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人事部の業務: 攻めの人事に変われるか?

投稿日:2016/06/11更新日:2021/10/26

『グロービスMBA組織と人材マネジメント』の巻末資料から「人事部の業務」を紹介します。

日本では、伝統的に人事部の権限は強いものがありました。企業によっては、人事部門での職務経験が経営者となるための条件というケースも存在しました。これは、日本企業が新卒採用と終身雇用制、そして会社への強い忠誠心をなかば前提としていた、言い方を変えると1人のビジネスパーソン(特に総合職)の社会人としてのキャリアに関して、ほぼその会社が面倒をみるというシステムを前提としていたことと非常に強い関係があります。しかし、そうしたシステムは崩れつつあります。また、経営環境の変化のスピードが格段に上がり、グローバル競争もますます激しくなる中で、従来型の人事の延長では、競争力のある人作り・組織作りはできないといっても過言ではありません。そうした中、いかに能動的に価値を生み出せる人事に変わっていけるのかが、多くの日本企業の人事部門、さらには経営者に突き付けられた課題となっているのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

人事部の業務

人事関連業務を主に行うのは人事部である。日本企業の人事部が伝統的に担ってきた業務としては以下がある。大別すると、企業の戦略実行に強く連動する「人事施策の立案・実行」と、インフラストラクチャーに当たる「職場環境の維持」に大別できる。

●人事施策の立案・実行
・採用(特に新卒採用)の企画・実施
・研修の企画・実施
・人事情報(特に人事考課情報)の取りまとめ
・昇格・昇給の提案
・異動の提案
・キャリア・カウンセリング
・人員整理
など

●職場環境の維持(職場インフラの提供)
・労使関係の調整
・労務管理・就業管理
・健康維持支援
・給与・福利厚生に関する事務
など

わが国は欧米に比べると一般に人事部の機能が強い。欧米企業では、個別の採用や人事考課、昇進・昇格などは各ラインに任されている場合が多く、人事部は制度設計やインフラ提供を主業務としている。

わが国の人事部は、労務管理や給与・福利厚生の事務といった職場インフラの提供に加え、人材のデータベース(入社年、出身校、履歴、考課など)としての機能を持ち、昇格・昇給・異動という処遇について積極的に提案する点に大きな特色があった。また、採用や研修を人事部が一括して実施するケースが多いことも大きな特徴である。

人事部の機能の変化

近年は、「人こそが企業の力の源泉」という認識の下、人事部にもより中長期的な組織力向上への寄与が期待されるようになっている。それに伴い、「人事施策の立案・実行」のほうにより比重が置かれるようになっている。しかも、マネジメントの指示を受けて受動的に業務をこなすというよりは、より戦略を意識した提案や行動が求められるようになっている。言い換えると、「守りの人事部」から「攻めの人事部」への変化が求められるようになってきた。

こうした流れを受けて、本論でも述べたようにたとえば、かつては昇格者に一律に受講させていた「昇格者研修」の予算は減り、より戦略的に人を育てようという「選抜型研修」が増加している。また、かつては、総合職社員を必ずしも明確な意図なくさまざまな部署をローテーションさせている企業が多かったが、近年は、より経営力強化を意識した人事配置を提案することが期待されるようにもなっている。採用についても、画一的な新卒採用ではなく、よりピンポイントのスペックを求める中途採用の比重が増している(ただし、欧米企業のように採用をラインに任せるという企業はまだ少ない)。

経営理念や企業文化の浸透についても、経営者の意向を受け、積極的に取り組む人事部が増えている。たとえば、社史の編纂、「Way」「イズム」のとりまとめなど、これまで暗黙で引き継がれていたものを明示的にし、その伝達のための「場」やツール作成に取り組む人事部が増えている。

これらを経営者の意向を汲んで施策を立案、実行するだけではなく、逆に経営陣に対して中長期的な組織力強化の視点から新しい施策を提案することも、これからの人事部には求められるようになると予想される。

(本項担当執筆者: グロービス経営大学院教授 佐藤剛)

次回は、『グロービスMBAファイナンス』から「キャッシュフローの定義」を紹介します。

https://globis.jp/article/4457

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