メッセージングサービス「Snapchat」を運営するSnapが、3月2日に米国ニューヨーク証券取引所に上場した。上場に当たり、株式の新規公開(IPO)価格は17ドルに設定されたが、公開初日の始まり値は24ドル、終値も24.40ドルと公開価格を44%も上回った。新規公開価格でスナップの株式を入手した投資家は、1日で44%もの利益を手にしたことになる。それでは、新規公開株価とはどのようにして決まるのであろうか。
上場に先立って企業は上場主幹事会社を決定する。主幹事会社とは、企業の上場そして通常の場合、上場後も含めた金融市場と企業の間の橋渡しを行う証券会社である。
主幹証券会社は、当該上場候補企業の足元そして将来の業績見込みを見ながら、その実力に見合った「適正株価」を算定する。DCF法(将来のフリー・キャッシュフローを一定の割引率で現在価値に割り戻して企業価値や株価を算定する手法)そしてマルティプル法(同業他社の株価から算定した係数をマルティプルという。たとえば、PERであれば株価÷1株当たり純利益)を使って適正株価を算出し、そのうえで20%から 30%値引き(IPOディスカウントという)した株価を「暫定新規公開株価」とする。
なぜIPOディスカウントがあるかというと、上場候補企業は過去の実績情報が乏しく評価が難しいという点もあるが、一番大きい理由は「誰も適正株価では買ってくれない」からである。「適正株価」から20%から30%値引きされているのであれば、儲かる可能性は高くなるので、投資家はIPO銘柄を買ってくれるというわけだ。
暫定的な新規公開株価を決めたうえで、主幹事証券会社と当該企業は各地を回り投資家にお披露目を行う(これをロードショウと呼ぶ)。その時の投資家の反応を見ながら、最終的な新規公開株価が決定される。上場日の前日に投資家に株式が交付され、上場日に売買が開始される。そのIPOが成功したかどうかの判断基準は、初日につく初めての株価(これを初値という)である。初値が新規公開株価を上回れば成功、下回れば失敗案件とされる。また、終値が、新規公開株価をIPOディスカウントした分だけ戻った場合、市場は主幹事が設定した「適正株価」を追認したことになる。
IPOにおける公開株価格の設定は極めて難しい仕事である。DCF法の場合、当該企業にかかわる詳細な情報を織り込んで株価算定ができる点で優れているが、そもそもIPO候補企業は実績も乏しく、将来の成長力もどう想定したらよいか不透明な点も多い。また、マルティプル法の場合には、すでに上場している類似企業の株価と業績から一定の比率を算定し、その比率を上場候補企業の数値に掛けることで適正株価を算定するが、そもそも同じような企業(つまり「事業構造」そして「成長段階」が全く同じ)が存在するケースはごく希でしかない。
そこで、最後は上場前のロードショウでの投資家の反応を見ながら最終的な新規公開株価を設定することになる。適正株価の最終評価は市場・投資家に行ってもらおうということである。
Facebook, Twitter, Snapを比較すると?
さて、Facebook、TwitterそしてSnapの3社の上場に当たっての「新規公開株価」、上場初日の「初値」と「終値」そして最近の株価を表にまとめた。
Snapは、新規公開株価が17ドル、初日の初値は24ドルだったので、Snap株を購入できた投資家は1日で何と44%の値上がり益を享受できたことになる、また、終値は24.40 ドルと初値を若干ながら上回って引けた。これは、市場は主幹事証券会社がつけた「適正株価」を追認したということになる。しかしながら、その後の株価は、一旦は29.44ドルの高値を付けたものの、その後は低調で、直近では21.44ドルと初値を割っている。
Snapと似ているのがTwitterの株価の動きである。初値は新規公開株価を73%も上回りながら、その後の株価は低調に推移し、直近の株価は新規公開株価を42%も下回っている。対照的なのがFacebookで、初日はほぼ新規公開株価と同水準であったが、その後の株価は大きく上昇している。その差は、成長力の違いである。
これらの事実は、業態的にも新しく、また設立したばかりの新興企業の「適正株価」の算定がいかに難しいか、そして無数の投資家の集合体である株式市場自体も、必ずしもその読みはいつも当たるわけではないことを示している。一方、上場した新興企業としては、将来さらに成長するための資金を得るために上場したのであるから、その資金を活用して一層成長を加速していくことが求められる。