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「ケイパビリティ」と「コア・コンピタンス」、その違いとは?

投稿日:2017/04/29更新日:2023/03/29

『新版グロービスMBA経営戦略』から「コア・コンピタンスとケイパビリティ」を紹介します。

自社の強みを正しく理解しておくことは、本業の競争力を強化したり、多角化する際など、多くの場面で非常に重要です。戦略論の世界では90年代より「コア・コンピタンス」と「ケイパビリティ」という用語が提唱され、「強み」をどのように理解すべきか、特にバリューチェーンとの関連でこれらをどう考えるのかの論争がなされてきました。当初は使い分けをされることもあったこれらの言葉ですが、近年では使い分けにあまり意味がないという見方が増えました。「強み」は独立的に偏在するものではなく、いくつかの要素が有機的につながって競合に対する優位性となることが多いというポイントは押さえておきましょう。そして、自社ならではの「強み」の在り方や独自性をしっかり理解しておきましょう。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

コア・コンピタンスとケイパビリティ

ここまでの議論では、「自社の強み」という言葉を特に定義せずに使ってきた。しかし、同じ強みでも、人によって、あるいは着眼点によってその意味は変わってくる。そこで、ここでは、戦略論において企業の「強み」を指す代表的な用語である、コア・コンピタンスとケイパビリティについて説明しよう。

なお、リソース・ベースト・ビュー(RBV)の大家であるジェイ B.バーニーは、著書『企業戦略論』でコア・コンピタンスもケイパピリティも、実際には、あまり違いを意識されずに用いられていると書いている。しかし、ケイパピリティの提唱者であるBCGのジョーシ・ストークらは、ケイパビリティとコア・コンピタンスは違うと述べている。そこで、提唱者の当初の意図を中心に、その差異を簡単に紹介しておきたい。

コア・コンピタンス

コア・コンピタンスは、文字どおり企業の中核となる強みのことだ。ゲイリー・ハメルとC K.プラハラードが1990年に発表した論文”The Core Competence of the Corporation”において、「顧客に対して、他社にはまねのできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」と定義した。両氏は当時の実例として、ホンダのエンジン技術、ソニーの小型化技術、シャープの液晶技術などを挙げている。

これらはすべて技術に関するものであり、実際に狭義のコア・コンピタンスを技術と製造スキルの組み合わせに限定する人もいるが、一般には、得意とするバリューチェーン上の活動(例:P&Gのマーケティング)やコーポレート・ブランド(例:コカ・コーラのブランド力)などをコア・コンピタンスに含めて用いることも多い。

コア・コンピタンスであるためには、競争相手との絶対的な位置関係や差異が重要な意味を持つ。単に「自社が得意だ」「自社にとって大事だ」と言うだけではなく、「どのくらいライバルに対して強いか」が重要だということである。たとえばハーバード・ビジネス・スクールは「ケース(事例教材)作成能力」において圧倒的な強みを持っている。これは、過去のアーカイブを武器にしたユーザーの多さや、教授陣や研究員、ライターの能力、取材先へのアクセス能力等に裏付けられており、他のビジネススクールが簡単にまねできるものではない。

コア・コンピタンスの評価にあたっては、模倣可能性(Imitability)、移転可能性(Transferability)、代替可能性(Substitutability)、希少性(Scarcity)、耐久性(Durability)の5点について考える必要がある。模倣可能性、移転可能性、代替可能性については、それが小さいほど強いコア・コンピタンスとなりうる可能性が高く、希少性と耐久性は高いほど競合に対する優位性が高まる。

ただし、いったん構築したコア・コンピタンスも、市場環境の変化とともに陳腐化するおそれはある。ハメルとプラハラードが最初の論文で取り上げたシャープの液晶技術は、もちろん同社にとってはいまだに重要な技術ではあるが、市場での絶対的な優位性はもはやなく、その意味でコア・コンピタンスとは言えない状況となっている。ノーベル物理学賞を受賞した中村修二が中心となって開発した「青色発光ダイオード」の技術をコア・コンピタンスとして、長年競争優位を持続させてきた日亜化学も、アジアのライバル企業のコストパフォーマンスが急激に上がってきた現在、いつまでそれをコア・コンピタンスとして維持できるのかはかなり不透明である。

