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リーダーになぜ「他力本願」が必要なのか?

投稿日:2016/01/23更新日:2019/04/09

堀:では、続いて林さん、よろしくお願いします。

林:田坂先生のお話を聞きながら「心に染み渡るなあ」と。先ほどからメモも取らせていただいていたのだけれども、そのなかで心に浮かんだのが「他力本願」という言葉だった。他力本願というと、一般的には人を頼って自分は頑張らないとか、「誰かがやってくれるんだ」と考えるような、ネガティブな意味で捉われがちだ。でも、以前この言葉について「なるほどなあ」と思ったことがある。想像してみていただくと分かるけれども、目をつむって立った状態からうしろに倒れてみるとどうなるか。後ろには何人か、たとえば部下や友人がいて必ず支えてくれる。「(他力本願とは)それを信じ、目をつむって後ろに倒れることができることだ」と、どこかのお寺で聞いたことがある。

これは信頼がないとできない。冗談で手をふっと引かれたり(笑)、本当に誰もいなかったりしたら頭をぶつけてしまう。でも、そこに仲間や部下がいると信じるのが他力本願だという。「ということは、自分ひとりで何かしようと思っても絶対にできない。大事なのは他の人をそこまで信じることができるかどうかなんです」と、だいぶ前に聞いた記憶が、今の田坂先生のお話と、この素晴らしい環境のなかで蘇ってきた。

なぜ、そうした他力本願が大切なのか。私は農林水産大臣を計844日務めたが、その間、たとえば役所や政府与党でいろいろ議論する際は、それが最後に実現できるかどうかを問われ続けてきたわけだ。ただ、やっぱり双方に理屈がある。だから我々の業界には「筋悪」という業界用語があったりして(笑)、「これは、まあ、筋悪だけど仕方ないよなあ」なんて言ってどこかで折り合いをつける。それが我々の大事な仕事だし、そこでこちらの理屈をどこまで通せるか、結論へ持っていくにあたって考えるわけだ。ひとりでどれほど立派な主張をしても、根回し等の術をどれほど弄しても、最後はなかなかうまくいかないことが必ずあるので。

ただ、そうしているうち、「この人は本当にやってくれるのかな」「この局長は本当についてきてくれるのかな」と考えてしまうこともある。普段はあまり考えないけれども、できるか否かというぎりぎりの仕事ではそんな思いがふと頭をよぎる。で、そういう思いは相手にも伝わる感じがする。だから相手も「大臣は大丈夫なのかな」なんて思ってしまう。そうなると、もうそのチームはパワーが落ちているという話になる。

従って、1~2年で交代する日本の閣僚からすると私の就任期間は長いほうだったけれど、基本的にはそうした短い期間で役人の皆さんと信頼関係を築くことが大事になる。もちろん閣僚になる前からあちこちで知己を得たり勉強会を行ったりはしているが、上司と部下の関係で仕事をすることになるとまた別の付き合い方になるからだ。私の場合、たとえば局長クラスの方々のなかには大学の同級生がいるし、先輩も後輩もいる。そうした方々との人間関係が、党の役員だった頃の付き合い方とまるで違ってくる。そのなかで信頼関係を築く必要があった。

それで、他の役所も経験していた私としては、「今度はどんな役所なのかな」なんてことも考えながら農林水産大臣に着任した。初めて大臣として着任した防衛省は、その前に政務次官として仕事をしていた財務省と、ある意味で対極にあった。当時は大蔵省だったけれど、ああいうところだから政務次官ごときが何か言った程度では物事もなかなか動かず、適当にあしらわれてしまうときもある。従って、こちらもしっかり理論武装してきちんと議論をしながら妥協点を見出すということをやっていた。

その経験から、防衛大臣になったときも、「私が10と言えば5ぐらいで返ってきて、もう1回言ってさらに返ってきて、それで、まあ最後に7ぐらいの落とし所になったらいいかな」なんて考えながら10の指示を出してみた。今でも覚えている。当時は「どういった話まで大臣に上げるか」ということを最初に決めた。大臣の仕事は法律に書いてあるけれども、ほかの仕事についても、「これは副大臣まで、これは局長まで」ということを最初に決めよう、と。で、当時は広報の関係でいろいろと不祥事もあった後だったから、なるべく多くのことを大臣にあげるよう指示を出した。

