私がこの本を取り上げたのには2つの理由がある。一つは、著者の服部周作(Shu)が私の台湾留学時代の親友であること。そしてもう一つは、「Shuが天才ではなく、“ただの努力家”であること」を私はよく知っており、そんな彼がマッキンゼーでスピード昇進を果たしマネージャー職として活躍していることに、大きな驚きと関心があるからだ。
私は、ビジネスパーソンがキャリアを通じて磨くべきは“スキル”と“仕事の仕方”ではないかと思う。専門知識や語学力、資格保有などの個人スキルが高くても、仕事の仕方がいまいちで十分な評価を受けられていない人がみなさんの周りにはいないだろうか(私は何人か思い浮かべることができる)。この本では、「優れた人の対極にいる」と自ら認める著者が、自身で実践してみて成果が上がったと思える仕事の進め方や、恐ろしく仕事のできる優秀な人たちが守っているルール、効果的な手法、それらを見聞きしこれを「ルールブック」として書き溜め、47原則にまとめている。
-すべての問いに30秒以内で答える
-前半戦が勝負の分かれ目、序盤に全力を注ぐ
-上司の依頼を冷静にかわす
-中途半端なアウトプットは見せない
…などなど。
その一つひとつは、私たちが決して真似できない話ではない。しかし、常に実行できるよう習慣化したり、チームメンバーにも浸透させるとなると、覚悟と忍耐が求められそうだ。
この本では、そもそもShuがなぜそのような仕事の仕方をするに至ったのか、具体的エピソードがいくつも語られている。それはまるで、Shuがマッキンゼーという厳しい環境で精いっぱい背伸びしながら必死でサバイブしていく“生々しいドキュメンタリー”のようだ。「UP or OUT(昇進できない者は去れ)」という企業風土にあって、一定年数在籍してマッキンゼーの肩書きをもって外に出るというのが一般的な中、Shuは「UP or OUT」のUPを選択し続けた。昇進するには“優秀(Very Strong)”ではなく”突出した成果(Distinctive)”という評価を得なくてはいけない。でも周りは恐ろしいほど仕事のできる優秀なタレントばかり。世界中の天才たちに伍していくために自分に誓いを立て、目に見える“行動”の一つひとつと、その背後にあり周囲の目には見えない“意識”までをも、努力して徹底的に変えていくーー。
そんな彼がたどり着いたこの「47原則」を、私は彼の「勝負の記録」として読んだ。そして、勇気をもらった。それはあたかも、体格に恵まれない日本人のアスリートが、創意工夫と人一倍の努力で金メダルを手にする成功譚のようだ。同じく天才ではない私も、やればできる、そんな気がしてくる。
この本は多くのビジネスパーソン、とりわけ「今の会社の中でキャリアを積み上げていき、やがては経営のポジションに就きたい」と考えている方に読んでいただきたい一冊である。目には見えない「スキル」を磨くよりも(それも大事だが)、目に見える「仕事のやり方」を変えた方がインパクトが大きいのではないだろうか。また、スキルを獲得するのには一定の期間が必要だが、仕事の仕方は明日からでも変えられる。ぜひ、仕事のやり方で周囲と差をつけてみてほしい。
『47原則―世界で一番仕事ができる人たちはどこで差をつけているのか? 』
服部 周作 (著)
ダイヤモンド社
1500円(税込1620円)