2017年はどのような年になるのか、どのような年にしたいのか――。グロービス/グロービス経営大学院のリーダー陣10人が、それぞれの視点から展望と提言を語る。(企画・構成: 水野博泰=GLOBIS知見録「読む」編集長)
中国の日系企業では2017年、いよいよ中国人幹部たちが事業の中枢を担い始める――。こう言うと「そんなことは当たり前ではないか」と思うかもしれないが、実は2000年ぐらいから始まった現地人材育成の長い努力がようやく実を結ぼうとしているのだ。
この流れの第1波は90年代後半から2000年前半。中国のWTO加盟に向けた市場開放が進むにつれて、多くの日系企業が合弁会社から単独資本で中国での経営管理ができるようになり、現地化のスローガンが打ち出された。だが、ごく一部の企業しか実行できなかった。
第2波は2010年前後。リーマンショック後、中国は輸出依存の経済発展から内需による経済発展、つまり「工場」から「市場」へと転換した。その中で日系企業も現地経営人材への育成投資が急増した。育成の重点は経営・マネジメント、マーケティングの基本知識の習得である。
そして2017年に第3波が来る。これまでこの流れに乗り遅れた企業は経営人材育成に力を入れようとするとともに、波の最先端に至っている企業は新しいステージに入る。中国人幹部たちが中核的経営メンバーとなり、現地法人の戦略や中期経営計画が彼らの主導で作られるようになるのだ。これまでは、日本から送り込まれた日本人駐在員の仕事だったものが、バトンタッチされるのである。
この変化は外部からは見えにくいが、中国日系企業の経営に本質的な変化を起こすことになる。ターゲット市場と戦略が根本的に変わることを意味するからだ。ざっくりと言えば、これまでは「日本人駐在員が日系市場を狙っていた」のだが、これからは「中国人幹部が非日系市場を狙う」という新しい経営フェーズに入る。日系企業の中国における生態系が格段に広がり、深まるのである。
これは日系企業にとってとてもポジティブな変化である。新しい市場が開拓され、コストが下がり、利益が上がる。「中国は世界の工場」と言われたように日系企業の多くが最初は「低コストでの生産・製造」を目的に中国に進出したが、これからはマーケットとしての中国の比重が高まる。「中国で作って世界で売る」から「中国で作って中国で売る」という中国内製販一体化が進み、バリューチェーンが中国内でつながる。
だからこそ、購買、製造、物流、販売・マーケティング、サービス、研究開発の全体を俯瞰し、マネジメントできる人材、特に中国の市場に精通した現地人材のリーダーシップが不可欠なのであり、そうした人材供給に目途がついたということだ。育成の重点は経営の疑似体験に移る。
ここに至る道は決して楽なものではなかった。中国人の幹部登用が多くの日系企業で進められたが、いくつもの失敗があり、中には新規ビジネスの投資による大損を出したケースや、中国式のやり方に対する日本側の理解不足が原因で経営破たんに至り、日本本社まで窮地に追い込まれるという過酷なケースさえあった。
それ故、トランスフォーメーションを進めるにしても恐る恐るという側面は無きにしもあらずだが、失敗からの学びも蓄積された。グロービス・チャイナが幹部人材育成に携わっているいくつかの日系企業では2017年をバトンタッチ元年と位置づけようとしている。
目に見える成果が出て来るのは2018年以降になるだろうが、試行錯誤した後の理性的な行動であり、中国における日系企業の大進化と言える。