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『トヨタ公式 ダンドリの教科書』―ホワイトカラーの生産性を上げる秘密

投稿日:2016/12/24更新日:2019/04/09

本書は、昨年上梓された『現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結―――リーダーになる人の仕事の進め方』(佐々木眞一著、ダイヤモンド社)をコミカライズし、かつ前著ではややイメージが湧きにくかった「自工程完結」の具体的なノウハウを8章にわたり48個に絞って紹介したものである。コミック部分では「メーカー、トポクス社の豊川浩氏(31歳)」が主人公となり、先輩に鍛えられながらトヨタ流仕事術である「自工程完結」を学ぶことで生産性を上げる様子が描かれている。

コミカライズ版といってもコミック部分はそれほど多くはなく、むしろ48あるノウハウの説明と図示化に力を入れている。ビジュアルに力を入れ、また2色刷りということもあって、非常に読みやすい1冊となっている。

自工程完結の考え方で仕事に取り組むと、仕事の品質が上がるだけではなく、仕事へのモチベーションが高まることも経験的に知られている。それを幅広く知らしめようというのが監修者である佐々木眞一氏やトヨタの思いなのである。

ところで、本書のタイトルがなぜ「自工程完結」などではなく、「ダンドリの教科書」なのか疑問に思われる方もいるかもしれない。それは、ノウハウを解説している8章のうち、PDCAでいうところのP、すなわちダンドリをすることに5章を費やし、計34個のノウハウを盛り込んでいるからだ。P以外のDCAはそれぞれ1章を割いているだけで、ノウハウも計14個である。つまり、トヨタ流仕事術のPDCAの鍵は基本的にPのダンドリに集約されており、この部分をしっかり計画すれば自ずとDCAも流れていくというのがトヨタの発想である。工程で良いものだけを生産すれば、自ずと検査は不要になるというトヨタ流モノづくりの原点とも共通する部分が大なのである。

ダンドリに関する5つの章とは具体的には以下である(本書では、具体論について語る8つの章を「ポイント」と記している)。

ポイント1 仕事の目的・目標(到達レベル)を明確にする (ノウハウ7個)
ポイント2 仕事の最終的なアウトプットを明確にする (ノウハウ6個)
ポイント3 仕事の手順を明確にする (ノウハウ11個)
ポイント4 要所・要所で「これでよし」と判断できる基準を明確にする (ノウハウ4個)
ポイント5 各手順で必要なものを明確にする (ノウハウ6個)

詳細なノウハウについては本書で確認いただきたいが、5章すべてに共通して出てくるキーワードは「前回がどうだったか」を確認するということである。前回と同じやり方でいいならそれで問題はないが、それ以上に、前回のことを参考にしたうえで、変更したり改善したりする必要性があるのなら、それをしっかり行うことが必要という考え方が見て取れる。

その他に頻出するキーワードは、「ベンチマーク」や「具体的に想像する」などである。トヨタの横展開文化や「現地現物」の精神は非常に有名であるが、それらも当然盛り込まれているのだ。

また、「関係者に聞く」あるいは「相談する」というキーワードもよく出てくる。独りよがりで考えるのではなく、当たり前のことではあるが関係者にしっかり聞くことが、やり直しというミスを防ぎ、生産性を上げるというのは納得感があるだろう。

ダンドリについて語った5章には含まれないが、8章目(PDCAのAに当たる)の「仕事で得られた知見を伝承する」で熱く語られているマニュアル化の話も多くの組織にとって参考になるだろう。使えないマニュアルの典型は、単に手順を並べただけのものである。表層的な外形だけを述べるのではなく、使えるマニュアルにするために、さまざまな補足情報を盛り込むべきというのは、多くの企業でなかなかできていないのではないだろうか。

この8段階、48のノウハウは、誰も思いつかないようなイノベーティブな要素はほぼない。しかし、それらを各社員が当たり前のようにこなしている企業もまたほとんどないはずだ。よく、
「普通の企業は当たり前のことが当たり前にできない」
「良い企業が当たり前のことが当たり前にできる」
「エクセレントな企業は当たり前のことを皆が当たり前にやり続けることができる」
などと言われることがある。

本書は、その当たり前にやるべきことをわかりやすく説明している点で、非常に価値が高いと言える。

日本企業の時間当たりの生産性の低さは先進国の中でも深刻だ。特に製造業以外の産業のホワイトカラーの生産性の低さは、要改善である。それを打破する一つの方法はイノベーションだが、これは必ずしも容易ではない。

「当たり前」の積み重ねで生産性を上げるという方法論は、実践は容易ではないものの、日本人の感性に合う部分も大きく、多くの企業にとってヒントになる部分が大と言えるだろう。本書は、それをわかりやすく説いたという意味で、非常に価値のある1冊と言えよう。見た目はシンプルな体裁だが、噛めば噛むほどに味わいのある良書である。読みやすい本でもあるので、ぜひお時間のある時にでも一読いただきたい。

 

『トヨタ公式 ダンドリの教科書』
トヨタ自動車株式会社(編)、佐々木眞一(監修)
ダイヤモンド社
1500円(税込1620円)
 

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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