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価格設定に影響を与える要因: 高価格をつけたいなら競争を回避せよ

投稿日:2016/02/20更新日:2021/10/23

『グロービスMBAマーケティング』の第6章から「価格設定に影響を与える要因」を紹介します。

京セラ創業者の稲盛和夫氏は、「値決めは経営そのもの」といった趣旨のことを言われています。それだけ適切な価格設定は難しく、だからこそ大事なのです。一般的には、コストと「顧客の認める価値」の間で値決めをすることになりますが、もちろん自由に価格が決められるわけではありません。競合の値付けにも影響を受けますし、顧客のバイイングパワーにも大きく左右されます。ポイントは、安易に安い価格をつけないことです。状況にもよりますが、歯を食いしばって高価格を実現することが、企業の収益性を上げることにつながるからです。そのための最も効果的な方法は、競合が真似できないような価値ある差別化を実現すること、さらに望ましくはオンリーワンになることです。iPhoneなどがそれに近いと言えます。価格戦略は、実は価格で勝負しなくてもいいような競争の構図を描き実現することこそが大事なのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

価格設定に影響を与える要因

これまで価格の上限と下限を決める要因について見てきた。次に、その幅の中で価格設定に影響を与える要因について解説する。

1) 競争環境

企業が自社製品の価格を考えるうえで、最も影響を受ける要因の1つが競争環境である。例えば、砂糖やガソリンなどのように実質的に差別化しにくい製品では、市場価格を上回る価格をつければ売上げは急激に落ちるだろうし、下回る価格をつければ売上げアップにつながるだろう。

逆に言えば、ある企業が競争環境に左右されずに価格設定をしたければ、製品を差別化しなくてはならない、ということだ。機能、デザイン、ブランド・イメージ、サービスなどが競合製品と明確に差別化されており、買い手が自社ブランドを他社ブランドよりも好むなら、その程度に応じて競合よりも高い価格を提示できる。

業界が寡占的になるほど、プライスリーダー(業界全体の価格構造に大きく影響を与える業界リーダー)が存在しやすくなる。プライスリーダーは通常、最も大きなシェアや強力な流通チャネルを持ち、製品開発の先頭に立ち、業界を牽引していく。また、プライスリーダーは、低価格を打ち出してくる小さな競合に対して、あえて価格で対抗しないことが多い。シェアを維持するために価格を下げて利益を犠牲にするよりも、多少のシェアは譲っても価格を維持したほうが得策だと判断するからである。もっとも、その場合でも適切に状況判断を行わないと、旅行業界で格安航空券販売のHISが台頭したように、気がついたら小さな競合が巨人になっていた、ということになりかねない。

また、業界内の各企業の価格設定は、他社の価格戦略の影響を大きく受け、かなりの度合いで同じような動き方をするものだ。したがって価格設定は、コストの場合と同様、現在と将来の両方の競争を見越して検討していかなくてはならない。

2) 需給関係

需要と供給の関係も、価格設定に大きな影響を与える。特に差別化の難しいコモディティ(日用品)では、古典的な需要供給曲線で価格帯がある程度決まる場合が多い(図表参照)。

独占的な製品を持つ売り手は、供給量をコントロールすることで価格を維持することも可能であるが(もちろん、複数の企業がこれを共謀して行えば、カルテルという違法行為となる)、こうした手法は顧客からの反感を買い、将来競合が出てきたときに自社の弱みになるおそれがある。マーケティング担当者には、顧客との長期的関係を考慮して、高い価格設定が可能な場合でも自制するといった総合的判断が求められる。

3) 売り手や買い手の交渉力

特に生産財においては、顧客との交渉力が価格設定を大きく左右する。そして、顧客との交渉力は、需要と供給の関係、製品の差別化の度合い、売り手と買い手の相互依存度、スイッチング・コスト(切り替えコスト)などの要因によって規定される。ここでは、売り手と買い手の相互依存度とスイッチング・コストについて見ていこう。

買い手の購入額や量が売り手側の売上高と出荷量の中で大きな比率を占め、かつほかにも購入先が選べる場合、買い手は価格交渉に強い立場で臨むことができる。大手メーカー(買い手)とその下請業者(売り手)との関係は、多くの場合こうした構図になっている。また、販売力のある小売チェーンは、それを武器に卸やメーカーに対して強気の価格交渉を行うことができる。

逆に買い手が売り手に大きく依存しており、売り手の言い値がそのまま通ってしまう場合もある。例えば、売り手が独占的な先端技術を持っていたり、特許に守られて独占生産を行っていたりする場合がそうだ。

さらにスイッチング・コストも、売り手と買い手の交渉力を考えるうえで重要な要素である。これは、買い手あるいは売り手が、相手を変更する際に発生するコストである。スイッチング・コストは、互いの関係が長期間に及び、かつその関係が業務上重要になるにつれて上昇する。例えば、一度ある会社にシステム構築を依頼したならば、多少価格が高くても、メインテナンスも同じ会社に依頼することが多い。システムを熟知している会社であれば余計な説明の手間がかからないなど、さまざまな点で便利であるため、表面上の価格の安さよりもトータルのコストで評価しているからである。

次回は、『グロービスMBAマーケティング』から「コミュニケーション戦略の立案プロセス」を紹介します。

https://globis.jp/article/4011

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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