最近、米国の新興アパレルブランド、アンダーアーマーの成長に陰りが見られ始めたという記事を目にするようになりました。原因としては、創業者CEOのケビン・プランクがトランプ大統領に好意的な発言をしたこと、レッドオーシャン(激戦市場)であるシューズ分野で苦戦していること、チャネル開拓が思うように進んでいないことなどが挙げられていますが、本稿では主にブランドに絞って議論をします。
同社は1996年に、当時23歳のカレッジフットボール選手だったプランクによって設立されました。「ユニフォームの下に着る鎧」という名前のとおり、機能性の高いスポーツ用のアンダーウェアがその原点です。それまでは普通のコットン製のアンダーウェアが主流だったところに機能性の高い製品を提供し、アスリートから圧倒的な支持を得たのです。
同社のブランドのエッセンスを言葉にすると下記のようなものが並ぶでしょう。
・高品質
・スポーツマン/ウーマンに寄り添う
・アンダードッグ、努力は報われる
・わが道を行く
実際、アンダーアーマーは、アスリートと非アスリートでは、アスリートに圧倒的に支持されていました。もともとニッチブランドだったものが徐々に一般にも広がり、またここ数年のアスレジャー(アスレティックとレジャーの造語)という新セグメントの成長という追い風にも乗り、ウェアを中心に支持を得ていったのです。
「アンダードッグ」(負け犬、雑草などの意味)というポジショニングは、ナイキやアディダスといった巨人との差別化イメージとしても効果的でした。また、女性用市場に積極的に関与したことも、先行メーカーとは違う市場を狙うという意味で奏功しました。
しかし、成長を志せば、当然激戦市場にも後発で参入せざるを得ません。その典型がシューズです。すでにナイキやアディダスが強い地位を築き、また有名プロスポーツ選手を押さえているなかで、同社のブランドイメージを体現するカリー選手と契約できたのはラッキーでした。しかし、ブランドイメージに合う選手を次々と発見することは容易ではありません。
また、シューズは最も機能性が求められる分野の1つでもあり、そこで機能による差別性を訴求することも簡単ではありません。下手をすると競合の中で埋没してしまい、高品質というブランドイメージを殺いでしまいません。それまでの差別化パターンが通用しにくいわけです。
そもそも、先に挙げたブランドのエッセンスを掛け算してくと、それほど大きな市場はなく、持続性もないのではという疑問も湧きます。さらに、仮に業界3位くらいになってしまえば、アンダードッグという言葉と矛盾を起こすという「爆弾」はもともと抱えていたのです。
そこに来てのCEOのトランプ大統領を支持する政治的発言です。少なからぬユーザーは、それまでロイヤルティを持っていた同社に疑念を持ったでしょう。事実、同社がスポンサーをしてきたアフリカン・アメリカンとしては初のアメリカンバレエシアター女性ソリスト、ミスティ・コープランドは、この発言に強い不快感を示しました。
こうして成長の踊り場に来た同社ですが、これからどのようにブランドを再構築あるいは再定義していけばよいのでしょうか。幸い、カリー選手を擁するウォリアーズは今年も好調で、NBAチャンピオンとなれば短期的には成長が回復する可能性もあります(ただし、特定選手への過度な依存は危険です。例えばゴルフ分野では、タイガー・ウッズ選手の不振が引き金となり、ナイキは市場から撤退しました)。
また、アンダーアーマーは、やや無骨なイメージがあったところに、先述のコープランドをCMに起用することで、マッチョな印象を弱めることに成功した過去もあります(参考:https://youtu.be/ZY0cdXr_1MA)。
アンダーアーマーが一時期のあだ花として息切れしてしまうのか、それともブランドをさらに再構築し成長を続けられるのか、興味のあるところです。