それで1週間ほどしたら担当部局が答えを持ってきたのだけれども、10と言ったことが10でそのまま通った。だからこっちも面喰らって「これ大丈夫なの?」って(笑)。すると、「はい。大臣がそうおっしゃったので」と言う。そういう役所だった。「ああ、そうか。それなら7へ落とすために10なんて言わず、きっちり考えて最初から7の指示を出さなきゃ」と思った。そんなことがあって、「農水省は(財務省的なのか防衛省的なのか)どっちだろう」なんてことも考えながら着任したわけだ。

それで実際に行ってみると、どちらかといえば7:3で防衛省寄りかなというところだった。恐らく財務省に近いのは、(会場の湯崎英彦広島県知事を見て)知事がおられた経産省や、私がいた経済企画庁、のちの経済財政諮問会議。ああいった経済関係のところは、「それで議論が弾むから良いんだ」という面もあるので。でも、恐らく警察や防衛のように組織で動くところはそれと逆の性質がある。

そういうことだったから、これほど長い就任になると思わなかったけれども、とにかく信頼関係を早く築くために就任当初からいろいろなことをした。通常でもまず副大臣や政務官、あるいは局長と食事に行ったりはする。ただ、それも行うけれども、農水省はかなり大きな役所だ。だから他方では大学の同級会や県人会等、縦横でいろいろな会をつくったりした。それで多くの人と飲み食いをする機会を設け、仕事と関係ないことも、馬鹿話も含めてなるべく話してしてもらえるような雰囲気をつくっていった。そのなかで、「あ、この大臣は言っても怒らないんだ」「言ってもあんまり外に言いつけないんだ」という風になればいいと考えていた。

それで、去年今年入省したような人たちとまでは行けないけれど、ある程度のクラスまではいろいろと名目をつけてそういう会を催した。で、実際にそこでさまざまな話が上がってきた。大事なのはそれを別のところでもきちんと出すこと。すると向こうにも身内感覚が芽生え、あれこれ相談してくるようになる。最初の半年ほどはそんなこともしていた。そのなかで、今まで手付かずだった米政策や農協の見直し、あるいはTPPの大きな仕事に関し、目をつむって後ろに倒れるようなことが何度かあった。私の場合、そこで梯子を外されることも心配せず、素直に倒れることができたと思う。

リーダーはオーケストラの指揮者のように振る舞うことも大切

やはり議員になりたての頃はどうしても「これをがんがん進めたい」といった思いが前に出てしまう。実際、そうした思い自体は今でもあるけれど、そこで政策もなかば分かったつもりになると、バンドであればどうしても前に出てリードギターを弾きたくなってしまう。「どうだ!」と。でも、後ろがついてこなければバンド全体のパフォーマンスは「なんだかギターの音だけ大きくてつまんないな」となってしまう。だから、ある程度の大きな組織おいて、リーダーはオーケストラ指揮者のように振る舞うべきなのだと思う。指揮者になるほどの人ならバイオリンやピアノぐらいは弾けると思うが、全楽器は演奏できない。だから自分以外の演奏者に良い音を出してもらわないといけない。「じゃあ、どうすれば一番良い音を出してもらえるのか」と、懸命に考えるわけだ。

また、それらの音が重なってハーモニーとなるときに一番大事なのは、皆がそれぞれ他の演奏者の音を聴くことができているかどうか。合唱でもオーケストラでも、そういうところにまで持っていけるのが一流の指揮者だと思う。同様に、自分と部下との関係がまず大事になるけれども、「部下同士でどんなハーモニーを築いてもらうか」「ハーモニーなっているかどうか」も大切になる。次の段階としてそういうことが少しでも分かるようになると、だんだん面白くなってくると感じる。農水省では2回ほど大きな人事を行ったが、そういうところまで分からないと人事もなかなか難しいと思う。

いずれにせよ、いろいろと仕事を進めていくうえでは、他の人がどう動いてくれるかがすごく大事になると、この世界に20年いる私としては思うようになった。最初の頃は「自分に与えられたことを頑張る」ということばかりずっと考えてきた。けれども、この歳になると少しずつ、人をどう動かすかという考えが大事になってくるし、それをするのがリーダーシップなのかなと思っている。

→日本を変革するリーダーとしての使命と自覚 ~G1中国・四国を契機に~[3]は1/24公開予定

※開催日:2015年10月16日~17日

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