『グロービスMBAマーケティング』の第8章から「コミュニケーション戦略の立案プロセス」を紹介します。
コミュニケーション戦略は、顧客に製品を知らしめ、購買行動に結びつけるという、マーケティングの中でも重要かつ「いかにもマーケティングらしい」戦略の1つです。よくある失敗は、例えば新しいコミュニケーション手法が出てきたときに、何の目的もなくまずは試してみると言うパターンです。もちろん、IT関連のメディアや方法論などが激変する昨今、いろいろ試してみること自体は必ずしも否定されるわけではありません。しかしその場合でも、コミュニケーション戦略のベースとなるポリシー(方針)や目標をしっかり理解しておかないと、受け手が混乱したり、効果が分散してしまってトータルとして好ましい結果が得られないということになりがちです。何事にも言えることではありますが、まずは大きな方向性と目標を明確にした上で、個別の方法論について考えるというプロセスは、コミュニケーショ戦略に関しても当然該当するのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
コミュニケーション戦略の立案プロセス
通常、コミュニケーション戦略の立案は、1)コミュニケーションのポリシーと目標、予算の設定、2)コミュニケーション・ミックスとメディア・ミックスの決定、3)具体的なコミュニケーション内容の決定、4)コミュニケーションの実施と効果のモニタリングの手順で行われる(図表参照)
1)コミュニケーションのポリシーと目標、予算の設定
まず、コミュニケーションのポリシーとは、当該のコミュニケーション戦略のベースとなる基本指針である。例えば、「ターゲット顧客が当該製品を使用しているシーンをあらゆる場面で徹底的に打ち出すことで、製品ベネフィットをダイレクトに訴求する。同時に、これまでの保守的な企業イメージを覆すきっかけとすべく、斬新さを前面に出し、ターゲットに『おやっ』と思ってもらえるようにする。ただし、信頼感を損なうような表現などはNGである」、あるいは「新規顧客の獲得以上に既存顧客に対する安心感を与えることを主眼とする。連続性を重視し、既存の路線の延長線上の文言や表現などを用い、繰り返し同じメッセージを伝え続ける」などだ。こうしたポリシーは、マーケティング・プロセス前段のマーケティング課題や想定ターゲット、ポジショニング、他のマーケティング・ミックスと整合していることが前提となる。
次に、そのコミュニケーション戦略によって何を実現するか、ターゲット顧客にどのような変化を起こしたいか、具体的な目標として設定する。マーケティングの最終目的は購買してもらうことだが、消費者が購買に至るまでには先述したAIDMAのような長い意思決定プロセスが存在する。もし消費者がその製品に気づいていないのなら、注意を喚起することが主要な目標となるであろうし、認知度は高いにもかかわらず製品を買うに至っていないのであれば、購買を促すことが主要な目標となるだろう。そうした目標の設定は、以後の予算の確保やコミュニケーション手法の選択などに影響を与えるので、戦略立案においてきわめて重要である。
なお、コミュニケーション目標は、定性的側面も重要だが、後にその効果測定が可能となるように定量的に測定しうる数字を設定しておくことが望ましい。また、可能ならば、そのコミュニケーション手法によってどのくらい認知度や好感度が向上したのかという因果関係をつかむためにも、プログラム開始以前に現状の認知度や好感度のレベル測定をしておくことが望ましい。その差を知ることで、コミュニケーションの効果がより正しく測れるからである。
コミュニケーション予算は、社運を賭けた一大プロジェクトなど特殊な場合を除くと、現在の売上高あるいは想定される売上げ増の一定率、もしくは過去の経験から導かれた費用対効果を勘案して設定されることが多い。
ちなみに広告について言えば、企業は、企業広告はもちろん個別製品の広告においても、比較的長い期間にわたる累積効果を生むことを期待している。つまり、広告宣伝費は、会計上は費用であっても、実際には無形の固定資産として企業内に蓄積されていくものなのだ。そのことをよく理解していないと、短期的な視点でコミュニケーション費用を増減させてしまい、適切なブランド構築ができなくなるおそれがある。
2)コミュニケーション・ミックスとメディア・ミックスの決定
基本的なポリシーと具体的な目標や予算が決まった段階で、いよいよ具体的なコミュニケーション・ミックスと、メディア・ミックスを検討することになる。コミュニケーションの発信源である自社の立場から見たアクションと、受け手であるターゲット顧客が利用するであろうメディアの双方の観点から、費用対効果や補完性、相乗効果なども見据えて最適と思われるミックスを決定していく。
例えば、主要顧客が60歳前後で普段インターネットに触れない女性層であり、コミュニケーション目標がまずは製品(安価な消費財としよう)を広く認知してもらうことであれば、コミュニケーション手法としては広告やパブリシティが中心となり、メディアとしてはテレビ(しかも、60歳前後の女性が好みそうな番組での広告や、番組そのものの中での紹介)が有効と判断されるだろう。そこを中心に予算を投下し、さらに余った予算で店頭でのセールス・プロモーションを補完的に行う、といったミックスが考えられる。
全体的な視点から、コミュニケーション手法の組み合わせ方やタイミングが適切であるか、あるいは他のマーケティング・ミックスとの整合性がとれているかどうかを確認することは必須である。
次回は、『グロービスMBAマーケティング』から「レピュテーション・マネジメント」を紹介します。