また昨今では、破壊的イノベーションによる代替可能性の圧力が常についてまわる。圧倒的なバイイングパワーとアクセスの良さ、店舗運営ノウハウなどをコア・コンピタンスとしてきたアメリカの大手DVDレンタルのブロックバスターは、ネットでストリーミング配信などを行うNetFlixなどの台頭によってコア・コンピタンスが一気に無力化・無価値化し、業績が急激に悪化して連邦破産法11条の適用を申請せざるをえなくなった。

企業としては、時代の変化に合わせて新たなコア・コンピタンスを獲得・構築するために、継続的な投資を行うことが必要である。

ケイパピリティ

ケイパビリティが、戦略論と関連して明確に定義されたのは、BCGのジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンス E.シュルマンの3人が1992年に発表した論文”Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy" においてである。この論文で彼らは、「コア・コンピタンスがバリューチェーン上における特定の技術力や製造能力を指すのに対し、ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織能力である」とした。

彼らが例に挙げたのは、アメリカにおけるホンダのオートバイ事業である。ハメルとプラハラードがホンダのコア・コンピタンスをエンジン技術にあるとしたのに対し、彼らは、ホンダの全米での事業展開においてより重要だったのはそのケイパビリティであったと述べている。そしてその例として、ディーラー管理の優れたケイパビリティを挙げた。

一般に、小規模なディーラーは、事業強化よりもオートバイマニアとしての自分の趣味に走りがちで、ビジネスへの関心が弱い。店舗の工夫も少なく、近寄りやすいとは言い難い。しかしホンダは、優れたディーラー管理、具体的にはマーチャンダイジング、営業、店舗レイアウト、サービス管理などに関する手順や方針の伝授から、研修への参加促進、ITを活用した管理などを行うことで、競合他社に圧倒的な差をつけたというのである。ポイントは、特定の技術ではなくビジネスプロセスにフォーカスしている点である。

ストークスらは、ホンダに関しては製品化も同社の強いケイパビリティだとしている。それまでの製品開発のプロセスは、「計画」(市場ニーズの把握)、「試験」(提案された製品の評価)、「実施」(試作品の製作、工場立ち上げ)が別々に行われていたのだが、ホンダは計画と試験を同時並行で進めるとともに、これを実施と切り分けた。このようにビジネスプロセスを変えることで、ホンダは製品開発のスピードアップに成功するとともに、コストやリスクを低減させたというのである。

ケイパビリティも、その構築が難しいほど、当然強みとしての価値が上がる。ストークスらは先の論文でウォルマートについても詳細に分析しているが、ライバル各社がウォルマートの「クロス・ドッキング方式」(ロジスティクス上の手法)をまねできなかった理由として、バリューチェーン全般にわたって巨額の投資や従業員の意識変革が必要なこと、店舗のコンセプトならびにビジネスコンセプトそのものの変更が必要なこと、あるいは組織の変更が迫られることなどを挙げている。

ウォルマートというと「Every Day, Low Price」といった規模の効果を武器にした安売りに目が行きがちだが、その真の強みは、ロジスティクスというなかなか目につきにくい場所に多大な金銭的・人的な投資をし、それを軸にビジネスコンセプトやビジネスプロセスを構築した点にあり、それこそが同社のケイパビリティである、というのがストークスらの主張である。

彼らはいくつかの成功企業の事例から、ケイパビリティをベースとした競争の基本原則を4つ紹介している。それを整理すると、図のようになる。

このケイパビリティの考え方はコア・コンピタンスと相いれないものではなく、企業の強みを別の観点から捉えたものといってよいだろう。また、お互いに相互補完的であるという見方も成り立つ。ケイパビリティがあるからこそ、市場で勝てるコア・コンピタンスが発揮できるともいえるし、コア・コンピタンスがあるからこそ、企業はそれを軸にバリューチェーン全体にわたるケイパビリティ開発に投資できるともいえるからだ。

ケイパビリティの提唱者(特にストークス)はコア・コンピタンスとケイパビリティに独自の意味付けをしているが、実のところ、それほどの差異はないとの考えが主流となり、両者を明確に切り分けて用いる意味は薄れつつある。

(本項担当執筆者:グロービス出版局長 嶋田毅)
 

『新版グロービスMBA経営戦略』
グロービス経営大学院  (著)
2800円(税込3024円)

 

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