か。実務家や研究者の間でも、さまざまな意味を込めてこの用語が使われているが、大別すると3つの夕イプの定義がある。
まず実務家に多いのが、「収益の生み出し方」や「課金方法」など、カネの流れに注目した捉え方である。いわゆる収益(レベニュー)モデルや課金モデルを、ビジネスモデルと呼び換えているケースがこれに該当する。
次に研究者が好んで使うのが、「価値創造の仕組み」という意味でのビジネスモデルである。企業が価値を生み出す仕組みを、業務活動や経営資源、取引関係など、多様な切り口から説明を試みる際に、ビジネスモデルと呼ぶことがある。広義では、バリューチェーン(価値連鎖)や価値相関図も、このタイプのビジネスモデルを分析するツールに含まれる。
そしてもう1つが、「これから生み出そうとするビジネスの設計図」という意味で、ビジネスを支える構成要素に着目する考え方である。事業戦略の策定とも関連性が強いので、以下ではこのタイプに当たるフレームワークを2つ紹介する。
「4つの箱」モデル
クリステンセンらはビジネスモデルを、「顧客価値の提供(CVP)」「利益方程式」「経営資源」「プロセス」という、互いに関連し合う4つの要素によって定義した。
●顧客価値の提供(CVP : Customer Value Proposition)
ビジネスモデルを構成する4つの要素のうち、最も重要なのがこれである。その中でも“Jobs to be done”、すなわちターゲット顧客が抱えている重要な問題や片付けたい用事を特定し、その問題や用事を解決する提供物および提供方法を見つけることが、イノベーション成否のカギを握る。
●利益方程式
企業が自社や株主のために、どのように価値を創り出すかの青写真で、以下の4つの変数で構成される。
・収益モデル(例:価格×販売量)
・コスト構造(直接費/間接費、規模の経済性など)
・1単位当たりの目標利益率(予想売上数とコスト構造を所与としたときに目標利益を実現するために必要な1取引当たりの利益)
・経営資源の回転率(目標販売量を達成するために主な資産をどれくらいのスピードで回転させる必要があるか)
●カギとなる経営資源
CVPの実現に必要な経営資源(人材、技術、製品、設備、機器、情報、流通チャネル、パートナーシップ、ブランドなど)。
●カギとなるプロセス
再現性があり、かつ規模の拡大を可能とするために必要な業務プロセス(研究開発、調達、製造、販売、サービス、採用、研修など)。また、社内の業務ルールや評価基準、行動規範も含まれる。
繰り返しになるが、クリステンセンらは「ターゲットとする顧客が抱えている“Jobs to be done”を十分に理解すること」が、新しいビジネスモデルを創出するカギだと言う。マーケティングの大家であるセオドア・レビットは、「ドリルを買いに来た消費者が欲しいのは、ドリル自体ではなく、ドリルを使って開ける穴だ」と喝破したが、この洞察が示すように、顧客がどんな提供物を欲しがるかということよりも、まずは特定の環境で顧客がどんなジョブを成し遂げたいと思っているかを正しく知ることが、事業創造の第一歩となる。
成功しているビジネスでは、この4つの箱(要素)が一貫したかたちで相互補完的に作用し合っている。よくある失敗は、すでに成功を収めた企業が新規事業を手がける際にせっかく適切なCVPを設定したにもかかわらず、他の3つの箱――利益方程式や経営資源、プロセス――をうまく変更できず、有効なビジネスモデルに至らないケースである。特に(プロセスに含まれる)従来の社内の業務手順や評価基準、投資の意思決定ルールが、いわば「組織の成功体験」となって新しいビジネスモデル創出の足を引っ張るおそれがあることを肝に銘じておきたい。
(本項担当執筆者:グロービス経営大学院教員 山口英彦)
『新版グロービスMBA経営戦略』 グロービス経営大学院 (著) 3080円
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