本書は、以前本コラムでもご紹介した『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』の姉妹編にあたる一冊である。ビジネススクールで教えられている、あるいはビジネスシーンでよく用いられるビジネス用語の中から、知っておくべき重要なものを50個ピックアップし、解説を加えたものだ。前作同様、一つの用語につき4ページ、図表が2つ。冒頭に「習得必要度」「有効性」「応用性」など5つの観点からみたレーティングを示し、「活用/意識すべき場面」「考え方」「事例で確認」「コツ・留意点」という項目に分けて解説するという形で統一している。
章立ては以下のとおりだ。
1章 経営戦略編
2章 統計・エコノミクス編
3章 マーケティング編
4章 組織マネジメント編
5章 人の行動原理編(影響力の武器)
6章 人間心理編
7章 その他上級編
具体的な項目については、「1件の重大事故の背景には29件の軽微な事故と300件の異常が存在する」という「ハインリッヒの法則」や、「選択肢が多いと、選択肢が少ない場合よりも意思決定が難しくなり、購買に至る割合も減る」という「ジャムの法則」、「人は無能になるまで出世する」という「ピーターの法則」などが採り上げられている。何となく読んだり聞いたりしたことはあるけれど、実は誤解して捉えていたり、知っているだけで実際に使いこなせていなかったり……そんな用語がたくさん見つかるはずだ。
日頃からビジネスシーンで経験している出来事の背景に、実はこんな法則や傾向があったのかと気付かされる記述も多い。
たとえば、「重要で緊急度も高い仕事は『忙しい人』に任せたほうがよい」という言い回し(経験則)を聞いたことがある人も多いだろう。これは、「パーキンソンの第1法則:仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」から導くことができる。時間の余っている(往々にしてあまり優秀でない)人に仕事を任せると、余った時間を満たすまで仕事を作り出してしまい、いたずらに時間を浪費しがちだからだ。
また、採用面接の際に「好きな歴史上の人物」という話題で織田信長や坂本竜馬の名前が挙げる候補者がいれば、つい「この人は革新的なことが好きな人物だ」と判断してしまいそうである。ところが、それは「ハロー効果:ある特定の要素に関する評価が全体の評価に影響してしまうこと」による可能性を無視できない。「この種の人名を挙げておけば面接での印象も良くなるだろう」と見越したテクニックかもしれないのだ。
ここで採り上げられているビジネスの法則や傾向は、基本的なものではあるが常に当てはまるとは限らない。たとえば「規模の経済性」は知らない人もいないくらい有名な概念だが、全社で共有すべき固定費が少なく距離的にも離れた場所に立地するサービス業などでは、規模を拡大してもコスト低減以上にコミュニケーションコスト等が増大してしまう可能性がある。法則が機能する前提(裏返せば、機能しない前提)を理解した上で使いこなす必要がある。
一方で、例外だらけで「常に当てはまるとは限らない」からといって、その法則が「一般に効かない」ことにもならない。これも有名な「習熟効果」は、ラジカルなイノベーションが起これば対抗できないし、コモディティ化が劇的に進んだ製品ではほとんど効かなくなるというように例外は多い。しかし、習熟効果がもはや効かなくなったわけではなく、製造開始初期の段階など、効く条件の揃った場面では厳然と効くのである。
本書では随所に、こうした見落としがちな例外や、実務上はこう捉えておくとよいといった示唆が散りばめられている。
「基礎知識」というタイトルや平易な語り口だからといって、油断は禁物だ。サブタイトルにあるとおり、正に「知っていると差がつく」知識を集めた、中身の濃い一冊である。
『グロービスMBAキーワード 図解 ビジネスの基礎知識50―知っていると差がつくワンランク上のセオリー』
グロービス著/嶋田毅執筆
本体1,500円+税